2024年07月29日

2024年度トリプル改定を読み解く(中)-重視された医療・介護連携と急性期見直し、政策誘導の傾向鮮明に

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳

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3|リバビリテーション、口腔、栄養でのテコ入れ
リハビリテーションの関係では、口腔ケアと栄養の一体的な提供を促す加算が設けられた。具体的には、それぞれの専門職などが共有された情報を使いつつ、リハビリテーション・口腔・栄養を一体的に実施した場合に取得できる新類型が「リハビリテーションマネジメント加算」として創設された。

さらに、訪問系や短期入所系の事業所が歯科医やケアマネジャーに対し、口腔に関する利用者の健康状態を情報提供した場合に取得できる「口腔連携強化加算」(1回50単位)が創設された。施設系でも、利用者が自宅や別の施設、医療機関などに退所した場合の連携を円滑にするための対応策として、「退所時栄養情報連携加算」(1回70単位)が新設される。

このほか、リハビリテーションに関わる医療・介護連携では「退院時共同指導加算」(1回600単位)が新設された。この加算では、退院した利用者のリハビリテーション計画の作成に際して、訪問・通所リハビリテーションの事業所に勤める専門職が医療機関の退院前カンファレンスに参加し、医療機関と情報を共有することが要件として設定されている。

高齢者の栄養に関する情報を共有した場合に受け取れる加算として、「栄養情報連携料」(70点)も創設された。この加算では、医療機関が介護保険施設とか、在宅医療を提供する医療機関に対し、高齢者が入院している間の栄養管理に関する情報を提供した場合、加算を受け取れるようになった。介護報酬改定でも、高齢者が介護保険施設から自宅や他の施設、医療機関などに退所した場合、介護保険施設の管理栄養士が退所先に対して、栄養管理の情報を提供すると、1カ月1回を限度に70単位を受け取れる「退所時栄養情報連携加算」(1回当たり70単位)が創設された。

診療報酬改定では、急性期医療でも3つの連携が必要という判断の下、「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」(1日当たり120点)も新設された。

なお、上記に加えて、医療と介護の連携では感染症対策の強化が盛り込まれているほか、かかりつけ医機能を評価する診療報酬の見直しでも、障害福祉サービスとの連携が意識されたが、意見交換会のメインテーマに入っていないので、(下)に取り上げることにしたい。

では、こうした改定の意味合いをどう評価したらいいだろうか。これらの改定内容を単発で見ると、切れ目のない提供体制を構築するため、医療・介護連携を一層、強化しようとする厚生労働省の意図を十分に理解できる。

しかし、それだけでは厚生労働省の意図を全て理解できるわけではない。むしろ、急性期病床の適正化とか、2024年度から本格施行された「医師の働き方改革」など、他の制度改正との整合性などを複線的に考察する必要がある。さらに、過去の診療報酬改定と対比することで、政策的な意味合いを考察する際の解像度も上がると考えている。

以下、(1)急性期医療、高齢者救急、(2)入退院支援や看取り、外来、在宅など――という2つの点で、他の提供体制改革や過去の改定内容などと対比させつつ、今回の改定に関する政策的な意味合いを深掘りする。

7――過去の改革や改定との対比を通じた考察(1)

7――過去の改革や改定との対比を通じた考察(1)~急性期医療の見直し~

1|2006年度改定から地域医療構想の制度化、2022年度改定までの流れ
急性期医療や高齢者救急の見直しを論じる前提として、2006年度診療報酬改定まで遡る必要がある。この時、患者7人に対して看護師1人を配置する「7対1基準」(現名称は急性期一般入院料1)の報酬を高く設定したことで、厚生労働省の予想以上に、多くの医療機関が7対1基準を取得した。

そこで、適正化策の一つとして、2017年度から「地域医療構想」という政策が本格的にスタートした11。つまり、急性期医療の見直しとか、在宅医療の充実、医療・介護連携の強化といった提供体制改革を「地域の実情」に応じて進めることが意識されたわけだ。

