- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 不動産 >
- 不動産市場・不動産市況 >
- 事業所の開業率と廃業率で考えるオフィス市場の動向
2023年10月04日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
国や地域における経済活動の状況を測る指標の一つに、開業率と廃業率が挙げられる。厚生労働省「雇用保険事業月報・年報」をもとに算出した値によれば(図表1)、全国の「事業所の開業率1」は、2007年まで上昇傾向で推移した後、リーマンショックの影響を受けて低下に転じた。その後は回復基調で推移していたが、2017年(5.6%)をピークに再び低下傾向に転じ、2022年(3.9%)は2000年以降で最も低い水準となった。一方、「事業所の廃業率2」は、2009年(4.7%)をピークに長期的に低下傾向で推移し、2022年は3.3%となった。
事業所の開業率と廃業率の差(開業率-廃業率)は、オフィス床の需要を表す指標と考えられる。「開業率-廃業率」の値が拡大した時期は、事業所を開設する需要が高まる一方、「開業率-廃業率」の値が縮小した時期は、事務所を開設する需要が後退(事業所を閉鎖する可能性が高まる)と捉えることができる。東京の「開業率-廃業率」と「オフィス空室率」の関係をみると、「開業率-廃業率」が拡大した時期は空室率が低下し、縮小した時期は空室率が上昇したことが確認できる。両指標の相関係数(2000年~2022年)はマイナス0.64と、負の相関関係が認められる(図表2)。
事業所の開業率と廃業率の差(開業率-廃業率)は、オフィス床の需要を表す指標と考えられる。「開業率-廃業率」の値が拡大した時期は、事業所を開設する需要が高まる一方、「開業率-廃業率」の値が縮小した時期は、事務所を開設する需要が後退(事業所を閉鎖する可能性が高まる)と捉えることができる。東京の「開業率-廃業率」と「オフィス空室率」の関係をみると、「開業率-廃業率」が拡大した時期は空室率が低下し、縮小した時期は空室率が上昇したことが確認できる。両指標の相関係数(2000年~2022年)はマイナス0.64と、負の相関関係が認められる(図表2)。
経済産業省「中小企業白書」によれば、主要先進国の開業率は、アメリカが9.3%(2020年)、イギリスが12.4%(2021年)、フランスが11.3%(2020年)、ドイツが7.2%(2020年)となっている。日本の開業率は、他の先進国と比較して低水準に留まっている。こうした状況を踏まえて、政府は「スタートアップ育成5か年計画」を2022年11月に策定し、各地方自治体も、創業者向け補助金・給付金3等を通じて創業支援に乗り出している。
開業率の上昇は、企業の新規参入等に伴う企業間競争の促進や技術革新等により、国や地域の経済成長を高める効果を持つと考えられる。今後、政府や各地方自治体の創業支援が効果を発揮し、開業率の上昇に寄与することが期待される。オフィスビル投資を考える上でも、事業所の開業および廃業の動向を確認するとともに、創業支援の取り組みやその効果を注視したい。
1 当該年度に雇用関係が新規に成立した事業所数÷前年度末の雇用保険適用事業所数
2 当該年度に雇用関係が消滅した事業所数÷前年度末の雇用保険適用事業所数
3 地方自治体による創業者向け補助金・給付金は1,033件(中小企業基盤整備機構ポータルサイト「J-Net21」への掲載事例・2023年8月末時点)
開業率の上昇は、企業の新規参入等に伴う企業間競争の促進や技術革新等により、国や地域の経済成長を高める効果を持つと考えられる。今後、政府や各地方自治体の創業支援が効果を発揮し、開業率の上昇に寄与することが期待される。オフィスビル投資を考える上でも、事業所の開業および廃業の動向を確認するとともに、創業支援の取り組みやその効果を注視したい。
1 当該年度に雇用関係が新規に成立した事業所数÷前年度末の雇用保険適用事業所数
2 当該年度に雇用関係が消滅した事業所数÷前年度末の雇用保険適用事業所数
3 地方自治体による創業者向け補助金・給付金は1,033件(中小企業基盤整備機構ポータルサイト「J-Net21」への掲載事例・2023年8月末時点)
(2023年10月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1861
経歴
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/17 | 「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向【2024年】~都心は価格上昇が加速。一方、下期にかけて南西部は伸び率鈍化、北部と東部は下落に転じる。 | 吉田 資 | 不動産投資レポート |
2025/04/08 | 良好な景況感が継続。先行きも楽観的な見方が強まる。-第21回不動産市況アンケート結果 | 吉田 資 | 基礎研マンスリー |
2025/03/31 | 「横浜オフィス市場」の現況と見通し(2025年) | 吉田 資 | 不動産投資レポート |
2025/03/25 | 「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2025年) | 吉田 資 | 不動産投資レポート |
新着記事
-
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~ -
2025年04月30日
「スター・ウォーズ」ファン同士をつなぐ“SWAG”とは-今日もまたエンタメの話でも。(第5話) -
2025年04月30日
米中摩擦に対し、持久戦に備える中国-トランプ関税の打撃に耐えるため、多方面にわたり対策を強化 -
2025年04月30日
米国個人年金販売額は2024年も過去最高を更新-トランプ関税政策で今後の動向は不透明に-
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【事業所の開業率と廃業率で考えるオフィス市場の動向】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
事業所の開業率と廃業率で考えるオフィス市場の動向のレポート Topへ