2024年03月11日

米雇用統計(24年2月)-非農業部門雇用者数は予想を上回ったものの、全体的に労働市場の減速を示す結果

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は市場予想を上回った一方、失業率は市場予想を上回る

3月8日、米国労働統計局(BLS)は2月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+27.5万人の増加1(前月改定値:+22.9万人)と+35.3万人から大幅に下方修正された前月、市場予想の+20.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.9%(前月:3.7%、市場予想:3.7%)と前月から+0.2%ポイント上昇し、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.5%(前月:62.5%、市場予想:62.6%)と前月に一致、上昇を見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:非農業部門雇用増加数以外の指標は全般的に労働市場の減速を示唆

2月の非農業部門雇用者数は市場予想を大幅に上回った一方、過去2ヵ月分は合計▲16.7万人の大幅な下方修正となった。この結果、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+26.5万人と大幅に下方修正される前の23年11月~24年1月の同+28.9万人からは低下した。それでも23年通年の同+25.1万人を上回っており、依然として堅調な雇用増加ペースが続いていることを確認した。

一方、就業者数が減少する一方で失業者数が大幅に増加したことを反映して2月の失業率は3.9%と22年1月以来の水準に上昇し、労働需給の緩和を示した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.1%(前月改定値:+0.5%、市場予想:+0.2%)と+0.6%から小幅下方修正された前月、市場予想を下回った。前月比の伸びは1月の改訂前で22年3月以来の高水準となった反動もあって、大幅に伸びが鈍化した。

前年同月比では+4.3%(前月改定値:+4.4%、市場予想:+4.3%)と+4.5%から小幅下方修正された前月を下回った一方、市場予想に一致した(図表1)。

このようにみると、2月の雇用統計は非農業部門雇用者数が依然として堅調な雇用増加ペースを維持しているものの、失業率の上昇や時間当たり賃金上昇率の低下など全般的に労働市場の減速を確認する結果と言えよう。一方、2月は時間当たり賃金上昇率が低下したものの、依然としてFRBの物価目標(2%)に整合的とみられる3%~3%台半ばの水準を大幅に上回っていることから、3月19~20日に予定されているFOMCでは政策金利が据え置かれる可能性が高いだろう。

3.事業所調査の詳細:広範なサービス分野で堅調な雇用増加が持続

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+20.4万人(前月:+15.3万人)と前月から雇用の伸びが加速化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、専門・ビジネスサービスが前月比+0.9万人(前月:+4.0万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、医療・社会扶助サービスが+9.1万人(前月:+8.7万人)、娯楽・宿泊業が+5.8万人(前月:+0.8万人)、小売業が+1.9万人(前月:+1.5万人)と前月から伸びが加速したほか、運輸・倉庫が+2.0万人(前月:▲2.9万人)と前月からプラスに転じた。

財生産部門は前月比+2.3万人(前月:+1.9万人)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した。建設業が+2.3万人(前月:+1.9万人)と前月から伸びが加速した一方、製造業が▲0.4万人(前月:+0.8万人)と減少に転じた。

政府部門は前月比+5.2万人(前月:+5.2万人)と前月並みの堅調な伸びを維持した。内訳をみると、連邦政府が+0.9万人(前月:+1.2万人)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した一方、州・地方政府が+4.3万人(前月:+4.0万人)と小幅ながら伸びが加速するなどマチマチとなった。
前月(1月)と前々月(12月)の雇用増加数(改定値)は前月が+22.9万人(改定前:+35.3万人)と▲12.4万人下方修正されたほか、前々月が+29.0万人(改定前:+33.3万人)と▲4.3万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲16.7万人の大幅な下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って3月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+14.0万人(前月改定値:+11.1万人、市場予想:+15.0万人)と+10.7万人から上方修正された前月を上回った一方、市場予想は下回った。この結果、雇用統計同様、前月から雇用の伸びが加速したものの、ADP社の過去3ヵ月の雇用増加ペースが+13.6万人と雇用統計(+26.5万人)を▲12.8万人下回るなど23年3月以来の大幅な乖離幅となった。
 
2月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が34.57ドル(前月:34.52ドル)となり、前月から+5セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.2時間)とこちらは前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,185.75ドル(前月:1,180.58ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:全体の労働参加率は横這いもプライムエイジは上昇

家計調査のうち、2月の労働力人口は前月対比で+15.0万人(前月:+12.4万人3)と前月から小幅ながら伸びが加速した。内訳を見ると、就業者数が▲18.4万人(前月:+23.9万人)と前月から大幅なマイナスに転じた一方、失業者数が+33.4万人(前月:▲11.6万人)と就業者数の減少幅を上回る大幅な増加に転じて全体を押し上げた。非労働力人口は+2.0万人(前月:+5.1万人)と前月から小幅ながら伸びが鈍化した。これらの結果、労働参加率は62.5%と3ヵ月連続で横這いとなった(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は2月が83.5%(前月:83.3%)とこちらは前月から+0.2%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が89.3%(前月:89.2%)と前月から+0.1%ポイント上昇したほか、女性が77.7%(前月:77.4%)と+0.3%ポイント上昇した。

失業率は4ヵ月ぶりに上昇し、労働需給の緩和を示したが今後どのようなペースで失業率の上昇が続くのかFRBの利下げ時期を見極める上でも注目される。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
2月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は120.3万人(前月:127.7万人)と前月から▲7.4万人の減少となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは20.9%(前月20.8%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表7)。平均失業期間は18.7週(前月:20.8週)と前月から▲2.1週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(155.8万人)4や、経済的理由によるパートタイマー(437.6万人)も考慮した広義の失業率(U-6)5は、2月が7.3%(前月:7.2%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.4%ポイント(前月:+3.5%ポイント)と前月から▲0.1%ポイント縮小した。
(図表7)(図表7)
 
3 2024年から人口推計を変更しているため、2023年と断層が生じている。ここで記載している1月の労働力人口、就業者数、失業者数、非労働力人口はこの断層を調整した後のもの
4 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
5 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年03月11日「経済・金融フラッシュ」)

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