2024年02月01日

米FOMC(24年1月)-予想通り、4会合連続で政策金利を据え置き。3月利下げ観測を牽制

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:4会合連続政策金利を据え置き、ガイダンスを利下げ方向に変更

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が1月30日-1月31日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利を4会合連続となる5.25-5.5%で据え置いた。量的引締め政策の変更はなかった。

今回発表された声明文では景気判断部分で経済活動について「堅調なペースで拡大している」として前回から上方修正された。景気見通し部分では金融システムや信用収縮に関する記述が削除された。また、ガイダンス部分では前回まであった追加引締めに関する記述が削除された一方、「委員会はインフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで、目標レンジを引き下げることは適切でないと考えている」との記述が追加され、金融政策スタンスが従前の金融引締めから金融緩和に変更したことが明確に示された。

今回の金融政策方針は全会一致での決定となった。

2.金融政策の評価:次回の政策金利変更は利下げだが、早期の利下げ観測を牽制

政策金利の据え置きは予想通りであった。また、声明文の金融政策ガイダンス部分で追加引締めの部分が削除されたことやパウエル議長がFOMC会合後の記者会見で金融市場が織り込む3月利下げ観測を牽制したことは予想通りであった。

パウエル議長の記者会見では、過去6ヵ月間のインフレデータが十分に低いことを認めた上で、インフレが物価目標である2%に向けて低下することを確信するためには追加の証拠が必要とし、インフレに対して依然として慎重な姿勢を示した。一方、政策金利は引締めサイクルのピークに達しているとしたほか、経済が予想通りに進展すれば今年のある時点で金融緩和の開始が適切であるとしており、金融政策ガイダンスの変更と合わせ、次の政策金利の変更が利下げである可能性を明確に示した。

当研究所は本日のFOMC会合で3月の早期利下げの可能性が後退した一方、最近発表されたコアPCE価格指数が3ヵ月や6ヵ月前比でFRBの物価目標である2%を下回ってきていることを考慮し、利下げ開始時期を従前の6月から5月に変更する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを5.25-5.5%に維持することを決定(変更なし)
  • 加えて、以前発表した計画通り、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • 委員会は雇用とインフレの目標達成に向けたリスクがより良いバランスに移行しつつあると判断している(今回追加)
  • 経済見通しは不透明であり、委員会はインフレリスクに引き続き高い注意を払っている(今回追加)
  • 委員会は追加情報とそれが金融政策におよぼす影響を引き続き評価する(今回削除)
  • インフレ率を時間の経過とともに2%に戻すのに追加的な引締めが適切となる場合、その程度を見極める上で、委員会は金融政策の累積的な引締め、金融政策が経済活動やインフレに影響を与える時間差、経済・金融情勢を考慮する予定である(今回削除)
  • FF金利の目標レンジの調整を検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(今回追加)
  • 委員会はインフレ率が持続的に2%に向かっているとの確信が深まるまで、目標レンジを引き下げることは適切でないと考えている(今回追加)
  • 委員会はインフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 最近の指標は、経済活動が堅調なペースで拡大していることを示唆している(経済活動について、前回の「経済活動の伸びが第3四半期の力強いペースから鈍化した」”growth of economic activity has slowed from its strong pace in the third quarter”「経済活動が堅調なペースで拡大している」”economic activity has been expanding at a solid pace ”に上方修正)
  • 雇用の増加は昨年はじめから緩やかになったが、依然として力強く、失業率は低水準を維持している(前回の「年初から」”since earlier in the year”から「昨年はじめから」”since early last year”に表現変更)
  • インフレ率はこの1年で緩和したが、依然高止まりしている(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 米国の金融システムは健全で強靭だ(今回削除)
  • 家計や企業に対する金融・信用状況の引締まりは、経済活動、雇用、インフレを圧迫する可能性が高い(今回削除)
  • これらの影響の程度は依然として不透明である(今回削除)
  • 委員会はインフレリスクに引き続き高い注意を払っている(今回削除)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 失業率が大幅に上昇することなく、インフレ率は高水準から低下した。これは非常に良いニュースだ。しかし、インフレ率はまだ高すぎ、インフレ率低下の継続的な進展は確実ではなく、先行きは不透明だ。
    • 本日FOMCは、政策金利を据え置き、保有有価証券の削減を継続することを決定した。政策金利はかなり制限的な領域へ移行し、経済活動とインフレに効果が現れている。雇用とインフレの目標達成に向けたリスクは、より良いバランスに移行しつつある。
    • 力強い雇用創出は労働供給の増加を伴っている。25歳から54歳の労働参加率が上昇し、移民はコロナ禍前の水準まで回復した。雇用と労働者数の格差は縮小しているものの、労働需要は依然として供給を上回っている。
    • 昨年下半期のインフレ率が低下したことは歓迎すべきことだが、インフレ率が目標に向かって持続的に低下していることを確信するには、引き続き証拠を確認する必要がある。
    • 我々は政策金利がこの引締めサイクルのピークに達していると考えており、経済が予想通りに幅広く進展すれば、今年のある時点で政策抑制を縮小し始めるのが適切であろうと考えている。
 
  • 主な質疑応答
    • (インフレ率が完全に低下するとの確信を得るために何を確認する必要があるか)もっと良いインフレのデータをみたいと考えている。それは、これまでより良いデータを求めているのではなく、これまでみたきた良いデータが継続することを求めている。
    • (政策金利をテイラールールなどが推薦する水準よりも高く維持する理由は何か)テイラールールやそれ以外のルールを参考にしているが、テイラールールによって金融政策方針を決めることはない。実質金利に合わせて機械的に金融政策を調整できる訳ではない。また、中立金利がどの時点でどの程度なのか確信をもって知ることはできない。。
    • (FOMC会合で利下げについて、どのような議論があったのか)委員会メンバーから利下げの提案はなかった。政策金利の引下げを積極的に検討しなかったため、詳細を詰める段階にない。メンバーそれぞれの見解には大きな格差があり、5年後に発表される議事録をみればそれが分かるだろう。
    • (ソフトランディングの可能性について)昨年の成長率は堅調に推移した。失業率が3.7%で労働市場が堅調であることを示している。過去6ヵ月間インフレ率は低下しており、今後も低下が見込まれている。これは良い経済状況である。
    • (利下げがすくそこまで来ていると考えているか)我々はデータ次第で判断を行っており今後のデータによって左右される。今日の会合をみる限り、3月の会合までに委員会が3月利下げを確信する可能性は低いとみられる。
    • (量的引締め政策を減速させる可能性について議論したのか)今回の会合ではバランスシートについて若干の議論が行われたが、次回の会合で詳細な議論を開始する予定である。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年02月01日「経済・金融フラッシュ」)

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