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とかく性比はままならない-社会から兄が消える !?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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生物学や人口学では、雌雄の個体数の比は「性比」と呼ばれる。人口の場合は、「人口性比」とも呼ばれる。通常は、雌100個体(女性100人)に対して、雄(男性)が何個体(何人)いるかという、比の値で表される。
今回は、この性比について見ていこう。
◇ 人口性比は国によって大きく異なる
「世界国勢図絵 2021/22年版」(公益財団法人 矢野恒太記念会 編集・発行(以下の各国数値の出典、年次も同じ))によると、2020年時点で、男性の人口は約39.30億人、女性の人口は約38.65億人で、人口性比は101.7となっている。男性のほうが女性よりも1.7%ほど多いわけだ。
それでは、日本はどうか? 男性は約6175万人、女性は6472万人で、人口性比は95.4。日本では高齢化が進み、相対的に寿命の長い女性の割合が高くなっているということだろう。
この人口性比は、国ごとに大きく異なっている。まず、性比が高い国。圧倒的に高い国として、カタールがあげられる。同国の人口性比は302.4、つまり女性の3倍も男性がいる。背景には、石油資源をもとにした経済開発に伴って、海外から男性の出稼ぎ労働者を大量に受け入れている事情がある。
その観点から見ていくと、アラブ首長国連邦(223.8)、オマーン(194.1)、バーレーン(183.1)、クウェート(157.9)、サウジアラビア(137.1)といった中東の産油国で、人口性比が高い国が多い。
反対に、人口性比が低い国はどこか? ネパールの数値が目立つ。同国の人口性比は84.5。海外へ出稼ぎに出る男性労働者が多いことが、その背景にあるとみられる。
人口性比が低い国としては、ウクライナ(86.3)とロシア(86.4)もあげられる。ロシアのウクライナ侵攻に伴って、両国の男性戦闘員が戦争で生命を落とせば、人口性比がさらに低下する可能性もある。
◇ 「男児が生まれた家庭は、それ以上、子をなしてはならない」とする法律は性比に影響を与えない !?
(人口性比パズル)
ある国では、「男児が生まれた家庭は、それ以上、子をなしてはならない」とする法律を制定した。この国の性比はどうなっていくだろうか?
ただし、男児と女児の生まれる確率は半分ずつとする。また、双子や三つ子などの多胎出生は生じないものとする。さらに、海外からの人口の流入や、海外への人口の流出はないものとする。
まず、最初にお断りしておくが、これはパズルであり、実際にどこかの国でこのような法律が制定されたということではない。あくまで、架空の話である。
女児が生まれたら、それ以降も子をもうけてよいが、男児が生まれたら、それ以上、子をなしてはならない。もし、このような法律があったとしたら、まったくもって人権を無視した悪法というほかないだろう。
それでは、この国の性比はどうなっていくだろうか?
一見すると、ある家庭で、第一子が長男だったらそれまでだが、第一子が長女だったら、第二子をもうけてよい。第二子が長男だったらそれまでだが、第二子が次女だったら、第三子をもうけてよい。…という感じで、女児の数が増えていきそうな感じがする。人口性比は下がっていくように思えるかもしれない。
しかし、よく考えてみると、次の正答に行き着く。
男児が生まれた場合、本来生まれてきたはずの次子以降の性別は、男性、女性半分ずつだ。つまり、この法律があったために出生しなかった子の男女比は半々だ。ということは、出生した子の男女比も半々ということになる。すなわち、この法律は性比に影響を与えず、性比は変わらない。
読者のなかには、何か狐につままれたような気分がする人がいるかもしれない。そこで、こんな風に順を追って考えてみよう。
まず、第一子について。第一子が男児ならばそれまでで、男の一人っ子となる。これは、この法律がなくても一人っ子だったケースに加えて、この法律がなければこの男児を兄として第二子以降が生まれていたはずのケースを含んでいる。つまり、膨大な数の、男の一人っ子家庭ができる。
一方、第一子が女児ならば、第二子以降が考えられる。第二子がいなければ女の一人っ子となる。これは、この法律がなくても一人っ子だったケースだ。
第二子が生まれる場合は、第二子が男児ならばそれまでで、この家庭は姉と弟の二人きょうだいとなる。これは、この法律がなくても姉と弟の二人きょうだいだったケースに加えて、この法律がなければこの後に第三子以降が生まれていたはずのケースも含んでいる。つまり、本来よりも多くの、姉と弟の二人きょうだいの家庭ができる。
第二子が女児ならば、第三子以降が考えられる。第三子がいなければ姉と妹の二人姉妹となる。これは、この法律がなくても二人姉妹だったケースだ。