しかし、都道府県は民間病院などに対し、病床削減を命令できる権限を持たないため、医療機関の経営者などを交えた「地域医療構想調整会議」(以下、調整会議)での議論を通じた合意形成と自主的な対応が想定されている。

一方、診療報酬改定でもテコ入れが本格化しつつある。その一例として、2022年度診療報酬改定12では、感染症対応まで想定した「スーパー急性期」を評価する改定項目として、「急性期充実体制加算」(7日以内460点、8日以上11日以内250点、12日以上14日以内の期間180点)が創設された。

さらに、地域包括ケア病棟に関しても、自院から転棟させているケースが多いとして、2022年度診療報酬改定では、自院からの転棟に関する点数が低く設定された一方、リハビリテーションを提供する介護老人保健施設とか、自宅から患者を受け入れた際の点数が高くなった。いずれも7対1基準の適正化策を診療報酬改定で進めようという意図である。
 
11 地域医療構想は2017年3月までに都道府県が作成し、人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる2025年をターゲットに、医療提供体制改革を進めようという意図が込められていた。具体的には、都道府県が2025年時点の医療需要について、救急患者を受け入れる「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期療養の場である「慢性期」に区分して推計。さらに、4つの病床区分ごとに人口20~30万人単位で設定される2次医療圏(構想区域)ごとに病床数を将来推計した。その上で、自らが担っている病床機能を報告させる「病床機能報告」で明らかになった現状と対比させることで、需給ギャップを明らかにした。その結果、全国的な数字では、高度急性期、急性期、慢性期が余剰となる一方、回復期は不足するという結果が出ており、高度急性期や急性期病床の削減と回復期機能の充実、慢性期の削減と在宅医療の充実が必要と理解されている。地域医療構想の概要や論点、経緯については、2017年11~12月の拙稿「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(1)」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日拙稿「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」を参照。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。なお、地域医療構想は目標年次が1年後に迫っており、厚生労働省は2040年頃を見通したポスト地域医療構想の議論を始めている。この点については、稿を改めて検討する。
12 この時の経緯の詳細については、2022年5月27日拙稿「2022年度診療報酬改定を読み解く(下)」、2022年1月27日拙稿「2022年度の社会保障予算を分析する」を参照。
2|地域包括医療病棟の政策的な意味合い
これらの動向を重ね合わせると、地域包括医療病棟が創設された背景が一層、浮き彫りになる。つまり、急性期医療の見直し、あるいは7対1基準の適正化という観点である。より具体的に言うと、7対1基準適正化の「受け皿」として、高齢者救急については、地域包括医療病棟を使いたいという企図である。

そもそも高齢者の救急受け入れの「受け皿」として、厚生労働省は当初、「地域包括ケア病棟」を想定していたが、中医協では、地域包括ケア病棟には患者13人に対して看護師1人を配置する「13:1基準」も含まれるため、「救急患者受け入れには限界がある」といった声が多く出た。そこで、新たな診療報酬の体系として、地域包括医療病棟が創設された。

この点に関しては、厚生労働省幹部も「7対1病床の中でも、在院日数や提供されている医療内容などは患者さんによって相違がある。高齢者の誤嚥性肺炎や尿路感染症など、10対1病床や13対1病床でも十分に対応できる患者さんもおられる」「高齢者の救急患者さんが増加しているものの、実は重症な人はあまり多くはない。けれども7対1病床だったり、3次救急医療を担う医療機関に運ばれている現状がある。安静臥床などによりADL(筆者注:日常生活動作)が低下、結果的に治療が終わっても元の施設に戻れなくなる(筆者注:という実情がある)」「最初は地域包括ケア病棟も考えていましたが、『13対1病床』で救急を受け入れるのは難しいというご意見もあった」「『10対1病床』を要件とする特定入院料を別に作った方がいいのではないか、という議論に収斂していきました」と率直に認めている13

