2024年02月16日

Amazonに対する競争法訴訟-事実上の最安値要求は認められるか

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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3|Amazonはオンライン販売仲介サービス市場において重大な参入障壁を有する
Amazonのオンライン販売仲介サービスは重大な参入障壁を有するとFTC等は主張する21。たとえば、規模の経済、スイッチングコストおよびネットワーク効果である。FTC等は、特にネットワーク効果、ここでは顧客が増加することで販売者が増加し、販売者が増加することで顧客が増加するという両面ネットワークが重大な参入障壁になると主張する。また、オンライン販売仲介サービスとオンラインスーパーストアの相乗効果、また、Amazon Primeという送料無料サービスだけではなく、ストリーミングサービス等を含むサービスを提供する会員制度がこのネットワーク効果を強化していると主張する。詳細は図表10のとおりである。
【図表10】オンライン販売仲介サービスにおける参入障壁
 
21 前掲注1 p68参照。

6――直接的な証拠がAmazonの独占力を示す

6――直接的な証拠がAmazonの独占力を示す(直接的な立証方法)

ここはFTC等が直接的な立証方法(上述4-1|での②)により、オンラインスーパーストア市場およびオンライン販売仲介サービス市場においてAmazonに独占力があることを立証しようとする部分である(図表11)。裁判上の手法として立証手段が複数あるときは両方を主張しておくということは珍しくはない。
【図表11】オンラインスーパーストア市場とオンライン販売仲介サービス市場での独占力(直接的立証方法)
なお、制限された産出量と超競争的な価格という言い回しは直訳であって耳慣れないが、上述の通り、販売量を減らさずに価格をあげることができるといったものである。また、デジタルサービスのエリアではシェアを減らさずにサービスの品質を落とすことができるということもこの制限された産出量と超競争的な価格に該当するとされる。

1|Amazonは自然な検索結果に関係のない広告をちりばめることで収益を得つつ検索結果の質を落とす
Amazonは2017年には検索結果の価値ある上部を大きな広告枠とした(経緯は図表12)22
【図表12】広告掲載の経緯
Amazonが検索結果ページを広告で埋めることで、顧客はより低価格の商品を探すことが難しくなり、より高価な商品を買わされるようになったとFTC等は主張する。他方、顧客の1クリックごとに広告主はコストを支払わなければならないため、販売者は通常の販売手数料のほか、広告がクリックされることによる多くのコストを支払う必要が生じた。

Amazonの内部調査ではより多くの広告を掲載することは顧客のコストを上昇させるだけではなく、購入率を下げ、検索結果が利用されないことを増やすとの結果であった。これは顧客の購買を減少させるが、短期的には広告収入がそれを大きく上回るとした。この販売手数料の減少と広告料による収入の上昇はトレードオフの関係にあるが、Amazonは競合社に顧客を奪われずに顧客の購買体験を悪化させている。

ここでは検索結果の品質を下げて、顧客の購買体験を犠牲にしても競合社に顧客を奪われることがなかったことをFTC等は主張しており、これが「制限された産出量と超競争的な価格」に該当すると主張する23
 
22 前掲注1 p75参照。
23 収益が減少しなければ販売量が減少しても、「制限された産出量と超競争的な価格」に該当するかどうかは議論の余地があると思われる。

2|Amazonは自社のプライベートブランドを販売者の上に置くことで検索品質を下げる
Amazonは自然な検索結果の上に「専門家による推薦」などと表示される、お勧め表示欄(Amazonのプライベートブランドが表示される)を設けることで検索の品質をさらに下げている24。お勧め表示欄の存在によって、販売者はAmazonにより抑圧されることでイコールフッティングの競争ができず、逆にプライベートブランドは作為的に押し上げられる。

もともとAmazonのプライベートブランドと他の類似商品は自然な検索結果の中で競争をしていたが、Amazonはこの戦いに敗れた。このためAmazonはお勧め表示欄に自社プライベートブランドを掲載することとした。Amazonがバイアスのかかったお勧め表示欄によって検索品質を下げたにもかかわらず、多くのビジネスを失わなかったことや行動を変えなかったことは独占力を示すものであるとする。

この項目も前項1|と同じ主張である。
 
24 前掲注1 p79参照。

3|Amazonは販売者に対する価格をあげたにもかかわらずビジネスを失わなかった
当初、Amazonでは販売者には紹介・販売手数料しか要求していなかった。しかし現在では、広告されている商品は広告されていない商品の46倍もクリックされている。したがって販売者にとっては広告料の支払いは必須となった。そのほか、様々な手数料を徴収することでAmazonは顧客を失わずに価格を上昇させた25

AmazonはFBAの料金を2020年から2022年の間に30%も値上げした。FBA契約をすることは販売者がAmazonで成功する前提条件である(後述7-3|)。

広告料やFBAに要するコストなどによって販売者の収入から徴収する割合(take rateという)を劇的に増加させた。このtake rateは2014年に27.6%であったが、2022年には■(訴状では伏字となっている)%まで増加した。結果としてAmazonは販売者の収入が2ドルあるとすると、1ドル近く徴収していることとなる(=つまり■は50%前後ということになろう)。しかし、販売者はAmazonに依存しているため、Amazonの要求に従わざるを得ない。

販売者の利益は元々薄く、Amazonの費用増加によって全く利益が出ないか出ても少額にとどまる。2021年の調査でAmazonのコストと収益性に対して満足している販売者の割合は10%を切っている。 

多くの販売者はAmazonに対して好意的な見方をしていないが、引き続きAmazonを利用する。それは現実的な選択肢がないからだ。Amazonは突然かつ恣意的に販売者のアカウントを停止したり、在庫を没収したりする。販売者は常に恐怖の中にいるとFTCは主張する。。

ネットワーク効果が逆回転する、すなわち販売者が離脱すると顧客も減少することになる。しかし、Amazonは販売者の支払手数料を販売者の数を減らすことなく引き上げることに成功している。これは「制限された産出量と超競争的な価格」に該当するとFTC等は主張する。
 
25 前掲注1 p81参照。

7――Amazonによる違法な独占力維持行為

7――Amazonによる違法な独占力維持行為

本項ではFTC法やシャーマン法2条違反となるもうひとつの要件である「反競争法行為と弊害の発生」についてのFTC等の主張の部分である26。図示してあるうちの色付きの部分の問題である(図表13)。
【図表13】反競争法行為と弊害の発生
より具体的には独占力を不当な(あるいは悪意のある)方法で獲得・維持することと、そのために顧客等に不利益が発生していることである。
 
26 前掲注1 p84参照。

1|悪意のある独占力の維持・獲得、弊害の存在
市場で独占力を有するだけでは違法とはならず、悪意のある独占力の維持・獲得、および反競争行為により弊害が存在することを立証することが違法認定のために必要である。要約すると、(1)販売者(first party seller、third party seller)がAmazon外でAmazonの価格以下で販売していないかを常時監視し、Amazon以下の価格で販売していた場合にはペナルティを与え、最終的にAmazonで販売することができないところまで追い込むことで市場での価格競争を阻害し、消費者により安価で購入することを妨害するという弊害を生じさせた。(2)販売者がBuy Boxを獲得するためにFBA(Amazonの保管・運送サービス、上述)を強制することで、販売者の効率的な販売活動を阻害し、消費者により安価で購入することを妨害するという弊害を生じさせたことが主張されている。まずは最低価格の維持について述べる。大要は図表14の通りである。
【図表14】Amazonの最低価格維持の仕組み
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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