コラム
2024年09月10日

モンティ・ホール問題とベイズ推定-追加情報に応じて取るべき行動をどう変えるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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◇ ドアが5つでアタリが2つあり、司会者がハズレのドアを2つ開く問題 (変形その2)

もっと複雑な変形版の問題を考えてみよう。
 
ドアの数を3つではなく、5つに増やす。そのうち、アタリのドアは2つ。そして、司会者が開くドアの数をハズレのドア1つではなく、ハズレのドア2つにする。
 
問題文を書くと、次のような感じだ。
 

(変形その2(ドアは5つ(うちアタリ2つ)で、司会者はハズレを2つ開く場合))
解答者の目の前には(1)、(2)、(3)、(4)、(5)の5つのドアがある。このドアの部屋のうち2つに宝物が入っていてそのドアはアタリ、残り3つはハズレとなる。解答者はアタリのドアを当てたら宝物をもらえる。解答者は、どれか1つの部屋を選ぶように言われる。選んだ後、答えを知っている司会者は、解答者が選んでいない4つの部屋のうちハズレの部屋のドアを2つ開ける。そして、「もう一度よく考えてみてください。最初に選んだ(1)のままにしますか? それとも選択を変えますか?」と問う。

このとき、解答者は最初に選んだ(1)のままにすべきか、それとも選択を変えるべきか?

ベイズの定理を使って、問題を解いてみよう。
 
まず、事象を表す記号については、先ほどまでと同様とする。ただし、今回の変形版では、司会者が開くドアが2つなので、B2∩B3を司会者がドア(2)とドア(3)を開く事象、などと表す。
 
各事象の確率を考えてみよう。まず、A1、A2、A3、A4、A5は同じ確率で起こると見てよいだろう。したがって、P(A1)=P(A2)=P(A3)=P(A4)=P(A5)=2/5。
 
また、「かつ」事象の確率について、A1∩A2、A1∩A3、A1∩A4、A1∩A5、A2∩A3、A2∩A4、A2∩A5 、A3∩A4、A3∩A5、A4∩A5は同じ確率で起こると見てよいだろう。したがって、P(A1∩A2)=P(A1∩A3)=P(A1∩A4)=P(A1∩A5)=P(A2∩A3)=P(A2∩A4)=P(A2∩A5)=P(A3∩A4)=P(A3∩A5)=P(A4∩A5)=1/10。
 
次に、P(B2∩B3|A1∩A2)を考えてみる。ドア(1)と(2)にアタリがある場合に、司会者がドア(2)とドア(3)を開く確率だ。だがこの場合に、司会者がアタリであるドア(2)を開くことはありえない。したがって、P(B2∩B3|A1∩A2)=0。
 
一方、P(B3∩B4|A1∩A2)は、ドア(1)と(2)にアタリがある場合に、司会者がドア(3)とドア(4)を開く確率だ。この場合、司会者が開く2つのドアとして、(3)と(4)、(3)と(5)、(4)と(5)の3通りが考えられ、それらの確率は等しいと見られる。つまり、P(B3∩B4|A1∩A2)=1/3。
 
つづいて、P(B2∩B3|A2∩A3)を考えてみる。ドア(2)と(3)にアタリがある場合に、司会者がそれらのドアを開く確率だが、そんなことはありえない。したがって、P(B2∩B3|A2∩A3)=0。これと同様に考えて、P(B2∩B4|A2∩A3)=0。この場合、司会者はドア(4)と(5)を開くしかないため、P(B4∩B5|A2∩A3)=1。
 
これらをまとめると、次のようになる。
 
P(Bi∩Bj|A1∩Ak) = 0 (k=iまたはk=jのとき)、1/3 (k≠iかつk≠jのとき) (ただし、i, j, kは1以外とする。)
 
P(Bi∩Bj|As∩At) = 0 (i, jの少なくとも一方がs, tと一致するとき)、1 (i, j, s, tが異なるとき) (ただし、i, j, s, tは1以外とする。)
 
ここで、ベイズの定理を用いて確率の計算を行う。まず、解答者が最初に選んだドアを変えなかった場合のアタリの確率を計算してみる。司会者がドア(2)とドア(3)を開けた場合にドア(1)がアタリの確率は、次のようになる。(計算途中、…で省略している部分は、A1∩A2からA4∩A5までの10個の項の和。また、分子と分母に出てくるP(Ai∩Aj)はどれも1/10なので約分し、数字としては表示しない。)

P(A1|B2∩B3)
=P(A1∩A2|B2∩B3)+P(A1∩A3|B2∩B3)+P(A1∩A4|B2∩B3)+P(A1∩A5|B2∩B3)
=P(A1∩A4|B2∩B3)+P(A1∩A5|B2∩B3)
=P(B2∩B3|A1∩A4)/{P(B2∩B3|A1∩A2)×P(A1∩A2)+…+P(B2∩B3|A4∩A5)×P(A4∩A5)}×P(A1∩A4)
+P(B2∩B3|A1∩A5)/{P(B2∩B3|A1∩A2)×P(A1∩A2)+…+P(B2∩B3|A4∩A5)×P(A4∩A5)}×P(A1∩A5)
=1/3 /{0+0+1/3+1/3+0+0+0+0+0+1}+1/3 /{0+0+1/3+1/3+0+0+0+0+0+1}
=2/5
 