ここでの注目は「議論が収斂」という点である。実際、中医協の議事録を確認すると、健保連が「高齢者の急性期については、早期のリハビリが可能な地域包括ケア病棟で受け止めていただくことが望ましい姿」14と主張したのに対し、日医などの診療側からは「急激な路線変更を行えば、地域の医療提供体制を壊してしまう可能性があります」15、「主に高齢者を中心に受け入れる病棟において、ケアに必要な人的コストが担保される診療報酬点数が必要。(略)現場は不足するスタッフで非常に労力がかかる患者をケアすることを強いられることとなり、医療現場の持続可能性が損なわれる」16などの懸念が示された。その結果、地域包括医療病棟という新しい類型を作る方向で議論が「収斂」したわけだ。

さらに、注目されるのは地域包括ケア病棟と地域包括医療病棟の違いと共通点である。両者と7対1基準を比較した図表4の通り、両者の仕組みは基本的に異なる。具体的には、地域包括ケア病棟は既述した通り、「急性期を経過した患者の受け入れ」「在宅で療養中の患者の受け入れ」「在宅復帰支援」の3つの役割を持つとされる。一方、2024年度改定で創設された地域包括医療病棟ではリハビリテーションの機能を持っている点で、地域包括ケア病棟と共通しているが、あくまでも主な役割は救急となる。

これに対し、共通点としては、いずれも「地域包括」という言葉が冠されており、介護施設や在宅ケアとの連携を含めて、「地域」との関係が強く意識されている。さらに、2つの制度には「7対1基準の適正化に向けた受け皿」という狙いが込められている共通点もある。
図表4:7対1基準と地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟の比較
例えば、地域包括ケア病棟が2014年度改定で創設された際、国会では「言うなれば急性期からの受け皿というような病床をふやしていこうということ」17という答弁が出ていた。地域包括医療病棟に関しても、移行イメージの一つとして、「7対1基準」が例示されており、やはり急性期医療の適正化が意識されている様子を読み取れる。この辺りの期待については、7対1基準の適正化を期待する健保連サイドが「今回の大きな目玉の一つだと思っておりますし、期待は非常に大きい」18、「急性期一般入院料1(筆者注:7対1基準)等からの転換がどのくらいの規模感であるのか注視していきます」19と強い期待感を示していることとも符合する。
 
13 2024年3月8日『m3.com』配信記事における厚生労働省医療課長の眞鍋氏に対するインタビューを参照。
14 2023年7月5日、中医協総会議事録における健保連の松本真人理事の発言を参照。
15 2023年11月8日、中医協総会議事録における日医の長島公之常任理事の発言を参照。
16 同上議事録における日本医療法人協会の太田圭洋副会長の発言を参照。
17 2014年2月17日、第186国会衆院予算委員会における田村憲久厚生労働相の発言。
18 2024年4月17日『m3.com』配信記事における健保連理事の松本氏のインタビューを参照。
19 2024年6月1日『社会保険旬報』No.2929における健保連理事の松本氏のインタビューを参照。
3|協力医療機関の政策的な意味合い
さらに、介護施設と協力医療機関の連携についても、急性期医療見直しの文脈で捉え直すと、7対1基準の見直し論議と関連していることに気付く。具体的には、高齢者施設と救急医療機関の意思疎通を日頃から促している点とか、地域包括ケア病棟や在支病、在支診など地域との接点を持つ医療機関が担うことを「望ましい」とされた点については、単に医療・介護連携を強化する狙いだけでなく、救急医療の負担を軽減する意図が見え隠れする。言い換えると、切れ目のない提供体制づくりという説明に加えて、7対1基準の適正化を含めた急性期医療の見直しという意図も念頭に置く必要がある。

実際、厚生労働省幹部は介護保険施設と協力医療機関の関係構築による効果として、「入所者の病状が突然悪化した場合に救急車を呼ぶ回数が減るでしょうし、入院の回避にもつながることが期待できます」「高齢者救急がこれから増えることが予想されるなかで、ここをうまく回すことをめざす必要があります」と期待感を示している20
 
