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- インド経済の見通し~政府支出の加速と農業部門の回復により6%台後半の高成長軌道が続く
2024年09月05日
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GDP統計の結果:5四半期ぶりに6%台に減速

産業部門別に見ると、まず第三次産業が同+7.2%(前期:同+6.7%)と加速した。行政・国防(同+9.5%)と貿易・ホテル・交通・通信(同+5.7%)が加速した一方、金融・不動産(同+7.1%)が鈍化した。
第二次産業は同+8.3%(前期:同+8.4%)と好調を維持した。建設業が同+10.5%(前期:同+8.7%)、電気・ガスが同+10.4%(前期:同+7.7%)、鉱業が同+7.2%(前期:同+8.9%)と加速したものの、シェアの大きい製造業が同+7.0%(前期:同+8.9%)が鈍化した。
第一次産業は同+2.0%(前期:同+0.6%)と加速したが、熱波などの悪天候の影響により播種が遅れて緩やかな伸びにとどまった。
1 8月30日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2024年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済概況:統計誤差の要因で成長率低下も、消費・投資・輸出が揃って加速
2023年度は世界的な景気減速と物価上昇、インド準備銀行(RBI)の金融引き締めが逆風となったにもかかわらず、インド経済は堅調な国内需要に支えられて3年連続で年間+7%以上の成長が続いたが、今回発表されたGDP統計では2024年4-6月期の成長率が前年同期比+6.7%となり、5四半期ぶりに7%割れの成長となった。
4-6月期の成長率低下は統計誤差や総選挙中の政府支出の減少による影響が大きい。過去2四半期はGDP成長率が産業部門別の粗付加価値(GVA)成長率を1%ポイント以上も上回る状況が続いていた。この乖離は主に純間接税(間接税-補助金)によるものだが、4-6月期は純間接税の増勢が鈍化したためGDP成長率が低下した。なおGVA成長率は同6.8%(前期:同6.3%)と上昇したため、2つの成長率の乖離は縮小している。
また政府消費(▲0.2%)が低調だったことも成長率低下に繋がった。4-6月期は総選挙を控えて政府支出が制限されていたためだ(図表3)。
一方で民間消費と投資、純輸出はそれぞれ改善した。まずGDPの約7割を占める民間消費(同7.4%)は前期の同4.0%から加速して7四半期ぶりの高い伸びとなった。4-6月期は総選挙関連の支出拡大が主に農村部の消費需要を押し上げた。また4-6月期の失業率が6.6%と低水準で推移するなど都市部では雇用情勢が安定しており消費需要が高水準を維持したとみられる(図表4)。
4-6月期の成長率低下は統計誤差や総選挙中の政府支出の減少による影響が大きい。過去2四半期はGDP成長率が産業部門別の粗付加価値(GVA)成長率を1%ポイント以上も上回る状況が続いていた。この乖離は主に純間接税(間接税-補助金)によるものだが、4-6月期は純間接税の増勢が鈍化したためGDP成長率が低下した。なおGVA成長率は同6.8%(前期:同6.3%)と上昇したため、2つの成長率の乖離は縮小している。
また政府消費(▲0.2%)が低調だったことも成長率低下に繋がった。4-6月期は総選挙を控えて政府支出が制限されていたためだ(図表3)。
一方で民間消費と投資、純輸出はそれぞれ改善した。まずGDPの約7割を占める民間消費(同7.4%)は前期の同4.0%から加速して7四半期ぶりの高い伸びとなった。4-6月期は総選挙関連の支出拡大が主に農村部の消費需要を押し上げた。また4-6月期の失業率が6.6%と低水準で推移するなど都市部では雇用情勢が安定しており消費需要が高水準を維持したとみられる(図表4)。
総固定資本形成(同+7.5%)も加速した。4-6月期の中央政府の資本支出は前年同期比▲35%の1兆8,105億ルピーと低調だったため、民間投資が回復したようだ。1-3月期から総選挙の行方を様子見していた企業が6月の選挙結果判明後に投資再開に動いたと考えられる。
純輸出は財・サービス輸出が同+8.7%となり、前期の同+8.1%から更に改善した。欧州と中東で紛争が続く中、インドは輸出の堅調さを維持している。通関ベースの貿易統計をみるかぎりモノの輸出に増加傾向がみられる(図表5)。またサービス輸出はインバウンド需要の拡大により増加傾向が続いているものの、その増勢は鈍化しつつあるようだ。4-6月期の外国人訪問者数は同+5.8%の196万人となり、1-3月期の同11.5%から大きく鈍化した(図表6)。一方、財・サービス輸入は同+4.4%と、輸出を下回る伸びにとどまった結果、純輸出の成長率寄与度は+0.7%ポイント(前期:0.1%ポイント)と拡大した。
以上よりインド経済は4-6月期に成長率が低下したが、統計誤差や選挙要因によるものであり、一時的な減速となりそうだ。むしろ民間投資と民間消費、輸出は加速している上、インフレは緩和しており、全体的にみると好調な状態にあると見受けられる。
純輸出は財・サービス輸出が同+8.7%となり、前期の同+8.1%から更に改善した。欧州と中東で紛争が続く中、インドは輸出の堅調さを維持している。通関ベースの貿易統計をみるかぎりモノの輸出に増加傾向がみられる(図表5)。またサービス輸出はインバウンド需要の拡大により増加傾向が続いているものの、その増勢は鈍化しつつあるようだ。4-6月期の外国人訪問者数は同+5.8%の196万人となり、1-3月期の同11.5%から大きく鈍化した(図表6)。一方、財・サービス輸入は同+4.4%と、輸出を下回る伸びにとどまった結果、純輸出の成長率寄与度は+0.7%ポイント(前期:0.1%ポイント)と拡大した。
以上よりインド経済は4-6月期に成長率が低下したが、統計誤差や選挙要因によるものであり、一時的な減速となりそうだ。むしろ民間投資と民間消費、輸出は加速している上、インフレは緩和しており、全体的にみると好調な状態にあると見受けられる。
(物価の動向)食品供給の拡大により落ち着いた推移に

