コラム
2023年10月27日

なぜ韓国の統計上の失業率は低いだろうか?

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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韓国の失業率はOECD加盟国の平均失業率を下回る

新型コロナウイルス感染症が収束を迎えている中で、OECD加盟国における平均失業率は感染が拡大していた2020年の7.2%から2022年には5.0%まで低下した。一方、2020年と2022年における韓国の失業率はそれぞれ3.9%と2.9%となりOECD加盟国における平均失業率を大きく下回る。韓国における失業率が最も高かった時期は、アジア経済危機以後の約2年間で、1998年と1999年における失業率はそれぞれ7.0%と6.6%であった。といっても 2020年のOECD加盟国の平均失業率よりも低い水準である。
OECD加盟国の全体失業率(2020年と2022年)
さらに、就職が難しいと言われている15~24歳の失業率も2022年現在7.0%でOECD加盟国の平均失業率10.9%を下回っている(2023年8月は4.4%)。
OECD加盟国の15~24歳年齢階層の失業率(2020年と2022年)
韓国の失業率がこのように低い理由はどこにあるのだろうか。韓国政府の完璧に近い労働市場政策の効果が現れた結果であるのか、あるいは、景気低迷などが理由で就職したいけれどあきらめて求職活動をしていない者を含めた非労働力人口が多いのが原因であるのか。本稿ではいくつかのデータを用いて韓国における失業率推計の問題点を説明したい。

韓国の失業率が統計上において低い水準を維持している理由は?

実際は若者の多くが失業状態にあるのに、なぜ韓国の失業率は統計上において低い水準を維持しているのだろうか?その主な理由としては、(1)15歳以上人口に占める非労働力人口の割合が高いこと、(2)非正規労働者の割合が高いこと、(3)自営業者の割合が高いこと等が挙げられる。

まず、韓国の失業率(失業率=失業者/労働力人口)が低く現れる最も大きな理由としては、15歳以上人口に占める非労働力人口の割合が高い点が考えられる。15歳以上人口は、働く意思のある「労働力人口」と、働く意思のない「非労働力人口」に区分することができる。労働力人口とは、労働に適する15歳以上の人口のうち、労働する意思を持つ者で、労働力調査期間である一週間に、収入を伴う仕事に多少でも従事した「就業者」(休業者を含む)と、求職中であった「失業者」の合計を指す。一方、非労働力人口とは、労働力人口以外の者で、病気などの理由で就業できない者と職場からリタイアした高齢者、職探しをあきらめた人、働きに出ない、あるいは出られない専業主婦や学生など、就業能力があるにも関わらず働く意思がない者を合計した人口である。

上記の定義を基準とした2022年における韓国の15~64歳の非労働力人口は1,067万人で15歳以上人口の約29.5%を占めており、同時点の日本の19.3%より高い。さらに、20~29歳と30~39歳の非労働力人口の割合はそれぞれ35.0%と24.8%で、日本の16.9%や11.8%を大きく上回っている。
日韓における年齢階層別非労働力人口の割合(2022年)
つまり、「潜在的な失業者」の多くが非労働力人口に含まれている可能性が高い1。韓国における非労働力人口の内訳を見ると、育児、家事、学業、高齢、障がい等を理由としたもの以外に、働く能力があるにも関わらず仕事を探していない「休業者」の割合は2022年12月時点に全非労働力人口の14.8%を占めている。また、就業準備のために仕事を探していない人が4.2%もいる状況だ。彼らは調査期間中に仕事を探す活動をしていないので、失業者ではなく非労働力人口に分類される。

2022年12月時点の休業者の構成比を年齢階層別にみると、60歳以上が43.9%で最も高く、次いで50~59歳(16.7%)、20~29歳(15.2%)の順になっている。一方、前年同月と比べた増加率は15~19歳が54.5%と他の年齢階層の増加率を大きく上回った。

韓国の失業率が統計上において低い二つ目の理由として、非正規労働者の割合が高い点を挙げられる。2022年8月現在の非正規労働者の割合は37.5%で、労働者10人の内、約4人がパート、アルバイト、契約社員等で働いており不安定就労の問題は深刻である。このように多くの人が非正規労働者として労働市場に参加することにより就業者数は増え、統計上の失業率は低下していると言える。

また、自営業者の割合が高いことも統計上の失業率を低くする理由になっている。韓国における自営業者の割合は、2021年時点で23.9%と同時点のデータが利用できるOECD加盟国33カ国の中で6番目に高く、日本の9.8%を大きく上回っている。特に、自営業者の相当数は給料をもらっていない無給の家族従業者であり、彼らの多数が調査期間中に仕事を探していないので、失業率の計算に反映されていないと言える。

韓国政府は、既存の失業率が労働市場の実態を十分に反映していないと判断し、2015年から毎月発表する「雇用統計」に、失業率と共に「拡張失業率」を公表している。「拡張失業率」とは、国が発表する失業者に、潜在失業者(就労を希望しつつも、様々な事情から求職活動をしていないので失業者としてカウントされない失業者)や不完全就業者(週18時間未満働いている者)を加えて失業率を再計算したものである。

このような計算方式によって算出された2022年の平均拡張失業率は、全体が10.6%、15~29歳が18.9%で、上記で説明した既存の定義の失業率、全体2.9%と15~29歳6.4%を大きく上回っている。
韓国における拡張失業率の推移(全体と15~29歳)
全体と15~19歳の拡張失業率は2020年に比べると大きく改善されたものの、この拡張失業率こそが、実際の韓国における失業状況をよく表している数字であるのかもしれない。韓国政府は不安定労働を改善する対策を講ずることを含めて、若者が安心して生活できる雇用機会の創出のための措置を積極的に進める必要があるだろう2
 
1 厚生労働省は潜在失業について、「1)「仕事を探している」や「仕事があればすぐに就ける」などの失業の要件を部分的に満たしていないために非労働力人口であるものの、例えば適当な仕事がないために仕事を探していない求職意欲喪失者など失業者に近いと考えられる者や、また、2)就業者であっても追加就業を希望している者(不完全就業者)などが想定される。ただし、例えば求職意欲喪失者については、現実には仕事への緊要度が本来の失業者よりも小さいため仕事を探していないことなどが考えられ、この点については注意が必要である。」と説明している。厚生労働省(2002)「平成14年版労働経済の分析」
2 本稿は、「曲がり角の韓国経済 第94回 韓国の失業率が統計上において低い主な理由」2023 年10月6日を加筆・修正したものである。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

(2023年10月27日「研究員の眼」)

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