2024年02月16日

Amazonに対する競争法訴訟-事実上の最安値要求は認められるか

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

2|Amazonは競争阻害行為により独占を維持する
Amazonは二つの市場で価格競争を阻害する反割引行為を通じて独占を維持する。それぞれ以下の(1)(2)の通りである。

(1) オンライン販売仲介サービス市場での反割引行為
Amazonの中心的な戦略は最も基本的な競争手法である価格競争を制限することである 。本項(1)で述べる事柄は図表15の色付き部分である。
【図表15】オンライン販売仲介サービス市場での価格維持行為
1) まず、価格維持政策の基礎にはAmazonのインターネット横断的な価格調査グループである「競争監視チーム」が存在する。Amazonのこの価格監視チームはAmazon以外でより低い価格で販売している販売者を発見し、その販売者を罰する。この場合、Amazonは契約上の罰則と、それを裏打ちする、オンラインスーパーストアからの追放を含むさらに強い罰則で脅迫する。

Amazonの競争監視チームは価格を監視し、反割引スキームを支援する27。Amazonは数千の最も人気のある商品がインターネットのどこで販売されていようが、数時間以内にその価格を検知することができる。Amazonの幹部はAmazonが最安値であるために価格を検知し他所で割引をしないようにすることは「汚い仕事だが、やる必要がある」と述べる。
 
27 前掲注1 p86参照。
2) Amazonが販売者に対して行うペナルティの一つの方法はBuy Boxからの商品削除であり、さらにはAmazonのオンライン販売仲介サービスからの追放である。

Amazonは少なくとも2011年から2019年3月まで販売者に対してAmazonと他のオンラインショップとの間の「公平価格維持」条項を要求していた。この条項は自社での販売価格を最安値とすることを義務付ける、いわゆる最恵国待遇(Most Favored Nation、MFN)条項であるが、当局の調査が開始されたことから、EUでは2013年、米国では2019年には取り下げられた。

MFN条項は契約としては終了したが、Amazonはこの戦略を捨てることはなかった。そのかわりAmazonは「競争者選択-目立つ場所でのオファー不適格化(Selected Competitor-Featured Offer Disqualification、SC-FOD)」の範囲と効果を拡大した。SC-FODはAmazonのアルゴリズムでBuy Boxを獲得している販売者が他の競合社(Selected Competitor)で1ペニーでも安く販売している場合には、Buy Box不適格とするものである28。Amazonは不適格とする際に販売者に対して、他所でより安く販売していることと、その価格を告げるが、どこで販売しているのを見つけたかは告げない。

2022年にはAmazonは数千の販売者にAmazon以外でより低い価格で販売しないことがBuy Box獲得に必要であると説明している。
 
28 前掲注1 p87参照。
3) Amazonは最も重要な販売者に対して他所で安売りしないような契約を継続している。このような制限はAmazonブランド標準プログラム(Amazon’s Standards for Brands program、ASB)に埋め込まれている29。ASB指定業者はAmazonが任意に選択する販売者で、販売者側に異論があっても指定される。他の販売者よりも成長が早く、かつブランドに大きな影響力を持っている販売者がASBに指定される。ASBはBusiness Solution Agreement(BSA)に埋め込まれ、ASB指定業者はBSAに同意しなければならない。したがって契約上の義務である。具体的にはASBはASB指定業者に最低95%の期間において、他のオンラインストアでAmazonでの販売価格と同等または高くなければならないとする。

また、ASB指定業者はそのほとんどの商品をAmazonで販売しなければならず、在庫はいつでも販売できるように準備しておかなければならない。そしてPrime適格獲得のために商品はFBAを利用しなければならない。これらの制限はASB指定業者によるAmazon外での販売に制限をもたらし、Amazon以外のオンラインチャネルの特性に適した販売戦略をとることを制限する。このような制限はAmazonの二つの市場(オンラインスーパーストア市場、オンライン販売仲介サービス市場)での独占力を強化する。
 
Amazonの反割引戦略は競合社と販売者が安価で販売することを阻止し、競合社が競争に必要な十分な規模を獲得することを阻害する。さらにAmazonは急激に手数料を上昇させたため、同じ利益を獲得するために、販売者はより安い手数料を課すだろう他のオンライン販売仲介サービスにも高い価格をつけなければならない。

Amazonは販売者に係るコストにかかわらず、販売者がAmazon外でAmazon以下の価格で販売することをアルゴリズムによって防止する。また、ASBは契約上の制限によって同様の結果をもたらす。Amazonは他所で販売する価格までAmazonでの価格を下げることを提案するが、Amazonで同じ値段まで下げると、Amazonの高い手数料等のため販売者は損失を計上することになる。
 
29 前掲注1 p91参照。
(2) オンラインスーパーストア市場における反割引行為
Amazonは卸売業者(first party seller)反割引アルゴリズムで価格競争を抑制する。本項(2)では、オンラインスーパーストアのおける市場横断的な価格維持行為についてFTC等の主張を述べる(図表16)30
【図表16】オンラインスーパーストア市場での価格維持行為
 
30 前掲注1 p95参照。

1) まず、Amazon競争監視チームの機能は上記(1)と同様である。

2) MarketPlaceにおける販売者(third party seller)とは異なり、Retail(オンラインスーパーストア)に納入する卸売業者(first party seller)の商品に対して最恵国待遇(MFN)条項が問題とされては来なかった。この理由としては顧客への販売価格は小売業者であるAmazonが決定するものであるため、卸売業者の商品が他のオンラインストアでAmazon以下の価格で販売されないように卸売価格を決定することについては問題とされてこなかったと推察される。しかし、今回の訴状ではそのような行為を問題としている。具体的には、契約上でAmazonでの販売価格が最安となるよう義務化し、違反者に対しては最悪、Amazonから追放するといったペナルティを与えるものである。