第三子が生まれる場合は、……… こんな感じで、検討は進んでいく。
ここで、まず注目したいのは、男の一人っ子だ。この法律がなくても一人っ子だったケースは、第一子が女児でこの法律がなくても一人っ子だったケースと同じだけいるだろう。
一方、男の一人っ子のうち、この法律がなければこの男児を兄として第二子以降が生まれていたはずのケースは、第一子が女児で第二子以降が生まれたケース(女の一人っ子ではないケース)と同数あるはずだ。この2つのケースについて、第一子の男児と女児は同数いる。
つまり、第一子だけをみると性比は変わらない。
次に、第一子が女児で、第二子以降が生まれる場合の第二子に注目する。この法律がなくても姉と弟の二人きょうだいだったケースは、姉と妹の二人姉妹のケースと同じだけいるはずだ。この2つのケースについて、第二子の男児と女児は同数いる。
一方、姉と弟の二人きょうだいのうち、この法律がなければこの後に第三子以降が生まれていたはずのケースは、実際に第一子女児、第二子女児の後に第三子以降が生まれたケースと同数となる。
つまり、第二子だけをみてもやはり性比は変わらない。
こんな感じで、第三子、第四子、…の性比も変わらず、結局、性比は変わらないことになる。
為政者には、この法律により性比を引き下げようといった狙いがあったかもしれないが、性比には影響がないことになる。「男児が生まれた家庭は、それ以上、子をなしてはならない」とする法律は性比に影響を与えないわけだ。
◇ 兄のいない社会
生まれてくる男児は、すべて一人っ子か、もしくは(一人もしくは複数の)姉を持つ弟となる。この社会から、兄は消えてしまうのだ。当然、男同士の兄弟もなくなる。もしかすると、「兄弟」という概念すらなくなってしまうかもしれない。
男性がすべて一人っ子か弟で、兄がいないことにより、人々に何らかの精神的な負担が生じて、そのことが男性と女性の本来の寿命に影響を及ぼす ― そのようなことになれば、結局、人口性比に影響が生じるということになるのかもしれない。
◇ 子猫は雌雄半数ずつ生まれるか ?
(子猫の性比パズル)
家で飼っている雌の猫が妊娠していることが判明した。検査の結果、子猫は4匹生まれてくるようだが、性別はまだわからない。生まれてきた子猫は雄と雌で分かれた部屋の小屋で飼うつもりだが、雌雄同数ずつ生まれる(性比100)と想定して、両方の部屋の大きさを同じにすべきだろうか?
ただし、雄の子猫と雌の子猫の生まれる確率は半分ずつとする。
さて、一見すると、子猫は雌雄2匹ずつ生まれてくる可能性が高いように思われる。
実際に子猫が(4匹ではなく、) 2匹生まれるケースを考えてみると、雄と雌が1匹ずつ生まれる確率は半分で、雄・雄と、雌・雌の確率は4分の1ずつだ。
しかし、このパズルについては少し考えてみると、次の正答に行き着く。
生まれてくる4匹の子猫をa~dとしよう。a~dそれぞれ雄と雌の可能性があるので、2の4乗、つまり16通りの雌雄のパターンがありうる。
このうち、4匹とも雄なのは1通り。3匹が雄で1匹が雌なのは、雌の1匹がa~dのいずれかだから4通り。2匹が雄、2匹が雌なのは、4匹から2匹の雄(または雌)を選ぶ場合の数で、6通り。1匹が雄で3匹が雌なのは4通り。そして、4匹とも雌なのは1通り。1、4、6、4、1に分かれるわけだ。
そうすると、雌雄2匹ずつ子猫が生まれる確率は16分の6、つまり37.5%。雌雄の比が3:1もしくは1:3の確率が16分の8で50%。残りの12.5%は、4匹とも雄または雌のケースということになる。
つまり、部屋の大きさは、同じにするよりも、3:1の比にしておくほうが、うまくいく可能性が高いということになる。
今回のパズルを応用して、子猫の数がもっと多い場合に、雌雄同数ずつ生まれる(性比100)確率を計算してみよう。
― 生まれてくる子猫の数が6匹の場合、雌雄3匹ずつの確率は64分の20で、31.25%
― 生まれてくる子猫の数が8匹の場合、雌雄4匹ずつの確率は256分の70で、約27.3%
― 生まれてくる子猫の数が10匹の場合、雌雄5匹ずつの確率は1024分の252で、約24.6%
このように、子猫の数が増えると、雌雄同数ずつ生まれる確率はどんどん下がっていく。
子猫の性比パズルは、性比が100になるよりも、そうならない可能性が高いという結果だ。
2つのパズルから見えてくることとして、人間にしても、猫にしても、とかく性比はままならないと言えそうだ。
(参考文献)
「世界国勢図絵 2021/22年版」(公益財団法人 矢野恒太記念会 編集・発行, 2021年)
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021年)
「ニュートン超図解新書 最強に面白いパラドックス」高橋昌一郎監修(ニュートンプレス, 2023年)
(2023年08月29日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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