コラム
2024年03月19日

韓国政府の優秀外国人材確保政策-その1-2011年施行された改正国籍法の主な内容

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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少子高齢化の進展により将来の人手不足の深刻化が予想される中で、韓国政府は雇用許可制による単純労働者のみならず、優秀な外国人材を韓国に就職・定着させるための政策を実施している。特に、2011年1月1日からは科学・経済・体育などの分野で優秀な能力を保有する者で、韓国の国益に貢献すると認められる外国人に対し、複数国籍を認めることなどを骨子とする改正国籍法を全面施行し、2020年に6月26日からはその対象を大きく拡大した。今回は2011年1月1日に施行された内容を主に紹介したい。

改正国籍法を施行する前の韓国の国籍法では厳格な単一国籍主義を原則にした。つまり、国民が自ら外国籍を取得すると韓国国籍は自動的に失われ、外国人が韓国国籍を取得するためには必ず外国籍を放棄しなければならなかった。特に1997年の第4次改正時に導入された国籍選択制度は、先天的複数国籍者に対しても、法律が定めた期限内に外国籍を放棄しないと韓国国籍が維持できないようにすることで、複数国籍の不許可政策を強化した。

このような複数国籍の不許可政策は、韓国が必要とする優秀外国人材や韓国国籍の回復を希望する在外同胞や韓国から国際養子縁組で海外に渡った者、そして、結婚移民者が韓国国籍を取得するのにおいて大きなバリアになり、2000~2009年の間に複数国籍者の95%が韓国国籍を放棄したり、国籍を選択する手続きをしなかったことが原因で、韓国国籍が大きく減少することになった。出生率が低下し続ける中、複数国籍者のほとんどが韓国国籍を放棄するという事実は韓国政府に制度改正の必要性を認識させた。

そこで、韓国政府は国籍法を改正し、2011年1月から制限的に複数国籍を認める制度を実施した。改正の主な内容は次の通りである。
 
(1) 優秀外国人財の韓国国籍取得条件の緩和
従来は韓国に何の縁もない外国人が韓国に帰化するためには、5年間国内に住所を置いて居住する必要があったが、改正法では、科学・経済・文化・体育など特定分野で非常に優れた能力を有しており、韓国の国益に貢献すると認められる優秀外国人財に対しては、国内居住期間に関係なく特別帰化許可の手続きをした後、韓国国籍を取得できるようにした。
 
(2) 韓国国籍を取得した外国人の外国籍放棄方式の変更
従来の法律では、外国人が韓国国籍を取得した場合、6ヶ月以内に韓国以外の国籍を完全に「放棄」した後、これが証明できる証明書を提出する必要があり、この手続きを行わなかった場合、韓国国籍が失われた。改正法では、外国人が韓国国籍を取得する場合、原国籍を放棄せずに外国籍を不行使するという誓約をするだけで複数国籍が維持できるようにした。対象者は、1)婚姻関係を維持している結婚移民者、2)韓国に特別な功績があったり、優秀外国人財として特別帰化した者、3)国籍回復許可を受けた者で、特別な功績があったり、優秀外国人財として認められた者、4)成年になる前に海外に養子縁組され、外国国籍を取得した後、韓国国籍を回復した者、5)外国に長期間居住してから、65歳以降に永住帰国して韓国国籍を回復した者、6)本人の意思にもかかわらず、外国の法律または制度により外国籍を放棄する義務の履行が困難な者で、大統領令で定めた者などである。
 
(3) 用語変更及び「複数国籍者」に対する国内の法的地位を明文化
従前の規定は、二つ以上の国籍を持つ者をすべて「二重国籍者」と規定し、三つ以上の国籍を持つ者を含むことができなかった。また、「二重」という用語が韓国社会では過度に否定的なイメージを内包しており、複数国籍者の法的地位を明確に規定していなかった。このような理由から、改正法では「二重国籍者」を「複数国籍者」に用語を変更し、また、「複数国籍者」に国内法を適用するにあたり、大韓民国国民としてのみ扱うことを明確にした。

この結果、複数国籍者が韓国に出入国する場合には、外国のパスポートではない韓国のパスポートを使用する必要があり、国内に生活拠点を置いて暮らすためには、従来とは異なり、外国人登録をすることができず、一般国民と同様に住民登録をして韓国国民として生活しなければならなくなった。
 
(4) 先天的複数国籍者の国籍選択方式の変更
従来は、複数国籍者が韓国国籍を選択するためには、国籍選択期間内に必ず外国籍を放棄しなければならなかったが、実際は22歳前に外国籍放棄手続きを終え、その証拠を揃えて韓国国籍を選択する人が極めて少なく、韓国国籍選択を容易な方法で変更する必要性があった。そこで改正法は、満20歳になる前に複数国籍者となった場合は満22歳まで、満20歳以降に複数国籍者となった場合は2年以内に韓国国籍を選択しようとする場合には「外国籍を放棄」する代わりに「外国籍を行使しないという誓約」をする方式で韓国国籍を選択できるように改善した。

ただし、出生当時、母が子供に外国籍を取得させる目的で外国に滞在中であった事実が認められた者(いわゆる「遠征出産者」)は、外国籍の「不行使誓約」方式を許容しないことにより、複数国籍の認定対象者から除外した。
 
(5) 「複数国籍者」の韓国国籍離脱(放棄)方式の改善
従来は、国内に生活基盤があって国内に暮らしながらも、国内で韓国国籍の離脱(放棄)を申請することが可能であったため、国籍を離脱(放棄)した後、外国人として継続して生活した者が、必要な時期に再び韓国国籍を回復する事例も少なくなかった。改正法では、外国に住所がある場合のみ在外公館を通じて国籍離脱(放棄)の申請ができるようにし、国内に生活基盤を置いている者に対しては韓国国籍の離脱(放棄)を制限した。
 
(6) 「複数国籍者」に対する国籍選択命令制度の導入
従来は、「複数国籍者」が一定期間内に国籍選択義務を履行しないと、韓国国籍が自動的に失われた。改正法では、国籍選択期間内に国籍を選択しなかった場合、韓国国籍が自動的に失われる従来の規定を削除し、法務大臣が国籍選択命令をした後、その選択期間(1年)内に韓国国籍を選択しなかった場合、韓国国籍が失われるように改正した。また、外国籍の「不行使誓約」により複数の国籍が認められた人の場合でも、繰り返し外国のパスポートを使用して出入国したり、外国人登録をする等、誓約の趣旨に著しく反する行為をした場合には、国籍選択命令を通じて複数の国籍を整理し、一つの国籍のみを選択するようにする規定を新設した。この場合、同命令を受けてから6ヶ月以内に一つの国籍を選択しないと韓国の国籍が失われる。
 
(7) 国籍喪失決定制度の導入
改正法では、複数国籍者が韓国の国益に反する行為をしたり、社会秩序の維持に著しく支障をもたらす行為などを行うことにより、韓国国籍を保有することが適切ではないと判断された場合、法務大臣が韓国国籍の喪失を決定できるようにする「国籍喪失決定制度」を導入した。
 
このような改正にも関わらず優秀人材特別帰化または国籍回復手続きにより韓国の国籍を取得した外国人の数は少なかった。そこで、韓国政府は2020年に6月26日から優秀人材特別帰化(国籍回復を含む)制度の適用対象を大幅に拡大した。次回は2020年に6月に施行された「優秀人材複数国籍制度」を中心に韓国政府の優秀外国人材確保政策を説明したい。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2024年03月19日「研究員の眼」)

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