2024年02月16日

Amazonに対する競争法訴訟-事実上の最安値要求は認められるか

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

2023年9月26日、連邦取引委員会(Federal Trade Commission、以下、FTC)およびニューヨーク州をはじめとする17の州(以下、FTC等)がAmazonをワシントン州西部地区の連邦地方裁判所に対して訴えた(以下、本訴訟)1

本訴訟の対象となっているのは、Amazonが顧客に対して直接販売者となるRetail(訴状ではオンラインスーパーストアとも呼ばれる)と、Amazonが運営・提供するプラットフォームで、販売者(third party sellers)が販売する形態のMarketplaceである。FTC等の主張内容としては、これらRetailとMarketplaceに関してAmazonは独占状態を不当に構築・維持しており、これらは米国の競争法(2―で後述)に違反するというものである。なお、訴状では州の競争法違反も主張されているが、本稿では省略する。

FTC等は、後述するAmazonの行為が、連邦取引委員会法(不公正競争行為の禁止)(15 U.S. Code§45)違反および市場独占の禁止(15 U.S. Code§2)違反に該当するとして、Amazonに対して該当行為の禁止や金銭的賠償を求めている。

2――該当法令

2――該当法令

1|米国の競争法
米国の競争法(日本における独占禁止法に該当)を担当する連邦の組織は、司法省(Department of Justice)の反トラスト局(Antitrust Division)と、FTCがある。司法省はカルテルや私的独占を禁止するシャーマン法違反と、シャーマン法の予防的規定であり、企業結合の禁止や不当な排他的条件付き取引の禁止などを規定するクレイトン法違反について審査または訴訟を行うことができる。

他方、FTCは連邦取引委員会法(15 U.S. Code§45)違反について自ら審査し、訴訟を提起することができる。15 U.S. Code§45は「商業上あるいは商業に影響を及ぼす不公正な競争、および不公正又は詐欺的(deceptive)な行為又は慣行は本条によって違法と宣言される」と定める。本訴訟ではFTCがAmazonの行為が15 U.S. Code§45違反であると申立てている。なお、FTCはカルテルや私的独占を禁止する手段として15 U.S. Code§45に基づいて訴訟等を行うことができるため、本件では私的独占維持を排除するために不公正競争行為を訴訟の対象行為として提訴している。
2|私的独占の禁止
本件訴訟では、米国司法省が原告に名を連ねていないが、17の州の司法長官が原告に加わっている。州司法長官は州の競争法の執行に加えて、連邦法違反(ここでは私的独占の禁止)についても訴訟を提起することができる。該当条文は15 U.S. Code§2(シャーマン法)であり、「すべての人であって、複数の州にまたがり、あるいは外国との間の貿易または商業のいずれかの部分において独占し、または独占を企図し、他人と共同して、あるいは共謀して独占化することは重大犯罪(felony)とみなされる」とする。

本件訴訟では州司法長官は自州の競争法違反(省略)とシャーマン法違反を主張している。FTCと私的独占の禁止については上述1|の通りである。
 
以下では、FTC等の訴状に沿って、事実関係およびFTCの主張等を述べていく。

3――前提事実

3――前提事実

(1) 全体的な構成:Amazonはオンライン書店として起業し、DVDやCD、電化製品、玩具と広げ、現在ではほぼすべての物品を販売するようになった。Amazonは創業当初には卸売業者から商品を購入し、直接小売りをしていた。またAmazon独自のプライベートブランドも販売していた。この小売とプライベートブランドを併せてAmazonでは”Retail”と呼んでいる2。なお、訴状ではRetailのことをオンラインスーパーストアとも呼称している。

あわせてAmazonは”Marketplace”と呼ぶオンライン販売仲介サービスを運営している。これは販売者 (third party sellers)がAmazonのオンラインストアの場を借りて販売を行うものである。販売者は販売手数料(月額又は販売ごと)、紹介手数料(referral fee)、保管・運送手数料、広告料をAmazonに支払う。このMarketplaceによってAmazonは在庫リスクなしに商品の選択の幅を拡大することができる(図表1)3
【図表1】Amazonの事業形態
Amazonではモバイル向けアプリを出しており、ひと月あたり1億2600万人がアプリ経由で、4200万人がPC経由でアクセスしている。Amazonには10億を超えるアイテムが揃っている4
 
