コラム
2024年03月19日

韓国政府の優秀外国人材確保政策-その2-優秀人材特別帰化制度の適用対象を大幅に拡大

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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法務部は2020年6月26日から優秀人材特別帰化(国籍回復を含む)制度の適用対象を大幅に拡大した。優秀人材複数国籍制度とは、国籍法の改正により2011年から施行している制度で、科学、経済、文化など社会各分野で専門的な知識と技術など特定の能力を保有し、韓国の国益に貢献すると認められる人に国籍審議委員会の審議を経て複数国籍を認める制度である。しかし、その許容対象が非常に限定的で、要件も非常に厳しいかったため、実際にこの制度を利用して複数国籍を取得する優秀人材はごくわずかであった。

そこで、韓国政府は、1) 優秀人材特別帰化制度の適用対象を拡大、2) 曖昧な部分の明確化、3) 要件の緩和等を中心に国籍法を改正し、2020年に6月26日から施行している。改正国籍法の改正により申請対象は(1)著名人、(2)学術分野の研究実績優秀者、(3)文化・芸術分野の優秀能力者、(4)スポーツ分野の優秀能力者、(5)国内外企業勤務者、外国人投資企業勤務者、(6)新産業分野、先端技術分野勤務者、(7)新産業分野、先端技術、科学など分野の源泉技術保有者、(8)国内外の知的財産権保有者、(9)専門分野の特別な知識・技術保有者、(10)国際機関等勤務経験者まで拡大された。各対象別の基本要件は次の通りである。
 
(1)著名人:元国家元首、政府首脳、または閣僚級以上、元国際機関代表など、ノーベル賞、ピューリッツァー賞、ゲーテ賞(ドイツの文化賞)、ゴンクール賞(フランスで最も権威のある文学賞のひとつ)、マンブッカー賞、フィールズ賞、チューリング賞、オリンピック銅メダル以上受賞者など。
 
(2)学術分野の研究実績優秀者:1) 国内外の4年制大学の准教授以上で1年以上在職した経験がある人、または在職中の人で、最近5年以内にSCI、SSCI、A&HCIなどに登録されている学術誌に1本以上の論文が掲載された人、KCIに登録された学術誌などに2本以上の論文が掲載された人、権威あるジャーナル、学術誌、学術大会などで2回以上論文などを発表したり、論文が掲載された人のうちいずれか一つの条件を満たしている人、2) 内外の4年制大学で教員として3年以上在職した経験がある人、または在職中の人で、最近5年以内にSCI、SSCI、A&HCIなどに登録されている学術誌に3本以上の論文が掲載された人、KCIに登録されている学術誌などに5本以上の論文が掲載された人、権威あるジャーナル、学術誌、学術大会などで5回以上論文等を発表したり、論文が掲載された人のうちいずれか一つの条件を満たしている人、3) 最近3年以内に世界300大学に選定された大学で2年以上講義をした経験がある人で、最近5年以内にSCI、SSCI、A&HCIなどに登録されている学術誌に3本以上の論文が掲載された人、KCIに登録された学術誌などに5本以上の論文が掲載された人、権威あるジャーナル、学術誌、学術大会などで5回以上論文等を発表したり、論文が掲載された人のうちのいずれか一つの条件を満たしている人、4) 国内の人文、政治、社会、経済、科学などの学術分野で、国家研究機関、公共機関が指定した研究機関、大学付設産学協力団及び研究所(科学分野に限る)、企業付設研究所(科学分野に限る)で研究員として3年以上在職した経歴がある人、あるいは在職中の人で、最近5年以内にSCI、SSCI、A&HCIなどに登録されている学術誌に3本以上の論文が掲載された人、KCIに登録された学術誌などに5本以上の論文が掲載された人、権威あるジャーナル、学術誌、学術大会などで5回以上論文などを発表したり掲載された人のうちいずれか一つの条件を満たしている人。
 
