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- 先行き不透明感高まる中国経済
2023年10月04日
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中国では、2020年のコロナウイルス流行から長らく継続されてきたゼロコロナ政策が2023年に入り終了し、その反動による経済の回復が期待されていた。実際、2023年第1四半期(1~3月期)の実質GDP成長率は、前期比で+2.2%と、前期(2022年10~12月期)の同+0.5%から持ち直し、回復した。ただ、その勢いは必ずしも強くなかった(図表1)。また、第2四半期には同+0.8%と低下し、経済のリバウンドは早々に一服した。7月以降も、内外需とも弱い状況にあり、いまだ経済の先行きに対する不透明感は拭えない。
経済がふるわない最大の要因は、不動産市場の低迷だ。ゼロコロナ政策の影響で販売が悪化したことに加え、2020年に不動産デベロッパー向けの債務規制が強化されて以降、一部デベロッパーの資金繰りが悪化し、物件の施工および買い主への引き渡しが滞るようになった。中国では、物件の完成前に売買契約をし、住宅ローンの支払いが始まる「予約販売」形式が主であるため、物件引き渡しの遅れに不満を抱いた買い主の間で、住宅ローン支払いボイコットの動きが22年7月以降広がった。こうした混乱による不安から住宅の買い控えが拡大し、住宅市場の悪化が一段と進んだのだ。事態を重くみた中国政府は、物件引き渡しを安定的に進めるための対策をとったが、即効性を欠くものであり、不動産市場の不安定な状況は継続している。住宅販売面積と住宅販売価格の四半期毎の前年比は、ともにマイナスの局面から脱しきれておらず、23年4月以降は再び悪化する動きもみられる(図表2)。その結果、不動産開発投資や、家具・家電等といった住宅購入に付随する消費の落ち込み等、経済への下押しが続いている。
経済がふるわない最大の要因は、不動産市場の低迷だ。ゼロコロナ政策の影響で販売が悪化したことに加え、2020年に不動産デベロッパー向けの債務規制が強化されて以降、一部デベロッパーの資金繰りが悪化し、物件の施工および買い主への引き渡しが滞るようになった。中国では、物件の完成前に売買契約をし、住宅ローンの支払いが始まる「予約販売」形式が主であるため、物件引き渡しの遅れに不満を抱いた買い主の間で、住宅ローン支払いボイコットの動きが22年7月以降広がった。こうした混乱による不安から住宅の買い控えが拡大し、住宅市場の悪化が一段と進んだのだ。事態を重くみた中国政府は、物件引き渡しを安定的に進めるための対策をとったが、即効性を欠くものであり、不動産市場の不安定な状況は継続している。住宅販売面積と住宅販売価格の四半期毎の前年比は、ともにマイナスの局面から脱しきれておらず、23年4月以降は再び悪化する動きもみられる(図表2)。その結果、不動産開発投資や、家具・家電等といった住宅購入に付随する消費の落ち込み等、経済への下押しが続いている。
今後、企業活動が活気を取り戻し、雇用・所得環境が改善することで消費が回復し、それが企業活動の改善に結びつくことで、経済が自律的な回復力を取り戻すことができるようになるかがポイントだが、足元では、好循環への転換をもたらすトリガーがない状況だ。
そうしたなか、政府による景気対策への期待が高まっているが、中国指導部としては大規模な景気対策には消極的なようだ。2023年7月24日に開催された中央政治局会議では、「カウンターシクリカルな調節や政策ストックを強化する」として、景気に配慮する姿勢は示されたものの、公共投資を拡大させたり、全国一律での消費クーポン発行により消費を喚起させたりする等の追加対策をとる考えは示されなかった。不動産市場に関しては、これまでの不動産政策で度々強調されてきた「住宅は住むためのもので投機するためのものではない」とのフレーズが用いられず、従来に比べて緩和姿勢を強めることが示唆されたものの、「都市(の実情)に応じた政策ツールを適切に用いることで、実需や買い替え需要を満たす」ともされ、あくまでも実需を念頭においた購入規制の緩和など地道な取り組みが中心になるとみられる。金融緩和については、年初来、利下げ等を継続的に実施しており、今後も追加利下げを行う可能性は高いものの、上述の通り需要拡大策の規模に限りがあるなか、政府による景気下支えの効果は全体として限定的なものとなりそうだ。
8月時点までの経済の足取りの重さや、大規模な景気対策には消極的な中国指導部のスタンスなどを考慮すると、今後も景気回復のペースは緩慢なものにとどまると考えられる。飲食や観光など、コロナ対策で抑制されてきた一部のサービス業はある程度改善が進むと見込まれるが、不動産市場低迷や外需悪化による下押しが続くことから、2023年の実質GDP成長率は前年比+5.0%と予想している。また、2024年には、輸出の改善などプラス材料が期待できる一方、不動産市場や地方財政など構造的な下押し圧力が残存することから、同+4.5%を見込んでいる。
そうしたなか、政府による景気対策への期待が高まっているが、中国指導部としては大規模な景気対策には消極的なようだ。2023年7月24日に開催された中央政治局会議では、「カウンターシクリカルな調節や政策ストックを強化する」として、景気に配慮する姿勢は示されたものの、公共投資を拡大させたり、全国一律での消費クーポン発行により消費を喚起させたりする等の追加対策をとる考えは示されなかった。不動産市場に関しては、これまでの不動産政策で度々強調されてきた「住宅は住むためのもので投機するためのものではない」とのフレーズが用いられず、従来に比べて緩和姿勢を強めることが示唆されたものの、「都市(の実情)に応じた政策ツールを適切に用いることで、実需や買い替え需要を満たす」ともされ、あくまでも実需を念頭においた購入規制の緩和など地道な取り組みが中心になるとみられる。金融緩和については、年初来、利下げ等を継続的に実施しており、今後も追加利下げを行う可能性は高いものの、上述の通り需要拡大策の規模に限りがあるなか、政府による景気下支えの効果は全体として限定的なものとなりそうだ。
8月時点までの経済の足取りの重さや、大規模な景気対策には消極的な中国指導部のスタンスなどを考慮すると、今後も景気回復のペースは緩慢なものにとどまると考えられる。飲食や観光など、コロナ対策で抑制されてきた一部のサービス業はある程度改善が進むと見込まれるが、不動産市場低迷や外需悪化による下押しが続くことから、2023年の実質GDP成長率は前年比+5.0%と予想している。また、2024年には、輸出の改善などプラス材料が期待できる一方、不動産市場や地方財政など構造的な下押し圧力が残存することから、同+4.5%を見込んでいる。

景気回復のけん引役が不在という状況下、これらリスクが顕在化した場合、経済の耐性は弱い。対策を打つタイミングやその中身など、政策判断を誤れば、経済が悪循環に陥り、デフレの発生など先々の成長をより鈍らせる可能性も否定できない。時々の経済情勢を踏まえて適時適切に対策をとることができるか否か、政策対応の動向に注視が必要だ。
(2023年10月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
・2009年:同 アジア調査部中国室
(2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
・2020年:同 人事部
・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
三浦 祐介のレポート
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