2 前掲注1 p23
3 前掲注1 p24
4 前掲注1 p25
(2) Buy Box:顧客が商品を検索すると検索結果が表示される。検索結果をクリックすると詳細ページ(Detail Page)が表示される。この詳細ページ(検索結果ページ)には通常、Buy Boxが含まれる5。Buy Boxには一つの商品が表示され、カートに追加、あるいは直ちに購入することができるようになっている。Buy Box候補がいくつかあるときにAmazonは特定のアルゴリズム(Featured Merchant Algorithm)によって商品を選定している6。Amazonでは、98%近くの商品はBuy Boxから購入されている。後述の通り、Buy Boxを販売者が獲得するためにはAmazonの保管・運送サービス(FBA)を利用することが必要などの条件がある。

Amazonは意図的に顧客をBuy Boxに表示されている商品以外から遠ざけている。検索結果ページの商品数だけ表示されているリンクをクリックすると、すべてのその他の商品(All Other Display)ページに誘導される。このページに表示されている商品はカートに加えたり、直ちに購入できたりしないようなレイアウトになっている7
 
5 なお、日本のAmazonでは現時点でBuy Boxが表示されていないようである。本文後述の通り、EUでは、AmazonがBuy Boxの取扱いを変更する旨を確約計画で示しており、その影響があるのかもしれない。
6 前掲注1 P29
7 前掲注1 p30
(3) Amazonの広告サービス:2014年にAmazonは「Amazonのウェブページ、機器、モバイルアプリ」の収益化を追い求めることとした。Amazonは検索結果ページに広告を表示し、販売の一環として位置づけることとした。現在では、Amazonの検索結果ページは広告だらけである。主には二つの広告手法が用いられている。ひとつはSponsored Brandというもので、検索結果の上部に検索結果のように表示される。もうひとつはSponsored Productというもので検索結果のページに覆いかぶさる形で表示される8

Amazonでは自然な検索結果が下部に追いやられるので、見つけにくく、クリックされにくくなった。
 
8 前掲注1 p32
(4) Amazon Prime:Amazonは2005年以ショッピングサブスクリプションとして、Amazon Primeを立ち上げた。Prime会員は年79ドルで無制限に送料無料のサービスが受けられる。AmazonのPrimeに対する評価は、「不可能ではないにせよ競合社がまねるのはおそらく高くつく」というものである。Amazon Primeには、Primeビデオ、Amazon Music Prime、Prime Gaming、RxPass(購入可能な処方箋医薬品の販売サービス、月5ドルで配送が可)などのサービスが含まれる。

Prime会員は無料ではないことから、会員は元を取ろうとしてAmazonで買い物を繰り返すこととなり、他のショップで購入することをしなくなる9

Prime会員が送料無料となる商品にはPrimeバッヂが表示される。Prime会員はPrimeバッヂのついた商品だけを表示させるように選択することができ、一度選択すると、それ以降、Primeバッヂ付き商品のみが表示されるようになる10。Amazonはこのほか、Prime会員が誤解するようなデザインを構築し、会員が望んでいないのにPrime会員継続を選択させる。Prime会員からの脱退はオンライン迷路を抜けないとできないような難しい仕組みとなっている(図表2)11
【図表2】AmazonPrime
 
9 前掲注1 p37
10 前掲注1 p40
11 前掲注1 p41
(5) Amazonの保管・配送サービス(Fulfillment By Amazon、以下、FBA):Fulfillmentとは、倉庫からピックアップし、梱包、配送準備することを指す。配送先までの配送はAmazonが自社で行うこともあれば、別の運送業者に委託することもある。AmazonではRetail、Marketplaceにおける全注文のうち92%がFBAを利用している。Amazonは自社が米国で最も配送をしている販売者だと推定している(図表3)12
【図表3】FBA
 
12 前掲注1 p42
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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