先行きのインフレはRBIの金融引締め策が続くなか、6~9月の南西モンスーンの降雨状況が平年を+8%上回り、カリフ作物の播種も前年比+1.9%と順調だったため、収穫期の10月以降は食品の供給量が拡大して価格の上昇圧力が和らぐと予想される。しかしながら、未だコロナ禍からの回復の途上にある農村部の消費需要の拡大など今後も内需の堅調な拡大が予想されるため、インフレ率は短期的に底入れして緩やかな上昇に転じるだろう。このほか、異常気象や地政学的緊張を背景とする食品価格やエネルギー価格の不確実性は引き続きインフレリスクとなる一方、早ければ今年9月に米国が利下げに踏み切ると、通貨ルピーの下落圧力が後退してインフレの安定に繋がるとみられる。
結果として、今後インフレ率は再び上向いて4%台に上昇するだろうが、昨年と比べると落ち着いた推移となり、食品価格が高騰した23年度の+5.4%から24年度が+4.3%に低下すると予想する。
(金融政策の動向)24年度後半に2回の利下げを予想

先行きは、RBIが金融緩和に舵を切ると予想する。足元では先行きの食品インフレに対する警戒感が和らぐと共に、4-6月期の成長率が低下したことから、今後RBIはタカ派的な姿勢を弱めるだろう。また9月には米国が利下げに動くとみられており、今後はインドからの資金流出圧力が和らぎ通貨ルピーの安定性が向上するとみられる。従って、RBIは10月の会合で金融政策のスタンスをニュートラルにシフトし、12月の会合で利下げを開始、年度末にかけて追加利下げを実施すると予想する。
(経済見通し) 農業部門の回復とインフラ投資の拡大により高成長軌道を維持
先行きのインド経済は7-9月期に回復して2四半期連続の減速を回避し、24年度後半も6%台後半の成長ペースが続くだろう。
2024年度前半は総選挙を控えて政府支出が抑制されたが、今後は予算執行が加速するため政府消費と公共投資がGDPを押し上げる展開となりそうだ。民間部門は高金利環境の長期化が重石となるが、コスト圧力が和らぎ消費と企業活動が活発化するため堅調に推移するだろう。6-9月の南西モンスーンは十分な降水量をもたらしたため、カリフ作の収穫量が拡大すると予想され、今後は農村部の消費需要の回復が進むほか、食品価格の安定も見込まれる。特に10-12月期は多くのインド人が高額商品を購入する祭事期にあたり消費が活発化しやすい。また民間投資も第3次モディ政権の発足により生産連動型インセンティブ制度をはじめとした成長重視の政策が続くと判断した企業が投資を再開して堅調な伸びが続くとみられる。中国に依存したサプライチェーンを多様化する企業の動きも引き続き投資の追い風となるだろう。
2024年度前半は総選挙を控えて政府支出が抑制されたが、今後は予算執行が加速するため政府消費と公共投資がGDPを押し上げる展開となりそうだ。民間部門は高金利環境の長期化が重石となるが、コスト圧力が和らぎ消費と企業活動が活発化するため堅調に推移するだろう。6-9月の南西モンスーンは十分な降水量をもたらしたため、カリフ作の収穫量が拡大すると予想され、今後は農村部の消費需要の回復が進むほか、食品価格の安定も見込まれる。特に10-12月期は多くのインド人が高額商品を購入する祭事期にあたり消費が活発化しやすい。また民間投資も第3次モディ政権の発足により生産連動型インセンティブ制度をはじめとした成長重視の政策が続くと判断した企業が投資を再開して堅調な伸びが続くとみられる。中国に依存したサプライチェーンを多様化する企業の動きも引き続き投資の追い風となるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年09月05日「Weekly エコノミスト・レター」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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