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- Amazonの最恵国待遇条項訴訟-棄却決定に対するコロンビア特別区からの申立て
2022年08月30日
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■要旨
2021年5月に米国コロンビア特別区(以下、特別区)はAmazonが第三者である小売業者(Third Party Seller、TPS)等との間に最恵国待遇条項を含む契約を締結し、Amazon以外のオンライン市場における商品販売価格をAmazonオンライン市場における価格以下にしないことを強制していることが反トラスト法違反として、特別区の裁判所に提訴を行った。
2022年3月に裁判所は、Amazonからの棄却申立てを受けて、口頭による決定で特別区の提訴を棄却した。これに対し、同年4月特別区は棄却に対する「撤回申立て」と訴訟係属を前提とした「修正申立て」を行った。
撤回申立てでは、原告である特別区が「表面上もっともらしい」程度の申立てを行った場合に裁判所は棄却することができず、本案の審査に入らなければならないと主張する。そして、最恵国待遇条項によって他のオンライン市場における価格が維持されたとの事実を示したうえで申し立てを行っており、「表面上もっともらしい」基準を満たしている。したがって棄却は不当であるとする。
また、特別区は補足的に「修正申立て」を行っている。概要としては(1)米国内のオンライン市場間の競争が行われる市場が関連市場として画定できる。(2)関連市場でAmazonは支配的な事業者である。(3)Amazonの最恵国待遇条項は不当にAmazonの競争者であるオンライン市場運営者の競争を排除したというものである。
特別区の主張には議論の余地があると思われ、Amazonからも反対申立てが行われるものと思われる。訴訟の今後を注視したい。
■目次
1――はじめに
2――撤回の申立て
1|事案の概要
2|棄却は裁判所の先例に反する
3|特別区の主張は先例の基準を満たす
4|裁判所は事実誤認をしている
5|反トラスト法分析は契約書文言で完結しない
6|合法的で振付のない自由市場行為を検討しなくてよい
3――修正申立て
1|Amazonはオンライン市場における独占力を有する
2|MFNはAmazonのオンライン市場を保護する
3|Amazonの高い手数料が他のオンライン市場での価格にも影響を及ぼす
4|MMAはオンライン市場間の競争を減少させ、消費者価格を上昇させる
5|AmazonのMFNとMMAは市場における競争を制限する
6|AmazonのMFNはオンライン市場の価格競争を抑圧する
7|Amazonの反トラスト法的行為は消費者TPS,FPS,と競争に被害を与えている
8|Amazonの反競争的行為は州の反トラスト法に違反する
4――検討―反トラスト法違反となるための要件を満たすか
1|総論
2|関連市場の画定
3|市場支配力の存在
4|反トラスト法的行為の影響と正当化事由
5|反トラスト法違反と言えるか
5――おわりに
2021年5月に米国コロンビア特別区(以下、特別区)はAmazonが第三者である小売業者(Third Party Seller、TPS)等との間に最恵国待遇条項を含む契約を締結し、Amazon以外のオンライン市場における商品販売価格をAmazonオンライン市場における価格以下にしないことを強制していることが反トラスト法違反として、特別区の裁判所に提訴を行った。
2022年3月に裁判所は、Amazonからの棄却申立てを受けて、口頭による決定で特別区の提訴を棄却した。これに対し、同年4月特別区は棄却に対する「撤回申立て」と訴訟係属を前提とした「修正申立て」を行った。
撤回申立てでは、原告である特別区が「表面上もっともらしい」程度の申立てを行った場合に裁判所は棄却することができず、本案の審査に入らなければならないと主張する。そして、最恵国待遇条項によって他のオンライン市場における価格が維持されたとの事実を示したうえで申し立てを行っており、「表面上もっともらしい」基準を満たしている。したがって棄却は不当であるとする。
また、特別区は補足的に「修正申立て」を行っている。概要としては(1)米国内のオンライン市場間の競争が行われる市場が関連市場として画定できる。(2)関連市場でAmazonは支配的な事業者である。(3)Amazonの最恵国待遇条項は不当にAmazonの競争者であるオンライン市場運営者の競争を排除したというものである。
特別区の主張には議論の余地があると思われ、Amazonからも反対申立てが行われるものと思われる。訴訟の今後を注視したい。
■目次
1――はじめに
2――撤回の申立て
1|事案の概要
2|棄却は裁判所の先例に反する
3|特別区の主張は先例の基準を満たす
4|裁判所は事実誤認をしている
5|反トラスト法分析は契約書文言で完結しない
6|合法的で振付のない自由市場行為を検討しなくてよい
3――修正申立て
1|Amazonはオンライン市場における独占力を有する
2|MFNはAmazonのオンライン市場を保護する
3|Amazonの高い手数料が他のオンライン市場での価格にも影響を及ぼす
4|MMAはオンライン市場間の競争を減少させ、消費者価格を上昇させる
5|AmazonのMFNとMMAは市場における競争を制限する
6|AmazonのMFNはオンライン市場の価格競争を抑圧する
7|Amazonの反トラスト法的行為は消費者TPS,FPS,と競争に被害を与えている
8|Amazonの反競争的行為は州の反トラスト法に違反する
4――検討―反トラスト法違反となるための要件を満たすか
1|総論
2|関連市場の画定
3|市場支配力の存在
4|反トラスト法的行為の影響と正当化事由
5|反トラスト法違反と言えるか
5――おわりに
(2022年08月30日「基礎研レポート」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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