(3)文化・芸術分野の優秀能力者:次の例のうち、2つ以上の条件を満たしている人
1) 自分の属する分野で優れた能力が認められ、国内外の公信力のある団体または機関から受賞した経歴がある人、2) 自分の属する分野で認知度の高い著名人の審査を経て、優れた業績をあげた人だけが加入できる協会の会員として加入している人、3) 専門出版物または主要マスコミに自分の優れた才能に関する記事が掲載されたことがある人、または専門出版物に自分の学術論文が掲載されたことがある人、4) 自分の属する分野の公信力のある展示会、博覧会、コンテスト、映画祭などで、本人が他人の作品を審査したり、審査員として参加した経験がある人、5) 国際的に権威ある芸術展示会、博覧会、公演、映画祭、音楽祭などで作品を展示、公演または受賞した経歴がある人、または国際的に権威ある出版社、レコード会社等と契約を締結した人。
 
(4)スポーツ分野の優秀能力者:1) 自分の属する分野で優れた能力が認められ、国内外の公信力のある団体または機関から受賞した経歴がある人、2) 自分の属する分野で認知度の高い著名人の審査を経て、優れた業績をあげた人だけが加入できる協会の会員として加入している人、3) 専門出版物または主要な大衆媒体に自分の優れた才能に関する記事が掲載されたり、専門出版物に自分のスポーツに関する記事が掲載されたことがある人、4) 自分の属する分野の公信力のある国際体育行事、大会などで審判または審査員として参加した経歴がある人、5) 国際的に権威がある体育行事、大会等[例:オリンピック、ワールドカップサッカー(U大会を含む)、世界(ジュニア)選手権大会、ワールドカップ大陸別・大陸間(ジュニア)国際大会、パラリンピックに出場した経験のある選手又は指導者、6) 最近3年以内に国際的に権威がある体育大会で個人戦3位以内、団体戦8強以内に入賞した選手またはゴルフ大会(PGA、LPGA)などで20位以内の成績を記録した人。
 
(5)国内外企業勤務者、外国人投資企業勤務者:1) FORTUNE、ECONOMISTなど世界有数の経済専門誌が最近3年以内に選定した世界300大企業で3年以上勤務した経歴がある者、常時労働者数100人以上及び資本金80億ウォンを超過する国内にある企業で3年以上社内取締役以上の職に就いている人。3年間の対外輸出実績が年平均アメリカドル500万ドル以上の個人事業者または法人の代表(事業所は「中小企業基本法」の適用を受けている中小企業であり、実質的な経営者であること)、外国人投資促進法上、アメリカドル50万ドル以上投資した外国人投資企業(個人または法人)の代表取締役以上の役職で韓国に3年以上居住し、納税実績3億ウォン以上、国民30人以上を雇用している人。
 
(6)新産業分野、先端技術分野勤務者:新産業分野または先端技術分野で2年以上の経験がある人で、国内企業または研究機関に雇用されている人(雇用予定者を含む)。
 
(7)新産業分野、先端技術、科学など分野の源泉技術保有者:新産業分野、先端技術、科学などの分野で商業化されていないものの、世界レベルの源泉技術を保有している人。
 
(8)国内外の知的財産権保有者:国内外の知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権)を保有し、特許権などによる総収入が1億ウォン以上である人(特許権の譲渡による収入も含む)。
 
(9)専門分野の特別な知識・技術保有者:医師、弁護士、会計士、技術士などの専門資格を有する人で、国内で3年以上在留し、当該分野で勤務している、または勤務予定が確定している人。
 
(10)国際機関等勤務経験者:UN、WHO、OECD、IAEA、UNESCOなどの国際機関で10年以上勤務した経歴がある人、またはそれに準ずるレベルの資格を有する人で、活動経歴が韓国の国益に貢献した、または貢献すると予想される人。
 
次回は、韓国政府が実施している電子ビザ制度、外国人熟練技能人材点数制ビザ、BRAIN POOL(BP)プログラム等の優秀外国人材確保政策について説明したい。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2024年03月19日「研究員の眼」)

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