3) また、Amazonの卸売業者反割引アルゴリズムは競合社が価格をさげることを防止する。AmazonはAmazonの価格が最も安いという認識を維持することの重要性を理解している。Amazonはオンラインストアあるいはオンライン販売仲介サービスでの販売者の価格が上下どちらに動いてもそれを検知し、1ペニーまでそれを模倣する。Amazonの卸売業者反割引アルゴリズムは他のオンラインストアが価格競争を仕掛けることを止めさせてしまう。たとえば2017年にウォルマートが引き取りプログラムとして、配送ではなく、顧客が引き取りにくる場合に割引することとした。しかし、Amazonの卸売業者反割引アルゴリズムはウォルマートの引き取りプログラムを利用した割引による競争を止めさせることができた。

ところでAmazonが価格を下げた場合のfirst party seller(FPS)の納入価格については本訴訟の訴状に記載がない。ただ、2021年にコロンビア特別区が提訴した訴状には最小マージン条項(Minimum Margin Agreement、MMA)がAmazonとFPSの間に存在することが指摘されている31。MMAはAmazonがFPSから商品を購入して、オンライン市場で販売したときに一定の最低利益をFPSが保障するものである。FPSが同じ商品を他の競合するオンライン市場で安価で販売したときに、対抗のためAmazonが販売価格を下げたときには、AmazonはFPSに最低利益との差額の金額を要求できるとするものである。したがって、Amazonは自社の利益を圧縮させることなく値下げができる。

以上のような取り組み、すなわち、Amazonは様々な反割引プログラムをすべて活用し、オンライン販売仲介サービスとオンラインスーパーストアの力を組み合わせ、毎年数兆ドルにも上る商品の価格競争や比較販売を制限した。参考事例として下記図表17を参照。
【図表17】Zulilyの事例
 
31 基礎研レポート「Amazonの最恵国待遇条項訴訟-棄却決定に対するコロンビア特別区からの申立て」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72168?pno=3&site=nli 参照。
3|AmazonはFBA(保管・運送サービス)を強制し独占を維持するとともに価格上昇の弊害を生む
Amazonの販売者に対する優越的な地位の源泉は、検索結果の上部に、顧客が簡単な操作で購入できるBuy Boxに掲載するというものである。このBuy Boxに掲載されるためには販売者がPrime適格となる必要があり、そのためにはFBAを利用する必要がある。このことがAmazonでの販売コストを引き上げ、ひいては、オンラインスーパーストア市場およびオンライン販売仲介サービス市場での販売価格を引き上げる32。図示すると図表18の通りである。
【図表18】Prime適格とFBA
Prime適格はAmazonの巨大な顧客ベースに十分にアクセスするための前提であり、Amazonのオンライン販売仲介サービスにおける販売者にとって重要なポイントである。AmazonはPrime適格を得る条件としてAmazonのFBA(保管・運送サービス、上述)を利用することを要求する。Amazonのこの要求がなければ、AmazonとAmazon以外のオンライン販売仲介サービスの商品の双方を容易に配送できる販売者は独立系の保管・運送サービスを選択するだろう。

Prime適格から外された販売者はAmazonの店頭から消える33。Prime適格はBuy Boxを獲得するために必須である。Amazonはどの商品がBuy Boxを獲得するか決定する「注目販売者アルゴリズム(featured merchant algorithm)」では、AmazonのFBAを利用する販売者の商品にPrime適格商品に優遇を与え、Buy Box獲得確率を上昇させると認めた。

AmazonはPrime適格のためにAmazonのFBAを販売者に要求する。保管・運送サービスの前責任者は「販売者はAmazonから保管・運送サービスを利用したくないかもしれないが、Prime適格によりもたらされる販売増加を買うために保管・運送サービスを利用する」といった。

Prime適格となるために販売者にAmazonのFBA利用を強制することによって、Amazonは複数のオンライン販売仲介サービスで販売するコストを上昇させ、二つの市場の競争を制限する。Prime適格と保管・運送サービスを結びつけることで、Amazonは販売者の保管・運送サービスの選択肢を狭め、マルチフォーミング(=複数の販売経路で顧客と結びつくこと)を制限し、オンライン販売仲介サービス市場とオンラインスーパーストア市場の双方の競争を阻害した。Amazonの制限がなければ、販売者はより容易に複数の市場から販売が可能であったはずである。このことにより相互に関連する二つの方法で販売者の競争とオンラインスーパーストアが販売者の商品を選択する能力を奪った。

Amazonは複数のチャネルで販売する販売者の在庫を分けさせることでコストを上昇させた34。AmazonがPrime適格のためにAmazonのFBAを強要したために、Amazonのみで販売することを望まない販売者はAmazonのFBAのための在庫と、その他の独立系の保管・運送サービスのための在庫に分ける必要がある。このことは販売者にとってコスト増加の原因となる。

Amazonの行為は複数チャネルで販売する販売者のコストを増大させるために、他のオンラインスーパーストアやオンライン販売仲介サービス業者が意味のある競争を行う能力を妨害している。この行為は人工的により多くの顧客をPrime会員へと加入させている。
 
32 前掲注1 p106参照。
33 前掲注1 P108参照。
34 前掲注1 p111参照。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【Amazonに対する競争法訴訟-事実上の最安値要求は認められるか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

Amazonに対する競争法訴訟-事実上の最安値要求は認められるかのレポート Topへ