20 2024年5月1日『社会保険旬報』No.2926における厚生労働省医療課長の眞鍋氏に対するインタビューを参照。
4|またもや公益裁定となった7対1基準の数値見直しを加味すると…
さらに、他の診療報酬改定に目を向けると、急性期医療の見直しという意図は一層、明確になる。その一つとして、急性期医療の実績を定量的に評価する「重症度、医療・看護必要度」の見直しを指摘できる。

ここで言う「重症度、医療・看護必要度」とは入院基本料などの施設要件で使われている基準。病棟内の入院患者の状態などについて、▽輸血や血液製剤管理などのモニタリング項目と、呼吸ケアなど専門的な治療を評価するA項目、▽食事摂取など看護・介護の手間を評価するB項目、▽全身麻酔など外科的な治療など重症患者の度合いを測るC項目――の3項目に渡って点数で評価することで、急性期医療の状況を定量的に把握することを目的としている。

その評価方法は複雑かつ精緻であり、基準1(A得点が2点以上かつ3点以上)、基準2(A得点が3点以上)、基準3(C得点が1点以上)のいずれかを満たす該当患者の基準を設定した上で、入院基本料に応じて、クリアしなければならない比率が定められている形だ。例えば、2022年度改定時点で7対1基準の場合、看護師がチェックする「必要度Ⅰ」で31%以上、レセプト(支払明細書)ベースで定量的に測定する「必要度Ⅱ」で28%以上を達成する必要があった。

言い換えると、この基準を「操作」すれば、医療機関は7対1基準の取得が困難になるため、医療機関の経営にとってマイナスになる半面、厚生労働省は7対1基準の適正化策として使える側面を持つ。実際、中医協では毎回、争点になっており、7対1基準の適正化に期待する支払側が厳格化を求めると、これに診療側が反対することが多い。過去の改定を振り返っても、診療側、支払側の意見が一致せず、最終的に有識者で構成する公益裁定の裁定に委ねられる展開が2018年度、2020年度、2022年度と3回連続で続いており、前回の2022年度診療報酬改定では公益委員による裁定の結果、「心電図モニター管理」がA項目から廃止された。

今回も「重症度、医療・看護必要度」の見直しが対立点となり、特にB項目の是非が焦点となった。厚生労働省が中医協に提出した資料では、7対1基準に入院した患者の初日の状況を見ると、B項目の得点が高い患者が僅かだったことが分かり、健保連は「急性期の機能を適切に反映されていないと考えられるため、評価の対象から除外すべき」と主張した21

これに対し、診療側は「現在の重症度、医療・看護必要度が入院基本料に直接ひもづいている現状では、軽率な基準の変更は医療提供を行っている現場に大きな影響を及ぼすことから、しっかりとした分析、すなわち病棟で必要なマンパワー、人件費の分析が行われるまでは避けるべき」22と反論して議論は平行線をたどった。その後、基準を見直した場合の詳細な試算が厚生労働省から示されたが、最後まで意見の一致を見ず、最終的に公益裁定を経て、B項目が廃止された。

さらに、7対1基準に関する患者割合についても、▽A得点が3点以上またはC得点が1点以上の場合、必要度Iは21%、必要度IIは20%、▽A得点が2点以上またはC得点が1点以上の場合、必要度Iは28%、必要度IIは27%――と定められた。いずれも7対1基準の見直しの一環と理解する必要がある。
 
21 2023年11月8日、中医協総会議事録における健保連理事の松本氏の発言を参照。
22 同上における日本医療法人協会副会長の太田氏の発言を参照。

(2024年07月29日「基礎研レポート」)

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保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     1995年4月~ 時事通信社
     2011年4月~ 東京財団研究員
     2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
     2023年7月から現職

    【加入団体等】
    ・社会政策学会
    ・日本財政学会
    ・日本地方財政学会
    ・自治体学会
    ・日本ケアマネジメント学会

    【講演等】
    ・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
    ・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

    【主な著書・寄稿など】
    ・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
    ・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
    ・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
    ・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
    ・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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