2024年02月09日

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3.東京都心部Aクラスビル市場の見通し

3-1. 新規供給見通し
前述の通り、東京ビジネス地区で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区」で、次いで「千代田区」、「中央区」が大きい。現在、これらのエリアでは大規模開発計画が進行中である。以下では、「港区」・「千代田区」・「中央区」のオフィス開発計画を概観したい。
(1) 「港区」
「港区」では、2023年に大規模ビルの竣工が相次いだ。3月に三田3丁目で地上42階建ての「住友不動産東京三田ガーデンタワー」(延床面積約20万m2)が竣工した(図表-17 ①)。また、6月に麻布台1丁目で、330mと日本一の高さとなる地上64階建ての「麻布台ヒルズ森JPタワー」(延床面積約46万m2)が竣工し(図表-17 ②)、7月に虎ノ門1・2丁目で地上49階建ての「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」(延床面積約25万m2)が竣工した(図表-17 ③)。

今後も、複数の大規模開発が計画されている。赤坂1・2丁目で、森トラストとNTT都市開発が地上 43階建ての「赤坂トラストタワー」(延床面積約22万m2)を開発中で、2024年8月に竣工予定である16(図表-17 ④)。また、芝浦1丁目の浜松町ビルディング跡地に、野村不動産と東日本旅客鉄道がオフィス2棟(S棟:43建て・2025年2月竣工予定、N棟:45建て・2030年度竣工予定)を開発中で(図表-17 ⑤)、延床面積は合計約55万m2に達する計画となっている17

また、高輪2丁目では、JR東日本が「TAKANAWA GATEWAY CITY」を開発中で、複数のオフィスビルが竣工予定である18(図表-17 ⑥)。2025年3月に「複合棟ⅠSouth(30階建)」と「複合棟ⅠNorth(29階建)」が竣工予定で、延床面積は約46万m2に達する見通しである。その後も、2026年3月に31階建て「複合棟II」(延床面積約21万㎡)が竣工予定である。
図表-17 「港区」におけるオフィス開発計画
 
16 NTT都市開発HP:事業案内
17 「SHIBAURA PROJECT」HP
18 「TAKANAWA GATEWAY CITY」HP
(2)「千代田区」
「千代田区」では、内幸町1丁目のみずほ銀行内幸町本部ビル跡地で、第一生命保険、中央日本土地建物、東京センチュリー、東京電力パワーグリッド、TF内幸町特定目的会社が、地上46階建ての複合ビル(延床面積約29万m2)を開発中で、2027年に竣工予定である19(図表-18 ①)。

また、大手町2丁目では、三菱地所が地上62階建ての「Torch Tower(B棟)」(延床面積55万m2)を開発中で、2028年3月に竣工予定である20(図表-18 ②)。同ビルは、前述の「麻布台ヒルズ森JPタワー」を超えて日本一の高さ385mとなる計画である。
 
19 第一生命保険株式会社・中央日本土地建物株式会社・東京センチュリー株式会社・東京電力パワーグリッド株式会社・東電不動産株式会社「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業 施行認可のお知らせ」(2022年8月10日)
20 三菱地所株式会社「「Torch Tower」新築工事着工」(2023年9月27日)
(3) 「中央区」
「中央区」では、八重洲1丁目で東京建物が、地上51階の複合ビル(延床面積約23万m2)を開発中で、2025年度に竣工予定である21(図表-18 ③)。また、東京建物、東京ガス不動産、大成建設、明治安田生命保険は、「新呉服橋ビルディング」の跡地で地上44階の複合ビル(延床面積約19万m2)を開発予定で、2028年度までに完成予定である22(図表-18 ④)。

また、日本橋1丁目で、三井不動産と野村不動産が、MICE 施設を含む地上52階の複合ビル(延床面積約37万m2)を開発中で、2026年度に竣工予定である23(図表-18 ⑤)。
図表-18 「千代田区」・「中央区」におけるオフィス開発計画
 
