2024年06月13日

【アジア・新興国】韓国の生命保険市場の現状-2022年と2023年のデータを中心に-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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4――販売チャネルと販売制度

2022年の初回保険料は31.9兆ウォンで、バンカシュランスチャネルの生死混合保険新契約の増加により対前年比84.0%も増加した。初回保険料の販売チャネル別シェアはバンカシュアランスチャネルが56.2%で最も高く、次いで、職員販売(19.2%)、代理店(12.6%)、保険外交員(11.9%)、保険仲介人(0.1%)などの順であった(図表6)。
図表6 募集形態別初回保険料
保険商品販売における保険外交員のシェアが減少することにより、2008年に173,277人でピークであった保険外交員の数は2022年には78,892人まで減少した。保険外交員の性別は女性が77.9%で男性の22.1%を大きく上回った。

最近は若者の保険外交員離れが続いており、保険外交員の高年齢化も進んでいる。つまり、保険外交員に占める30歳未満と30~39歳の割合はそれぞれ2011年の7.1%と28.3%から2022年には3.1%と11.5%に低下したことに比べて、50~59歳と60歳以上の割合は同期間に19.8%と2.6%から38.5%と18.4%に大きく上昇した(図表7)。

若者が保険外交員になろうとしない理由は、韓国では保険外交員が個人事業主で働くケースが多く、安定的な収入が保障されていないからである。今後労働力人口の減少が予想される中で保険業界がどのように若手人材を確保するのか、また、どのような販売チャネルをより活用するのか注目したい。
図表7 保険外交員の年齢階層別割合

5――最近の動向

5――最近の動向

・IFRS17、K-ICSを施行
2023年から負債の評価方法、収益認識方法など、保険会社の会計基準全般に大きな変化をもたらすIFRS17が施行されている。IFRS17の施行により、金融当局は国際資本規制(ICS、SolvencyIIなど)に適合するように新支給力制度を策定し、IFRS17施行時期である2023年からK-ICSを導入した。

K-ICSは、Korea Insurance Capital Standardの略字で、保険会社の財務健全性を示す指標である。K-ICSは、資産と負債の両方について時価評価を反映することを保険会社に義務付けており、長寿リスク、解約返戻金リスク、事業費リスク、巨大災害リスクなどリスク評価対象を以前より多様化した。

・年金税制改正
年金貯蓄及び退職年金の税額控除対象の納付限度額の引き上げ及び年金所得分離課税の選択範囲の拡大などを含めた年金税制が改正された。改正により、年金口座の税額控除の納付限度額が年齢に関係なく600万ウォン(退職年金合計で900万ウォン)まで拡大され、総合所得金額の基準も緩和された。また、年金所得が1,200万ウォンを超過した時には総合課税あるいは15%の分離課税のうちどちらかを選択することが可能となった。

・ビデオ通話保険募集業務
2023年7月より保険加入を希望する者は、保険販売員に直接会うことなく、ビデオ通話で保険に加入できるようになった。

・生命保険協会および生命保険業界の2023年の主な動き
2023. 01. 01 プルデンシャル生命とKB生命が合併(KBライフ生命)
2023. 01. 01 IFRS 17及びK-ICS導入
2023. 01. 01 年金口座の税制優遇拡大に関する所得税法改正・施行
2023. 03. 29 東洋生命金融サービス、生命保険協会の準会員に加入
2023. 06. 30 HK金融パートナーズ、生命保険協会の準会員に加入
2023. 08. 01 「ビデオ通話保険募集業務プロセスガイダンス」制定
2023. 09. 08 生命保険協会、第7回Golden Fellow認証式開催
 
韓国における生命保険業界の総資産は2022年現在938.3兆ウォンで、2021年の992.4兆ウォンより5.5%も減少した。さらに今後の生命保険市場の見通しも明るいとは言えない。若者の保険離れが続いており、合計特殊出生率が継続して低下しているからである。ちなみに2023年における韓国の合計特殊出生率は0.72(暫定値)まで低下し、過去最低を更新した。韓国の生命保険業界は若者の保険離れと少子高齢化、そして人口減少にどのように対応するだろうか。韓国の生命保険業界の今後の対応に注目したい。

参考文献
 
日本語

・金明中(2023)「【アジア・新興国】韓国の生命保険市場の現状-2021年と2022年のデータを中心に-」保険・年金フォーカス、2023年5月31日

韓国語

・生命保険協会『生命保険Factbook』各年

(2024年06月13日「保険・年金フォーカス」)

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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

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