次に、解答者が最初に選んだドアを変えた場合のアタリの確率を計算してみる。司会者がドア(2)とドア(3)を開けた場合にドア(4)がアタリの確率は、

P(A4|B2∩B3)
=P(A1∩A4|B2∩B3)+P(A2∩A4|B2∩B3)+P(A3∩A4|B2∩B3)+P(A4∩A5|B2∩B3)
=P(A1∩A4|B2∩B3)+P(A4∩A5|B2∩B3)
=P(B2∩B3|A1∩A4)/{P(B2∩B3|A1∩A2)×P(A1∩A2)+…+P(B2∩B3|A4∩A5)×P(A4∩A5)}×P(A1∩A4)
+P(B2∩B3|A4∩A5)/{P(B2∩B3|A1∩A2)×P(A1∩A2)+…+P(B2∩B3|A4∩A5)×P(A4∩A5)}×P(A4∩A5)
=1/3 /{0+0+1/3+1/3+0+0+0+0+0+1}+1 /{0+0+1/3+1/3+0+0+0+0+0+1}
=4/5
 
事象の対称性を用いて、計算結果をまとめると、この変形版の問題では、司会者がハズレのドアを2つ開いた後、解答者が最初に選んだドアを変えない場合、そのドアがアタリの確率は2/5。解答者がドアを変えた場合、変えたドアがアタリの確率は4/5となる。つまり、確率を上げるために、選択を変えるべきということになる。
 

◇ ドアが5つでアタリが2つあり、司会者がアタリとハズレのドアを1つずつ開く問題 (変形その3)

元々のモンティ・ホール問題や、変形その2のように司会者がハズレのドアを開く場合には選択を変えるべき。変形その1のように司会者がアタリのドアを開く場合には、最初に選んだドアのままにすべき、という結果となった。それでは、司会者が開くドアがアタリとハズレ1つずつの場合はどうすべきか。3つめの変形版の問題を考えてみよう。
 

(変形その3(ドアは5つ(うちアタリ2つ)で、司会者はアタリとハズレを1つずつ開く場合))
解答者の目の前には(1)、(2)、(3)、(4)、(5)の5つのドアがある。このドアの部屋のうち2つに宝物が入っていてそのドアはアタリ、残り3つはハズレとなる。解答者はアタリのドアを当てたら宝物をもらえる。解答者は、どれか1つの部屋を選ぶように言われる。選んだ後、答えを知っている司会者は、解答者が選んでいない4つの部屋のうちアタリとハズレの部屋のドアを1つずつ開ける。そして、「もう一度よく考えてみてください。最初に選んだ(1)のままにしますか? それとも選択を変えますか?」と問う。

このとき、解答者は最初に選んだ(1)のままにすべきか、それとも選択を変えるべきか?

さっそくベイズの定理を使って、問題を解いてみよう。
 
事象を表す記号については、先ほどと同様とする。P(Ai)やP(Ai∩Aj)の確率も先ほどと同じだ。先ほどと違ってくるのは、条件付確率で次のようになる。
 
P(Bi∩Bj|A1∩Ak) = 1/3 (k=iまたはk=jのとき)、0 (k≠iかつk≠jのとき) (ただし、i, j, kは1以外とする。)
 
P(Bi∩Bj|As∩At) = 1/4 (i, jの片方がs, tの片方と一致するとき)、0(i, jがs, tと両方とも一致するか、またはi, j, s, tが異なるとき) (ただし、i, j, s, tは1以外とする。)                    
 
ベイズの定理を用いて確率の計算を行う。まず、解答者が最初に選んだドアを変えなかった場合のアタリの確率を計算してみる。司会者がドア(2)とドア(3)を開けた場合にドア(1)がアタリの確率は、次のようになる。

P(A1|B2∩B3)
=P(A1∩A2|B2∩B3)+P(A1∩A3|B2∩B3)+P(A1∩A4|B2∩B3)+P(A1∩A5|B2∩B3)
=P(A1∩A2|B2∩B3)+P(A1∩A3|B2∩B3)
=P(B2∩B3|A1∩A2)/{P(B2∩B3|A1∩A2)×P(A1∩A2)+…+P(B2∩B3|A4∩A5)×P(A4∩A5)}×P(A1∩A2)
+P(B2∩B3|A1∩A3)/{P(B2∩B3|A1∩A2)×P(A1∩A2)+…+P(B2∩B3|A4∩A5)×P(A4∩A5)}×P(A1∩A3)
=1/3 /{1/3+1/3+0+0+0+1/4+1/4+1/4+1/4+0}+1/3 /{1/3+1/3+0+0+0+1/4+1/4+1/4+1/4+0}
=2/5
 