21 東京建物HP「東京駅前八重洲一丁目東B地区第一種市街地再開発事業」
22 繊維新聞社「東京建物、八重洲1丁目北地区の再開発を本格化 水辺空間を活用した街づくり」(2023年9月20日)
23 三井不動産株式会社・野村不動産株式会社「「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」着工」(2021年12月7日)
(4) Aクラスビルの新規供給見通し
三幸エステートの調査によれば、2023年は、港区虎ノ門地区で複数棟の大規模ビルが竣工し、新規供給は約19万坪に達した。2024年は約6万坪と、前年の約3分の1程度の水準に留まるが、翌2025年は港区高輪地区等で大規模開発が予定されており、新規供給量は再び約19万坪に達する見通しである。2026年と2027年は一旦落ち着くが、2028年は、東京駅周辺などで複数棟の大規模ビルが竣工する予定であり、新規供給は約23万坪に達する(図表-19)。
図表-19 東京都心部Aクラスビル新規供給見通し
新規供給予定面積(2024年から2028年の合計)を区別にみると、「港区」が最も多く半数を占め、次いで「千代田区(18%)」、「中央区(14%)」が多い(図表-20左図)。供給時期別にみると、2024年と2025年は「港区」が7割を、2026年は「中央区」が3割強を、2027年と2028年は「千代田区」が4割を占め、時期により供給エリアに偏りがみられる(図表-20右図)。
図表-20 東京都心部Aクラスビル新規供給見通し(エリア内訳)
3-2. Aクラスビルの空室率および成約賃料の見通し
東京都の就業者数は、情報通信業等を中心に増加し、オフィスワーカーの割合の高い非製造業では人手不足感が強いことから、東京都心部の「オフィスワーカー数」が大幅に減少する懸念は小さい。

一方、「在宅勤務」を取り入れた働き方に対応すべく、オフィス戦略を見直す動きは継続すると考えられる。拠点集約等に伴い借床面積を縮小する企業が多いが、業績拡大ともに貸床面積を拡張する企業も増えるだろう。在宅勤務の普及に伴い、働き方の多様化を進むなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大も見込まれる。

また、フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、ミーティングスペースを充実させる等、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態に変更する企業が増えている。

今後も、従業員間のコミュニケーション促進や「Well-being」に配慮し、従業員満足度およびエンゲージメントの向上を目指すオフィス環境の整備は続くと考えられる。引き続き、立地改善や建物設備のグレートアップを図る企業は増加すると見込まれる。

以上の状況を踏まえると、都心5区のオフィス需要は底堅く推移すると見込まれる。

こうしたなか、都心5 区では、多くの大規模開発が進行中である。2024 年は、新規供給が一旦落ち着くものの、2025年と2028年は20万坪程度の大量供給が予定されている。

以上を鑑みると、東京都心部A クラスビルの空室率は、2024 年にやや改善した後、6%台で推移することが予想される(図表-21)。また、成約賃料(2023年=100)は、2024 年に「101」、2025年に「99」、2028年に「102」となる見通しである(図表-22)。
Aクラスビルの新規供給面積は高水準で推移するものの、人手不足等を背景としたオフィス環境整備に支えられた需要も底堅く、空室率の上昇は限定的なものに留まると見込まれる。成約賃料についても、現時点(2023 年第4四半期)と同水準となる2 万5千円台で概ね推移すると予測する。

一方、コロナ禍以降、エリア間で空室率の格差が生じている。今後5年間の新規供給面積の5割が港区に集中するなど、新規供給エリアに偏りがみられることから、エリア格差が拡大する可能性もあり、注視が必要である。
図表-21 東京都心部Aクラスビルの空室率見通し
図表-22 東京都心部Aクラスビルの成約賃料見通し
 
 

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2024年02月09日「不動産投資レポート」)

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