2024年08月13日

インド消費者物価(24年7月)~7月のCPI上昇率は食品価格が鈍化して約5年ぶりの水準まで低下

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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インド統計・計画実施省が8月12日に公表した消費者物価指数(以下、CPI)によると、24年7月のCPI上昇率は前年同月比3.5%と、前月の同5.1%から低下(図表1)、事前の市場予想1(同3.6%)を小幅に下回る結果だった。

地域別の上昇率をみると、都市部が前年同月比3.0%(前月:同4.4%)、農村部が同4.1%(前月:同5.7%)となり、それぞれ低下した。

7月のCPIの内訳をみると、主に食品価格の低下が全体を押し下げた。

まず食品は前年同月比5.4%となり、前月の同9.4%から低下した(図表2)。食品のうち、8ヵ月連続で二桁増を続けていた野菜(同6.8%)が大きく鈍化した。野菜価格は季節的な要因によりインドで日常的に必須な野菜とされるジャガイモが前月比16.6%、タマネギが同20.5%、トマトが同41.8%と価格高騰が続いているが、昨年の高騰と比べて今年の値上がりは小幅だった。野菜のほか、香辛料(前年同月比▲1.4%)と食用油(同▲1.2%)が下落したほか、牛乳・乳製品(同3.0%)、加工食品(同3.5%)、果物(同3.8%)は落ち着いた値動きとなった。一方、豆類(同14.8%)と穀物製品(同8.1%)は高止まりした。

燃料・電力は前年同月比▲5.5%となり、11ヵ月連続でマイナス圏での推移となった。

コアCPI(食品、燃料を除く総合)は前年同月比3.4%(前月:同3.1%)と上昇した。教育(同3.4%)や住宅(同2.7%)、衣服・靴(同2.7%)、家庭用品・サービス(同2.3%)、娯楽(同2.2%)が落ち着いた伸びとなったが、パーソナルケア(同8.4%)と輸送・通信(同2.5%)が前月から上昇した。なお、輸送・通信は主に携帯電話料金の値上げによる影響で上昇した。
(図表1)消費者物価上昇率/(図表2)食品価格指数の要因分解
CPI上昇率は今年+5%前後の水準で推移していたが、7月は野菜や果物を中心に食品価格が鈍化して2019年8月以来の低水準となり、インド準備銀行(RBI)の物価目標の中央値である4%を下回った(図表3)。今後も天候不順による食品インフレのリスクに注意を払う必要があるが、現在のところ6~9月の南西モンスーンの降雨状況は平年より多く、播種が順調に行われる見込みであり、先行きの食品価格の上昇は抑制されるものと予想される。RBIは8月の金融政策委員会(MPC)において、インフレ率が目標水準の4%でとどまると確信できるまでは金融引き締めを継続するとの見方を示した上、7-9月期のインフレ率は平均4.4%とし、インフレ目標を上回ると予測しているが、8月のCPI上昇率も低下傾向が続けば、RBIは今年10月に政策金利の引下げを始める展開も予想される。
 
インド準備銀行(RBI)が隔月で公表する家計のインフレ期待調査によると、24年7月の家計のインフレ期待2(中央値)は3ヵ月先と1 年先がそれぞれ9.4%(5月から0.2%ポイント上昇)、10.1%(5月から0.2%ポイント上昇)となり、それぞれ小幅に上昇した(図表4)。家計のインフレ期待は昨年度まで低下傾向がみられたが、今年度は食品インフレ上昇を予想する世帯の割合が緩やかに増加しており、今後は賃金上昇を通じて現実の物価が押し上げられる可能性もある。もっとも家計のインフレ期待は3ヵ月先が一年先を依然下回って推移しており、短期的なインフレ警戒感は和らいでいる。
(図表3)消費者物価上昇とインフレ目標/(図表4)インフレ率と家計のインフレ期待
 
1 Bloomberg集計の中央値。
2 実際のインフレ率よりも高めになる傾向がある。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年08月13日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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