2024年01月09日

米雇用統計(23年12月)-雇用者数、時間当たり賃金が市場予想を上回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回ったほか、失業率は市場予想を下回る

1月5日、米国労働統計局(BLS)は12月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+21.6万人の増加1(前月改定値:+17.3万人)と+19.9万人から下方修正された前月、市場予想の+17.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.7%(前月:3.7%、市場予想:3.8%)と前月から横這い、上昇を見込んだ市場予想を下回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.5%(前月:62.8%、市場予想:62.8%)と前月から▲0.3%ポイント低下し、横這いを見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:12月の非農業部門雇用者数以外は概ね労働市場の減速を示す結果

非農業部門雇用者数は12月こそ市場予想を上回る伸びを示したものの、後述するように過去2ヵ月分が合計で▲7.1万人下方修正されたこともあり、23年10-12月期の月間平均増加ペースは+16.5万人増と23年初からの同+22.5万人増を大幅に下回り、雇用増加ペースの鈍化が続いていることを確認した。

また、家計調査では就業者数が前月比▲68.3万人と20年4月以来の減少幅となったほか、労働参加率が23年2月以来の水準に低下するなど労働供給の回復が一服した。

一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.4%(前月:+0.4%、市場予想:+0.3%)と前月に一致、低下を見込んだ市場予想を上回った。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 前年同月比は+4.1%(前月:+4.0%、市場予想:+3.9%)とこちらは前月、低下を見込んだ市場予想を上回った(図表1)。この結果、前年同月比は23年6月以来6ヵ月ぶりに上昇に転じた。

このようにみると、12月の雇用統計は、当月の非農業部門雇用者数こそ市場予想を上回ったものの、雇用増加ペースの鈍化が続いているほか、家計調査の就業者数や労働参加率などの指標が労働市場の減速が続いていることを示した。一方、時間当たり賃金(前年同月比)は足元で賃金上昇圧力が高まっていることを示しており、FRBの早期利下げの可能性を低下させる結果となっている。

3.事業所調査の詳細:民間サービス、政府部門の雇用の伸びが加速

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+14.2万人(前月:+10.6万人)と前月から雇用の伸びが加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、運輸・倉庫が前月比▲2.3万人(前月:▲0.5万人)と前月からマイナス幅が拡大したほか、医療・社会扶助サービスが+5.9万人(前月:+9.6万人)と堅調を維持したものの、前月から伸びが鈍化した。一方、小売業が+1.7万人(前月:▲2.4万人)、専門・ビジネスサービスが+1.3万人(前月:▲1.9万人)と前月からプラスに転じたほか、娯楽・宿泊が+4.0万人(前月:+1.2万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+2.2万人(前月:+3.0万人)とこちらは前月から伸びが鈍化した。建設業が+1.7万人(前月:+0.6万人)と前月から伸びが加速した一方、製造業が+0.6万人(前月:+2.6万人)と伸びが鈍化した。

政府部門は前月比+5.2万人(前月:+3.7万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+0.7万人(前月:+0.2万人)、州・地方政府が+4.5万人(前月:+3.5万人)とそれぞれ前月から伸びが加速した。
前月(11月)と前々月(10月)の雇用増加数(改定値)は前月が+17.3万人(改定前:+19.9万人)と▲2.6万人下方修正されたほか、前々月が+10.5万人(改定前:+15.0万人)と▲4.5万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲7.1万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って1月4日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+16.4万人(前月改定値:+10.1万人、市場予想:+12.5万人)と+10.3万人から小幅下方修正された前月、市場予想を上回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが加速した雇用統計と整合的な動きとなった。
 
12月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が34.27ドル(前月:34.12ドル)となり、前月から+15セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,175.46ドル(前月:1,173.73ドル)となり、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:就業者数の大幅な減少に伴い労働参加率が低下

家計調査のうち、12月の労働力人口は前月対比で▲67.6万人(前月:+40.4万人)と前月から大幅なマイナスに転じた。内訳を見ると、失業者数が+0.6万人(前月:▲18.1万人)と前月から僅かながらプラスに転じた一方、就業者数が▲68.3万人(前月:+58.6万人)と前月から大幅なマイナスに転じて労働力人口全体を押し下げた。非労働力人口は+84.5万人(前月:▲22.4万人)と前月からプラスに転じた。これらの結果、労働参加率は62.5%と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は12月が83.2%(前月:83.3%)と前月から▲0.1%ポイント低下した。男女の内訳は、男性が89.2%(前月:89.3%)と前月から▲0.1%ポイント低下したほか、女性が77.1%(前月:77.3%)と前月から▲0.2%ポイント低下した。

失業率は3.7%と前月から横這いとなったが、23年4月の3.4%からは明確に底打ちしており、大きな流れとして労働需給の緩和は続いているとみられる(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
12月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は124.5万人(前月:122.0万人)と前月から+2.5万人の増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは19.7%(前月:19.4%)と前月から+0.3%ポイント上昇した(図表7)。平均失業期間は22.3週(前月:19.5週)と前月から+2.8週長期化した。

最後に、周辺労働力人口(156.2万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(421.1万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、12月が7.1%(前月:7.0%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.4%ポイント(前月:+3.3%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年01月09日「経済・金融フラッシュ」)

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