2024年07月05日

2024・2025年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.328]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―2四半期ぶりのマイナス成長

2024年1-3月期の実質GDPは、前期比▲0.5%(前期比年率▲1.8%)と2四半期ぶりのマイナス成長となった。

公的需要は増加したが、物価高の下押しが続く中、不正問題発覚による生産・出荷停止で自動車販売が大きく落ち込んだことから、民間消費が前期比▲0.7%と4四半期連続で減少し、設備投資も前期比▲0.4%と2四半期ぶりに減少した。輸出が前期比▲5.1%の減少となり、輸入の減少幅(同▲3.3%)を上回ったことから、外需も前期比・寄与度▲0.4%と成長率の押し下げ要因となった。自動車不正問題の悪影響は民間消費、設備投資、輸出と広範囲に及んだ。

2023年度の実質GDPは前年比1.2%と3年連続のプラス成長となったが、年度内成長率(2023年1-3月期から2024年1-3月期までの伸び率)は▲0.3%のマイナスとなった。日本経済は2023年度を通して停滞が続いたと判断される。

2―円安・原油高は家計部門にデメリット

米国が高インフレに対処するために政策金利の引き上げを開始した2022年以降、日米金利差の拡大を背景に円安・ドル高が継続している。米国の利上げが停止された2023年後半には円安の動きがいったん止まったが、インフレ率の高止まりなどから米国の利下げ観測が後退したことを受けて、2024年4月以降は再び円安が進行している。

円安は輸出の増加を通じて製造業を中心に企業収益の改善をもたらす。また、円安に伴う輸入物価の上昇は、当初は消費者物価の上昇に伴う実質所得の低下を通じて家計にマイナスの影響を及ぼすが、その後は企業収益の改善が雇用、賃金に波及し、家計も恩恵を受けるようになることが一般的である。

一方、原油価格(WTI)はこのところ落ち着いた動きとなっているが、コロナ禍前の水準(2019年平均は1バレル=50ドル台後半)に比べれば高止まりしている。原油価格の上昇は交易条件の悪化に伴う海外への所得流出を通じて、企業収益の下押し、家計の実質購買力の低下をもたらす。

今回の物価上昇局面において、企業は輸入物価上昇に伴うコスト増を十分に価格転嫁できたため、円安・原油高によるマイナスは緩和された。直近(2024年1-3月期)の経常利益はコロナ禍前(2019年平均)から32.8%増加した。賃上げ率の高まりを反映し人件費要因は若干の押し下げ要因となっているが、円安による輸出金額の増加や国内への価格転嫁により、コロナ禍でいったん落ち込んだ売上高が大幅に増加したことが収益を大きく押し上げている(売上高要因)。また、円安、原油高により変動費は増加しているものの、十分な価格転嫁によって売上高変動率が低下していることも収益の押し上げ要因となっている(変動費要因)[図表1]。
[図表1]経常利益の要因分解
一方、家計部門については、2024年1-3月期の名目雇用者報酬はコロナ禍前(2019年平均)から6.2%増加したが、その間に家計消費デフレーターが10.4%上昇したため、実質雇用者報酬は▲4.2%減少している[図表2]。企業部門は円安のメリットが円安・原油高のデメリットを上回っているのに対し、家計部門は円安・原油高のデメリットが円安のメリットを上回っている。
[図表2]実質雇用者報酬の要因分解

3―実質賃金上昇率は2024年度後半にプラスへ

連合の「2024春季生活闘争 第6回回答集計結果」によれば、2024年の平均賃上げ率は5.08%、ベースアップに相当する「賃上げ分」は3.54%となった。賃上げ率が最終集計でも5%を上回れば1991年(5.66%)以来33年ぶりの高水準となる。

