- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 労働市場 >
- なぜ韓国の統計上の失業率は低いだろうか?
なぜ韓国の統計上の失業率は低いだろうか?

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
韓国の失業率はOECD加盟国の平均失業率を下回る
韓国の失業率が統計上において低い水準を維持している理由は?
まず、韓国の失業率(失業率=失業者/労働力人口)が低く現れる最も大きな理由としては、15歳以上人口に占める非労働力人口の割合が高い点が考えられる。15歳以上人口は、働く意思のある「労働力人口」と、働く意思のない「非労働力人口」に区分することができる。労働力人口とは、労働に適する15歳以上の人口のうち、労働する意思を持つ者で、労働力調査期間である一週間に、収入を伴う仕事に多少でも従事した「就業者」(休業者を含む)と、求職中であった「失業者」の合計を指す。一方、非労働力人口とは、労働力人口以外の者で、病気などの理由で就業できない者と職場からリタイアした高齢者、職探しをあきらめた人、働きに出ない、あるいは出られない専業主婦や学生など、就業能力があるにも関わらず働く意思がない者を合計した人口である。
上記の定義を基準とした2022年における韓国の15~64歳の非労働力人口は1,067万人で15歳以上人口の約29.5%を占めており、同時点の日本の19.3%より高い。さらに、20~29歳と30~39歳の非労働力人口の割合はそれぞれ35.0%と24.8%で、日本の16.9%や11.8%を大きく上回っている。
2022年12月時点の休業者の構成比を年齢階層別にみると、60歳以上が43.9%で最も高く、次いで50~59歳(16.7%)、20~29歳(15.2%)の順になっている。一方、前年同月と比べた増加率は15~19歳が54.5%と他の年齢階層の増加率を大きく上回った。
韓国の失業率が統計上において低い二つ目の理由として、非正規労働者の割合が高い点を挙げられる。2022年8月現在の非正規労働者の割合は37.5%で、労働者10人の内、約4人がパート、アルバイト、契約社員等で働いており不安定就労の問題は深刻である。このように多くの人が非正規労働者として労働市場に参加することにより就業者数は増え、統計上の失業率は低下していると言える。
また、自営業者の割合が高いことも統計上の失業率を低くする理由になっている。韓国における自営業者の割合は、2021年時点で23.9%と同時点のデータが利用できるOECD加盟国33カ国の中で6番目に高く、日本の9.8%を大きく上回っている。特に、自営業者の相当数は給料をもらっていない無給の家族従業者であり、彼らの多数が調査期間中に仕事を探していないので、失業率の計算に反映されていないと言える。
韓国政府は、既存の失業率が労働市場の実態を十分に反映していないと判断し、2015年から毎月発表する「雇用統計」に、失業率と共に「拡張失業率」を公表している。「拡張失業率」とは、国が発表する失業者に、潜在失業者(就労を希望しつつも、様々な事情から求職活動をしていないので失業者としてカウントされない失業者)や不完全就業者(週18時間未満働いている者)を加えて失業率を再計算したものである。
このような計算方式によって算出された2022年の平均拡張失業率は、全体が10.6%、15~29歳が18.9%で、上記で説明した既存の定義の失業率、全体2.9%と15~29歳6.4%を大きく上回っている。
1 厚生労働省は潜在失業について、「1)「仕事を探している」や「仕事があればすぐに就ける」などの失業の要件を部分的に満たしていないために非労働力人口であるものの、例えば適当な仕事がないために仕事を探していない求職意欲喪失者など失業者に近いと考えられる者や、また、2)就業者であっても追加就業を希望している者(不完全就業者)などが想定される。ただし、例えば求職意欲喪失者については、現実には仕事への緊要度が本来の失業者よりも小さいため仕事を探していないことなどが考えられ、この点については注意が必要である。」と説明している。厚生労働省(2002)「平成14年版労働経済の分析」
2 本稿は、「曲がり角の韓国経済 第94回 韓国の失業率が統計上において低い主な理由」2023 年10月6日を加筆・修正したものである。
(2023年10月27日「研究員の眼」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/10 | なぜ退職代行サービスの利用が増えているのか?-退職時に会社へ伝えた理由と、実際の退職理由との間のギャップの解消を- | 金 明中 | 研究員の眼 |
2025/02/27 | なぜ韓国の出生率は9年ぶりに上昇したのか?-2024年の出生率は0.75に上昇- | 金 明中 | 基礎研レポート |
2025/01/10 | 2025年から大きく変わる韓国の労働関連政策のポイント | 金 明中 | 研究員の眼 |
2024/12/19 | 韓国における最近の最低賃金に関する議論について-最低賃金の地域・業種別差別化の提案に対して労使間に隔たり- | 金 明中 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年03月17日
男女別にみたシニア(50代後半~60代前半)の転職状況~厚生労働省「雇用動向調査」(2023年)より~ -
2025年03月14日
噴火による降灰への対策-雪とはまた違う対応 -
2025年03月14日
ロシアの物価状況(25年2月)-前年比で上昇が続き10%超に -
2025年03月14日
株式インデックス投資において割高・割安は気にするべきか-長期投資における判断基準について考える -
2025年03月13日
インド消費者物価(25年2月)~2月のCPI上昇率は半年ぶりの4%割れ
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【なぜ韓国の統計上の失業率は低いだろうか?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
なぜ韓国の統計上の失業率は低いだろうか?のレポート Topへ