2024年07月26日

職場における温度、匂い、音等は、どういう人がシンドイと思っているのか

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

前稿「職場における温度、匂い、音等の問題1で、2024年3月にニッセイ基礎研究所が被用者を対象に実施した「被用者の働き方と健康に関する調査」において、およそ4割(2024年調査では40.2%)の人が「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」と感じていることを紹介した。この質問に対して「そうだ」または「まあそうだ」と回答した人に対して、よくない内容を尋ねた結果、「冬、職場が寒い」が最も高く、次いで「夏、職場が暑い(33.8%)」「換気が悪い(23.9%)」「機械類の音がうるさい(18.0%)」が続いていた(図表1)。

どういった人が、よくないと感じているのかを見た結果、男性、34歳以下、所定労働時間が8時間超、座位時間が短いで、職場にいる時間が長い人や外回りや立ち仕事が多いと考えられる人で高かった。一方、週3日以上在宅勤務を行っている人では、よくないと感じている割合は低かった。業種によってもよくないと感じている割合は異なっており、個々の職場における作業環境の違いはあろうが、業種や職種、働き方による差もあると考えられた。

本稿では、図表1に示す各項目について、それぞれどういった人が職場の作業環境のどういった内容によくないと感じているのかをみた。
 
1 村松容子「職場における温度、匂い、音等の問題」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2024年7月17日)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/79091_ext_18_0.pdf?site=nli

2――職場の温度、換気、音、デスクやレイアウト、健康増進

2――職場の温度、換気、音、デスクやレイアウト、健康増進についての取り組みに関する特徴(概要)

結果を先に紹介すると、温度、換気、音、デスクや椅子のサイズ・オフィス内のレイアウト、従業員の健康増進についての取り組みについて、以下の示唆が得られた(詳細は、Appendixを参照ください)。
職場の温度
温度については、図表1のとおり、作業環境としてよくない内容の上位にあがっている。「冬、職場が寒い」と「夏、職場が暑い」が同時に高くなっているケースが多く、屋外での作業や空調が十分でない作業環境が心身に影響を与える可能性が懸念される。年齢では、高年齢ほど「冬、職場が寒い」と「夏、職場が暑い」と感じており、同じ温度であっても年齢が高い人で温度調整が不十分であると感じている可能性が考えられる。また、女性で「夏、職場が寒い」が高いほか、座位時間が8~10時間や在宅勤務頻度が月1~3回程度、または週1日程度のやや職場にいる時間が長い人で「冬、職場が暑い」が高く、空調が効きすぎと感じるケースもあった。ただし、「冬、職場が寒い」や「夏、職場が暑い」は在宅勤務を週に3日程度以上(もしくはほぼ毎日)とっている人で負担が軽くなっていた。
換気
換気については、図表1のとおり、温度と同様に作業環境としてよくない内容として比較的上位にあげられた。生産、技能職(一般事務等事務職との比較)や、所定労働時間が長い人で悪いと感じており、室内作業が多かったり、自分で換気ができない環境で、気になる項目だと考えられた。換気について、今回の結果に加えて、新型コロナウイルス感染症対策として「換気」を含むいくつかの対策実施状況を加味したところ、自宅の換気は行っているが、職場の換気は行っていない人、ワクチンを打っている人で「換気が悪い」と回答している傾向が見られたことから、コロナ禍後、換気に対して敏感になっている可能性が考えられる。年齢が高い人で「換気が悪い」と回答していたのは、新型コロナ感染症によるリスクが高年齢者ほど高かったことから、コロナ不安が関連している可能性がある。換気についても、在宅勤務を週に3日程度以上(もしくはほぼ毎日)とっている人で負担が軽くなってた。

音については、図表1のとおり、「電話や人の声がうるさい」「機械類の音がうるさい」といった音の問題は、温度、換気に次いで高い。例えば生産、技能職では、「機械類の音がうるさい」がプラスであるのに対し、「電話や人の声がうるさい」はマイナス、座位時間が3時間未満では、「機械類の音がうるさい」が高いのに対し、10時間以上で「電話や人の声がうるさい」が高い等、「電話や人の声がうるさい」と「機械類の音がうるさい」の両方が高いケースはない。しかし、在宅勤務を週3日程度以上(もしくはほぼ毎日)利用している人では両方が低く、音に対する負担が軽くなっていた。