次に、解答者が最初に選んだドアを変えた場合のアタリの確率を計算してみる。司会者がドア(2)とドア(3)を開けた場合にドア(4)がアタリの確率は、

P(A4|B2∩B3)
=P(A1∩A4|B2∩B3)+P(A2∩A4|B2∩B3)+P(A3∩A4|B2∩B3)+P(A4∩A5|B2∩B3)
=P(A2∩A4|B2∩B3)+P(A3∩A4|B2∩B3)
=P(B2∩B3|A2∩A4)/{P(B2∩B3|A1∩A2)×P(A1∩A2)+…+P(B2∩B3|A4∩A5)×P(A4∩A5)}×P(A2∩A4)
+P(B2∩B3|A3∩A4)/{P(B2∩B3|A1∩A2)×P(A1∩A2)+…+P(B2∩B3|A4∩A5)×P(A4∩A5)}×P(A3∩A4)
=1/4 /{1/3+1/3+0+0+0+1/4+1/4+1/4+1/4+0}+1/4 /{1/3+1/3+0+0+0+1/4+1/4+1/4+1/4+0}
=3/10
 
事象の対称性を用いて、計算結果をまとめると、この変形版の問題では、司会者がアタリとハズレのドアを1つずつ開いた後、解答者が最初に選んだドアを変えない場合、そのドアがアタリの確率は2/5。解答者がドアを変えた場合、変えたドアがアタリの確率は3/10となる。つまり、アタリの確率から見て、最初に選んだドアのまま選択を変えるべきではないということになる。

◇ 追加情報のとらえ方-追加情報に応じて取るべき行動をどう変えるか?

モンティ・ホール問題とその変形版の問題を、ベイズの定理を使って解いてみた。各問題の設定、追加情報、確率の計算結果をまとめてみよう。
 
(モンティ・ホール問題)
設定:ドア3個(うちアタリ1個)、追加情報:司会者はドア1個(うちアタリ0個)を開ける
ドアを開ける前の時点での(1)ドアがアタリの確率 (以下、事前確率) 1/3
→ドアを開けた後の時点での(1)とは別のドアを開けたときのアタリの確率 (以下、事後確率) 2/3
 
(変形その1)
設定:ドア3個(うちアタリ2個)、追加情報:司会者はドア1個(うちアタリ1個)を開ける
事前確率 2/3 → 事後確率 1/3
 
(変形その2)
設定:ドア5個(うちアタリ2個)、追加情報:司会者はドア2個(うちアタリ0個)を開ける
事前確率 2/5 → 事後確率 4/5
 
(変形その3)
設定:ドア5個(うちアタリ2個)、追加情報:司会者はドア2個(うちアタリ1個)を開ける
事前確率 2/5 → 事後確率 3/10
 
この結果をよく見てみると、次のこと(命題)に気がつく。
― 事前確率と事後確率を(加重)平均すると、司会者がドアをいくつか開けた後にまだ閉じたままになっているドアでのアタリの確率に等しい
 
モンティ・ホール問題の場合、       (1/3 + 2/3) / 2     = 1/2
その変形1の場合、           (2/3 + 1/3) / 2       = 1/2
その変形2の場合、選択変更方法が2つあり、(2/5 + 2×4/5) / 3   = 2/3
その変形3の場合、選択変更方法が2つあり、(2/5 + 2×3/10) / 3 =  1/3

となっていて、確かに命題が成り立っている。
 
問題を一般化して、この命題を記号で表してみよう。
 
(一般化したモンティ・ホール問題)
設定:ドアN個(うちアタリW個)、追加情報:司会者はドアn個(うちアタリw個)を開ける
事前確率 W/N → 事後確率 P
 
[命題]
(W/N + (N-n-1)×P) / (N-n) = (W-w) / (N-n)
 
もしこの命題が成り立つのであれば、この式をPについて解くことで、

P = (N-1-N×w/W)/ (N-1-n) × W/N

と表すことができる。事前確率W/Nの前に掛け算されている分数の部分が、1より大きければ事後確率のほうが大きくなり選択を変えるべき、1より小さければ事後確率のほうが小さくなり最初の選択を変えるべきではない、ということになる。
 
これは分数部分の分子と分母の3項めどうしを比較して、N×w/Wとnの大小関係で決まる。

つまり、

W/N>w/nならば、分子>分母となり、事後確率>事前確率で、選択を変えるべき
W/N=w/nならば、分子=分母となり、事後確率=事前確率で、選択はどらちでも変わらない
W/N<w/nならば、分子<分母となり、事後確率<事前確率で、選択を変えるべきではない

ということになる。ベイズ推定により、問題の設定と、司会者の開くドアによる追加情報に応じて、解答者はどう行動するべきか、が明らかになったわけだ。
 
あとは、この命題が成り立つかどうかが問題となる。これについてはどうやら成り立つことが示せる。ただし、その説明は、記号や場合の数をバンバン使った複雑なものとなる。次ページ以下で、(参考)として記述するので、興味のある方はご覧いただきたい。

(参考文献等)
 
「確率統計演習1 確率」国沢清典編(培風館, 1966年)
 
“Monty Hall problem”(Wikipedia)

(2024年09月10日「研究員の眼」)

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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