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パロンドのパラドックス-負けるゲームを組み合わせると、勝つゲームに変わる !?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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こうした複数のプレーヤーが関わる状況について、数理的に分析や研究を行う分野として、ゲーム理論がある。ゲーム理論といえば、「囚人のジレンマ」がよく知られている。別々の部屋で尋問を受ける2人の囚人がいて、双方が協力し合って黙秘すると刑は軽くなる。だが、2人の囚人の間で連絡ができないため、それぞれの囚人は相手の囚人が黙秘を守るかどうかがわからない。その結果、2人とも自分の刑を軽くしようとして自白を選び、刑が重くなってしまう、というものだ。
ゲーム理論では、他にもいろいろな研究が行われている。その中には、2つの負けるゲームを勝つゲームに変える「パロンドのパラドックス」というものもある。今回は、これについて見ていこう。
◇ 必ず負ける2つのゲームを交互に行うと、絶対に勝つゲームに変わる!?
このパラドックスは、様々な形の具体的なゲームにアレンジされている。例えば、つぎのようなものがある。
(2つのゲーム)
AとBの2つのゲームがあります。所持金100ドルから初めて、それぞれのゲームで確率に応じて、ドルのやり取りをします。(なお、繰り返してゲームを行った結果、所持金がゼロやマイナスになった場合でも、そのままゲームを継続するものとします。)
(ゲームA) 毎回、1ドルを支払います。(常に負け)
(ゲームB) 現在の所持金が偶数の場合は、3ドルを受け取ります。(勝ち)
現在の所持金が奇数の場合は、5ドルを支払います。(負け)
一方、ゲームBを繰り返して行うとすると、まず最初の所持金が偶数の100ドルなので、3ドル受け取って103ドルとなる。次に、所持金が奇数なので、5ドル支払って、98ドルとなる。続けて、101ドル、96ドル、99ドル、94ドル、…と3ドルの増加と、5ドルの減少を繰り返しながら、所持金は徐々に減っていく。
つまり、ゲームAもゲームBも続ければ続けるほど、所持金が減っていく「必ず負けるゲーム」となっている。
それでは、この2つのゲームを、ゲームBから交互に行ったらどうなるだろうか? 最初の所持金100ドルからスタートする。まず、ゲームBで、所持金が偶数なので3ドル受け取って、103ドルになる。次に、ゲームAで、1ドル支払って所持金は102ドルとなる。続いて、ゲームBで所持金が偶数なので、3ドル受け取って105ドル。以降、104ドル、107ドル、106ドル、109ドル、…と3ドルの増加と、1ドルの減少を繰り返しながら、所持金は徐々に増加していく。
つまり、ゲームAとゲームBを交互に繰り返すと、所持金が増えていく「絶対に勝つゲーム」に変わるわけだ。
◇ 確率を加味したゲームを考えてみる
そこで、確率要素を加味したゲームを考えてみる。定義として、プレーヤーの受取額の期待値がマイナスのゲームを「負けるゲーム」、プラスのゲームを「勝つゲーム」と呼ぶことにする。そのうえで、ある確率で勝ったり負けたりする、次のゲームを考えてみよう。
(2つのゲーム (確率要素を加味))
CとDの2つのゲームがあります。所持金100ドルから初めて、それぞれのゲームで確率に応じて、ドルのやり取りをします。(なお、繰り返してゲームを行った結果、所持金がゼロやマイナスになった場合でも、そのままゲームを継続するものとします。)
(ゲームC) 51%の確率で、1ドルを支払います。(負け)
49%の確率で、1ドルを受け取ります。(勝ち)
(ゲームD) 現在の所持金が3の倍数の場合
91%の確率で、1ドルを支払います。(負け)
9%の確率で、1ドルを受け取ります。(勝ち)
現在の所持金が3の倍数ではない場合
26%の確率で、1ドルを支払います。(負け)
74%の確率で、1ドルを受け取ります。(勝ち)
◇ ゲームCとゲームDはいずれも負けるゲーム
まず、ゲームCは、1回のゲームでの負けの確率が勝ちの確率よりも少し大きい。ゲームCを繰り返して行えば、徐々に負けが込んで、所持金は減少していくだろう。ゲームCは負けるゲームということになる。
一方、ゲームDは見当がつきにくい。現在の所持金が3の倍数かどうかで、勝ちの確率が異なるためだ。
もし、所持金が3の倍数の状態が3分の1の割合で起こるならば、1回のゲームでの勝ちの確率は、
9% × 3分の1 + 74% × 3分の2 = 52.33%
と計算できて、50%を超えるため、ゲームDは平均的には勝つゲームということになる。ゲームDを繰り返して行えば、徐々に勝ちが負けよりも多くなり、所持金は増加していくことになるのだが…。
問題は、所持金が3の倍数の状態がどのくらいの割合で起こるのかということになる。これは、繰り返し行うゲームの展開しだいで揺れ動く。
今回のゲームでは、繰り返して行うと、所持金が3の倍数、3の倍数+1、3の倍数+2、の3つの状態のうち、どの状態になりやすいか(またはなりにくいか)が徐々に定まってくる。何千回、何万回も繰り返した場合、各状態の発生は一定の割合に収れんしていく。(※) その究極の状態を定常状態と呼ぶことにしよう。
(※)収れんについて、数学的には、マルコフ連鎖と呼ばれる状態の推移において、遷移確率の極限の挙動を検証する必要がある。重要な検討事項なのだが、今回は、そこには立ち入らないことにする。
定常状態で、所持金が3の倍数となる状態の割合をx0、3の倍数+1となる状態の割合をx1、3の倍数+2となる状態の割合をx2とおいてみよう。すると、つぎの関係式が導かれる。
所持金が3の倍数となるのは、3の倍数+1の状態で負けたときと、3の倍数+2の状態で勝ったときだから、
x0 = x1×26% + x2×74%
所持金が3の倍数+1の状態と3の倍数+2の状態についても同様に、
x1 = x2×26% + x0× 9%
x2 = x0×91% + x1×74%
となる。(なお、これら3つの関係式を両辺でそれぞれ合計すると、いずれも(x0+x1+x2)となるため、実際には、関係式として3本ではなく、2本分の意味しか持っていない)
そして、x0とx1とx2の合計は1だから、
x0 + x1 + x2 = 1
これらを連立方程式として解くと、x0=0.382、x1=0.155、x2=0.463となる。
この定常状態から、つぎの1回のゲームで獲得できる金額は、
x0×(9%-91%)+x1×(74%-26%)+x2×(74%-26%)=-0.017
と計算でき、平均して毎回0.017ドル支払うこととなる。
実際には、毎回のゲームの結果しだいで、ドルの受け取りや支払いがあり、状態が変わるわけだが、定常状態をもとに平均的な獲得額を計算すると、平均的にマイナス、つまり支払いとなるわけだ。すなわち、ゲームDは負けるゲームといえる。
(2023年06月20日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
篠原 拓也のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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