照明については、「照明が暗い」「照明がまぶしい」のいずれも、図表1において作業環境のよくない内容として、順位が特に高い項目ではなかった。しかし、「照明が暗い」または「照明がまぶしい」と回答している人で、眼精疲労・目の乾きを訴える割合は高く2、眼を使う作業が多い職場では、やはり課題となろう。匂いについては、デスクワークが中心と思われる事務系専門職(市場調査、財務、秘書等)と、オフィス外での作業が多いと思われる運輸、通信職で高い。所定労働時間が長い人で高くなっていた。今回は匂いの内容は尋ねていないため、詳細はわからないが、オフィスの内外で発生しうると思われる。
 
2 照明が暗い」または「照明がまぶしい」と回答している人で、眼精疲労・目の乾きを訴える割合は、それぞれ28.8%、29.3%で、全体の8.0%を大幅に上回る。
デスクや椅子のサイズ・オフィス内のレイアウト
「デスクや椅子のサイズがあわない」は、生産、技能職と運輸、通信職、および座位時間が3時間未満で低かった。デスク仕事の時間が、参照対象とした一般事務等事務職と比べて短いことによると考えられる。一般事務等事務職や座位時間が長いと、「デスクや椅子のサイズ」等の問題が生じると考えられる。また、「他の従業員との距離や近すぎる等レイアウトに問題を感じる」は、販売職、生産、技能職で低かった。参照対象とした一般事務等事務職では、自分の席が決まっていることが多く、問題が生じる可能性が考えられる。
従業員の健康増進についての取り組み
まず、「勤務先は、「従業員の健康増進」についての取り組みが熱心な方である」に対して、あてはまるほど、「冬、職場が寒い」「 夏、職場が暑い」「換気が悪い」「電話や人の声がうるさい」「機械類の音がうるさい」「匂い(汗、香水、タバコ臭、下水等)が気になる」「デスクや椅子のサイズがあわない」といった、図表1で上位にあげられた、作業環境としてよくない内容の負担を軽減する傾向があった。企業が、こういった作業環境の充実を、従業員の健康増進を意識して行っているかどうかはわからないが、今回の結果から、従業員は、会社の健康増進に関する取り組みと関連付けてとらえている可能性が考えられた。

3――おわりに

3――おわりに

今回の調査では、50人以上の事業場に義務付けられているストレスチェックに推奨されている「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」を実施している。今回使用した「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」という質問は、「非常にたくさんの仕事をしなければならない」や「高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ」「職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる」などのストレス要因となる仕事の負担項目の1つとして尋ねている質問である。本稿では、このうち、「職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない」と回答した人に対して、よくないと感じている内容を尋ねていることから、今回の結果は、日常的に職場で感じている不満にとどまらず、自分の仕事を遂行する上で影響があるものを回答していると考える。

前稿「職場における温度、匂い、音等の問題」でも紹介したとおり、作業環境の負担は、高ストレスに関連しており、従業員の健康維持のためにも、従業員の作業効率を上げるためにも、作業環境の改善は必要だと考えられる。また、今回の結果から、従業員は、会社の健康増進に関する取り組みと関連付けてとらえている可能性が考えられたことから、作業環境の改善は、従業員に対して、従業員の健康を維持・増進し、作業効率を上げようとするメッセージとなり得る。

作業環境としてよくない内容として上位にあがった、温度の問題、換気の問題、人の声や機械類の騒音など音の問題は、個々の職場環境に大きく依存すると思われるが、職種や職場にいる時間などにも影響されるほか、性、年齢による傾向もあり得ると考えられた。それぞれの職場の課題や職種による課題の解消も重要であるが、人によって感じ方は異なるため、在宅勤務を活用する等作業場所に自由度を与えること、静かに集中できる場所の確保、室温が整った休憩場所の確保、十分な休養等、検討していくことが重要だろう。

(2024年07月26日「基礎研レポート」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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