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歪んだコインの活用法-フィフティ・フィフティの確率をどう作る?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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その代表例が、サッカーの試合前に行われるコイントスだ。コイントスに勝ったチームは、「前半にどちらのゴールを攻めるか」、または「前半にキックオフをするか」のいずれかを決定できる。ゴールを選んだ場合は、コイントスに負けたチームのキックオフで試合が始まる。キックオフを選んだ場合は、コイントスに負けたチームが「前半にどちらのゴールを攻めるか」を決める。
もう1つの例は、最近、大ヒットしたアニメ「鬼滅の刃」のワンシーンからだ。鬼殺隊の女性剣士である栗花落(つゆり)カナヲは、当初、自分で物事を決断できないときにコインを投げ、出た結果に従って行動していた。
一般の人が、日常生活で、コイントスをして物事を決めるということはあまりないかもしれない。だが、数学の確率や統計の分野では、コインを使った問題がよく出される。多くの場合、問題で用いられるコインは、表と裏が半分ずつの確率で出るとみなせる、歪みのないコインだ。これは「公正なコイン」と呼ばれる。
では、明らかに折れ曲がっていて、どう見ても表と裏が半々の確率で出るとは思われないような、公正ではないコイン、つまり「歪んだコイン」は、全く役に立たないのか? 例えば、サッカーの試合で主審がポケットから取り出してみたら、歪んだコインだったというようなときは、コイントスをあきらめるしかないのか? 本稿では、歪んだコインの活用法について考えてみよう。
◇ コインを1回投げただけでは半々の確率は得られないが…
ここで、これからの話をクリアにするために、表記について簡単な決めごとをしておく。コインを1回投げて表がでたら“H”、裏が出たら“T”と表記する。Hは“Head(表)”、Tは“Tail(裏)”の頭文字だ。そして、そのうえで、コインを1回投げたときの表や裏であるHやTとは別に、「表」と「裏」を新たに定義する。かぎ括弧書きの「表」や「裏」の表記は、新たに定義よって定められるものとする。
ここで、歪んだコインに1つ条件を付ける。コインは歪んではいるが、投げればHもTも出る可能性があるとする。もし、絶対にHかTの片方だけしか出ないほど、コインが歪んでいるようなら、さすがに、そのコインを使うのはあきらめたほうがよいだろう。
もう1つ、歪んだコインに重要な条件を付ける。コインを何回か続けて投げたとしても、各回にHとTの出る確率は変わらないという条件だ。つまり、確率の用語でいう、各回の「独立性」を条件とする。例えば、粘土で作ったような軟らかいコインがあったとすると、何回か投げているうちに歪みが大きくなり、各回でHとTの出る確率が変わってしまうかもしれない。ここでは、そういうコインは使わないことにする。
さて、これらの条件の下で、歪んだコインを2回投げるとする。1回目、2回目の順に記号を書くことにすると、HH、HT、TH、TTの4通りの結果がありうる。
ここで、注意したいのは、HTとTHだ。この2つは、HとTが1回ずつ出ている。1回目と2回目でHとTの出る確率は変わらない(独立性)としているので、HTとTHは同じ確率で出ることになる。
このことを使うと、次のような定義が考えられる。
歪んだコインを使ったときの「表」と「裏」の定義
・コインを2回投げて、HTが出たら「表」、THが出たら「裏」とする。
・HHやTTが出たら、再度、コインを2回投げる。HTかTHが出るまで、これを繰り返す。
◇ コインを何回も投げることになってしまう
例えば、歪みが小さいコインで、Hが出る確率が60%、Tが出る確率が40%だとすると、HTかTHが出て2回のコイン投げで決着がつく確率は48%。HHかTTが出てやり直しとなる確率は、52%となる。決着がつくまでの平均的なやり直しの度数は、約1.083度。つまり、平均的には、1度やり直せば(4回コインを投げれば)、決着がつく計算だ。
だが、歪みが大きいコインで、Hが出る確率が80%、Tが出る確率が20%だとすると、HTかTHが出て2回のコイン投げで決着がつく確率は32%。HHかTTが出てやり直しとなる確率は、68%となる。決着がつくまでの平均的なやり直しの度数は、2.125度。つまり、平均的には、2度以上やり直さないと(6回以上コインを投げないと)、決着がつかないことになる。
◇ 「表」と「裏」の定義を拡張して、コインを投げる回数を減らす
先ほどの定義では、コインを2回投げて、HHかTTが出たら、やり直しとなる。やり直しとなった3回目と4回目のコイン投げでHHかTTが出たら、またやり直すことになる。
1回目と2回目でHH、3回目と4回目でTTが出るケース、つまりHHTTが出るケースを考えてみよう。これと真逆のTTHHが出るケースと比べると、どちらもHが2回、Tが2回出ているのだから、両者の出る確率は同じはずだ。このことを使えば、決着がつきやすくなるように定義ができる。
つまり、次のように定義を拡張できる。
歪んだコインを使ったときの「表」と「裏」の定義 [拡張版]
・コインを2回投げて、HTが出たら「表」、THが出たら「裏」とする。
・HHやTTが出たら、再度、コインを2回投げる。(ここまでは、先ほどと同じ)
・再度投げた2回のコインがHHやTTだったとしても、4回のトータルで見たときに、HHTTが出ていたら「表」、TTHHが出ていたら「裏」とする。
・「表」か「裏」の決着がつくまで、これを繰り返す。
例えば、Hが出る確率が60%、Tが出る確率が40%の歪みが小さいコインの場合、1度のやり直しまでに(4回コインを投げるまでに)決着がつく確率は、72.96%(定義拡張前)から84.48%に上昇する。
Hが出る確率が80%、Tが出る確率が20%の歪みが大きいコインでも、1度のやり直しまでに決着がつく確率は53.76%から58.88%に上昇する。
じつは、「表」と「裏」の定義をさらに拡張して、
・4回のコインがHHHHやTTTTだったとしても、8回のトータルで見たときに、HHHHTTTTが出ていたら「表」、TTTTHHHHが出ていたら「裏」
さらにさらに拡張して、
・8回のコインがHHHHHHHHやTTTTTTTTだったとしても、16回のトータルで見たときに、HHHHHHHHTTTTTTTTが出ていたら「表」、TTTTTTTTHHHHHHHHが出ていたら「裏」
さらにさらにさらに拡張して、
・16回のコインがHHHHHHHHHHHHHHHHやTTTTTTTTTTTTTTTTだったとしても、32回のトータルで見たときに、…………
(いい加減くどいので、以下、省略)
という感じで、どんどん進めていくことも可能だ。
このように、フィフティ・フィフティの確率を作り出すために、歪んだコインを投げる回数を削減していくことができる。
◇ 立ち止まって光景を思い浮かべてみる
サッカーの試合開始前、両チームの選手が入場して、スタジアムに詰めかけた観衆が最高潮の盛り上がりをみせるなかで、主審が何回もコイントスを繰り返すシーン。
栗花落カナヲが、決断を行うに際して、何回も何回もコインを投げるシーン。
どちらも、絵にならない。ハッキリ言って興ざめだ。やはり、コイン投げは、1回でスパッと決着がつくところに味がある。
サッカーでは、間もなく、11月20日に4年に1度のワールドカップが始まる。世界が注目する大会だ。
主審には、試合の前に、ポケットに入れたコインが歪んでいないかどうか、ぜひ確認しておいてもらいたいものだ。
(参考文献)
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021)
(2022年11月08日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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