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山を分けていく問題-得られた答えをどのように解釈する?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
◇ 実際に証明してみる
まず、証明したいことを整理しておこう。
「『山を分けていく問題』で、n個の小石からできた山をどのように分けても、獲得する点数は、
n(n-1)/2となる。」 ― これが、証明したいこと(数学の用語で言うと命題)だ。
こういう一般のnを使った命題を証明するときには、数学的帰納法がよく使われる。今回も数学的帰納法を使いたいのだが、「n = 1のときに命題は成立。n = k-1のときに命題が成立すると仮定すると、n = kのときにも命題が成立。」という通常の形で証明しようとすると、うまくいかない。
最初にn個の小石の山を分けるときに、分け方が複数あって、そのどれにも対応できるように仮定を設けておく必要がある。
ここでは、「完全帰納法(強数学的帰納法)」といわれる証明法が役に立つ。なお、この完全帰納法の原理は数学的帰納法の原理と必要十分であることが知られている。(本稿ではそこまで立ち入らないので、気になる方は数学の書籍等を参照していただきたい。)
完全帰納法は、「n = 1のときに命題は成立。nが1から(k-1)のどの数のときにも命題が成立すると仮定すると、n = kのときにも命題が成立。」という形だ。
「山を分けていく問題」では、nは2以上の自然数なので、n = 2のときを確認する。n = 2のとき、n(n-1)/2 = 1となって、確かに命題は成立する。
つぎに、kは3以上の自然数として、nが2から(k-1)のどの数のときにも命題が成立すると仮定する。そして、n = kのときに命題が成立するかどうか、計算してみる。
n = kのとき、k個の小石からできた山を分けるわけだが、s個と(k-s)個の2つの小山に分けるとする。sは、1 ≦ s ≦ (k-1) を満たす自然数だ。2つの小山に分けることでs(k-s)点を獲得する。
この小山を小小山、小小小山、…と分けていくわけだが、ここで、完全帰納法の仮定の出番となる。sも(k-s)も(k-1)以下の自然数なので、s個の小山についてはs(s-1)/2点、(k-s)個の小山については(k-s)(k-s-1)/2点が獲得できることになる。
これらの3つの点数を合計すると、
s(k-s) + s(s-1)/2 + (k-s)(k-s-1)/2
= (2sk - 2s2 + s2 – s + k2 - 2sk + s2 – k + s)/2
= (k2-k)/2
= k(k-1)/2
となって、n = kのときにも命題が成立することがわかる。
つまり、2以上の一般の自然数nについて、山の分け方によらず、獲得する点数はn(n-1)/2であることが示されたことになる。
◇ 納得するためにプロ野球の試合数の例をもとに考える
そこで、1つ例を考えてみたい。
2つのチーム(または人)が対戦する形のスポーツ競技を考えよう。野球でも、サッカーでも、柔道でも、テニスでもよい。チーム(または人)は複数あることにして、各チーム(または人)が1回ずつ対戦する1回戦総当たりの試合数を考えてみることにする。
ここでは、12チームからなる日本のプロ野球を例にとる。
まず、12チームをセ・リーグとパ・リーグの6チームずつに分ける。そしてリーグをまたいだ対戦、つまり“交流戦”の試合がいくつあるかを考える。セ・リーグとパ・リーグから1チームずつ出して試合をするので、6×6 = 36となる。
つぎに、それぞれのリーグを本拠地が東日本にあるか西日本にあるかでグループ分けをして、グループ間の“東西対抗戦”の試合数を計算してみる。
セ・リーグの場合、東日本は巨人、ヤクルト、DeNAの3つ。西日本は中日、阪神、広島の3つだ。それぞれのグループから1チームずつ出して試合をするので、3×3 = 9となる。
(なお、中日の本拠地である名古屋は東日本ではないか、とのご指摘もあるかもしれない。そのご指摘に沿うことにすれば、次のパ・リーグの場合と同様の計算を行うこととなる。)
パ・リーグの場合、東日本は日本ハム、楽天、ロッテ、西武の4つ。西日本はオリックス、ソフトバンクの2つだ。“東西対抗戦”の試合数は、4×2 = 8となる。
さらに、セ・リーグ東日本の3チーム間で、本拠地が東京の2チームと東京以外の1チームに分けて…などと分けていくと、結局3試合。セ・リーグ西日本の3チーム間も、同様に3試合。一方、パ・リーグ東日本の4チーム間では6試合。パ・リーグ西日本の2チーム間では、1試合となる。
これらの試合数を全部合計すると、36+9+8+3+3+6+1=66となる。これは、12チームによる1回戦総当たりの試合数12×(12-1)/2 = 66に等しい。
12チームを分ける分け方として、最初にセ・リーグとパ・リーグではなく、本拠地が東日本にあるか西日本にあるかで分けることも考えられる。ただし、どのように分けるにしても、最後は1チームずつにまで分けていくことになる。
ここで、12チームをどのように分けていこうとも、12チームによる1回戦総当たりの試合数は、66試合で変わらない。これは、n = 12の場合の、1つの例となっているといえるだろう。
◇ どのように解釈するか、という楽しみ方
ただし、このプロ野球の試合数の例でも、まだなんとなく腹落ちしない読者もいるかもしれない。
その場合は、複数の空港間で考えられる飛行機の航路の数や、複数の都市間で締結されうる姉妹都市提携の数など、あれこれと別の例を考えてみるのもよいかもしれない。
数学のパズルには、パズルをどう解くか(どう証明するか)というだけではなく、得られた答えをどのように解釈するか ― そのために、どんな“ストーリー”を考えてみるか、という楽しみ方もあるように思われるが、いかがだろうか。
(参考文献)
「ジーニアス英和大辞典」(大修館書店)
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
(2024年04月16日「研究員の眼」)
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