名目賃金を消費者物価で割り引いた実質賃金上昇率は2022年4月から2年以上にわたって、前年比でマイナスが続いている。名目賃金は春闘の結果が反映される2024年夏場にかけてベースアップと同程度の前年比3%台まで伸びを高めるだろう。一方、消費者物価は当面2%台後半から3%程度の伸びが続くが、財価格の上昇率鈍化を主因として2024年度後半には2%台前半まで低下することが見込まれる。この結果、実質賃金上昇率は2024年10-12月期にプラスに転じることが予想される[図表3]。
[図表3]名目賃金と実質賃金

4―GDP成長率の見通し

2024年1-3月期は自動車の不正問題が景気に悪影響を及ぼしたが、4-6月期は自動車の挽回生産が消費、設備、輸出を押し上げることから、前期比年率1.8%のプラス成長になると予想する。ただし、6月には新たに自動車の認証不正問題が発覚したため、下振れリスクは高まっている。

2024年6月から実施される所得・住民税減税は7-9月期以降の民間消費を押し上げる。2024年7-9月期は民間消費の高い伸びを主因として前期比年率2.9%の高成長となることが予想される。減税のうち消費の回る割合は2~3割程度と想定しており、消費押し上げ効果は限定的にとどまるが、10-12月期以降は実質賃金上昇率のプラス転化に伴う実質可処分所得の持続的な増加が消費を下支えする。

また、2023年度の設備投資は伸び悩みが続いたが、高水準の企業収益を背景に基調としては回復の動きが続いている。2024年度後半以降は、民間消費、設備投資などの国内民間需要を中心に潜在成長率とされるゼロ%台後半を若干上回る年率1%前後の成長が続くだろう。実質GDP成長率は2024年度が0.7%、2025年度が1.1%と予想する。

5―消費者物価の見通し

消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2023年9月以降、2%台の伸びが続いている。

電気・都市ガス代は2023年2月から激変緩和措置によって押し下げられていたが、5月使用分で激変緩和の幅が縮小され、6月使用分以降は延長されないこととなった。この結果、エネルギー価格の上昇率は2024年夏場にかけて大きく上昇し、コアCPI上昇率への寄与度は1%程度まで拡大することが見込まれる。

一方、2022年1月から実施されてきたガソリン、灯油等に対する燃料油価格激変緩和措置は2024年4月末までとされていたが、5月以降も延長されることとなった。今回の見通しでは、ガソリン、灯油等の激変緩和措置は、2024年度末まで現行どおり、2025年度は補助率を縮小した上で継続することを前提とした。2023年8月から2%台の伸びが続いていたサービス価格は、2024年4月には前年比1.7%と伸びが鈍化したが、2024年の春闘賃上げ率が前年を大きく上回ったことを受けて、再び伸びが高まることが予想される。

財と比べてサービスの価格は人件費によって決まる部分が大きい。実際、サービス価格と賃金の連動性は非常に高く、2023年のサービス価格の上昇率は前年比1.8%となり、2023年のベースアップ2%程度とほぼ一致した。2024年度のサービス価格はベースアップと同程度の3%台まで上昇率が高まることが予想される。

コアCPIは、食料(除く生鮮食品)の伸び率鈍化をエネルギー価格の上昇ペース加速が打ち消す形で、2024年度前半は前年比2%台後半の推移が続くだろう。2024年度後半以降は円高に伴う財価格の上昇率鈍化を主因として2%台前半まで鈍化し、2025年度入り後には日銀の物価目標である2%を割り込むことが予想される。

財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料(除く生鮮食品、外食)を中心とした財の上昇によるものだったが、2023年度はサービス価格の上昇率が高まり、物価上昇の中心は財からサービスにシフトしつつある。2024年度後半から2025年度にかけて、消費者物価上昇率への寄与度はサービスが財を上回るだろう。

コアCPIは、2023年度の前年比2.8%の後、2024年度が2.5%、2025年度が1.8%と予想する[図表4]。
[図表4]消費者物価(生鮮食品を除く場合)の予測

(2024年07月05日「基礎研マンスリー」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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