2024年02月09日

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(2) 在宅勤務の状況
新型コロナウィルス感染拡大への対応で、東京では「在宅勤務」が急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率をみると、2022年までは緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の発令期間(2021年1~3月、4~6月、7~9月、2022年1~2月)は60%台、それ以外の期間は50%台で推移していた。2023年に入り、40%台で推移するなか2023年12月は46%となった。テレワーク(在宅勤務)実施率は、コロナウィルス感染拡大時と比べて低下したものの、一定の水準を維持している(図表-11)。

公益財団法人日本生産性本部「テレワークに関する意識調査」(2023年8月時点)によれば、テレワークでの働き方に対する満足度合いについて、「満足」との回答はテレワーカー5では83%、管理職では78%を占めた。また、今後のテレワーク継続意向について、テレワーカーでは88%、管理職では85%を占め、在宅勤務を取り入れたワークスタイルを希望する就業者は多い。

また、ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023」によれば、「現在の働き方で感じている不満・課題」について、「通勤が苦痛に感じる(49.8%)」との回答が最も多く、次いで「テレワークでできる仕事でも出社を要求される(45.1%)」、「在宅勤務が禁止になった・制限されるようになった(20.3%)」が多かった(図表-12)。在宅勤務(テレワーク)がオフィスワーカーの職場への満足度に大きな影響を及ぼしているようだ。

首都圏のオフィスワーカーを対象とした調査6によれば、「テレワークとオフィス出社を使い分けている」との回答が47%、「完全テレワーク」との回答が4%を占めた。「在宅勤務」を取り入れたハイブリッドな働き方が定着しつつあることがうかがえる。
図表-11 都内企業のテレワーク実施率/図表-12 現在の働き方で感じている不満・課題
こうしたなか、「在宅勤務」を取り入れた働き方に対応すべく、オフィス戦略を見直す動きは継続している(図表-13)。見直しの事例をみると、拠点集約等に伴い、借床面積を縮小する企業が多い一方で、借床面積を拡張する企業も確認することができる。

また、在宅勤務が急速に普及し、働き方の多様化を進んだ結果、「サテライトオフィス7」を設置する企業が増加している。ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、大都市圏8における「サテライトオフィス」の導入率は、2017年秋の10.2%から2023年秋の30.9%へと約3倍に増加した。

「サテライトオフィス」を開設する場所として、「レンタルオフィス9」や「シェアオフィス10」、「コワーキングスペース11」等の「サードプレイスオフィス」を利用するケースが増えている。弊社の調査12によれば、市区町村別にみた「サードプレイスオフィス」の拠点数は、「港区」(261拠点)が最も多く、次いで「千代田区」(210拠点)、「渋谷区」(179拠点)が多かった。「中央区」と「新宿区」も100拠点を超えており、東京都心5区合計で、全国の約4分の1(24%)を占めている。

在宅勤務を取り入れた働き方が定着するなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大が見込まれ、都心5区のオフィス需要を下支えすると考えられる。
図表-13 「在宅勤務」を取り入れた働き方に対応するオフィス戦略の見直し事例
 
5 直近3ヵ月にテレワークを実施しており、管理職ではない就業者
6 ザイマックス不動産総合研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023 ①働き方の実態とニーズ編」
7 企業または団体の本社、本拠から離れた所に設置されたオフィス(支社や支店、営業所等)。
8 東京都、大阪府、愛知県、福岡県、神奈川県、埼玉県、千葉県
9 会議室などを共用部分に設置して共有し、専用の個室をそれぞれ持つ、いわば合同事務所のようなオフィス形態。
10 フリーアドレスでデスクを共有して利用するオフィス形態。
11 オープンなワークスペースを共用し、各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献しあう「ワーキング・コミュニティ」の概念およびそのスペース(コワーキング協同組合による定義)。
12 吉田資『わが国のサードプレイスオフィス市場の現況 -2023年-(1)~東京23区での集積が進む一方、主要政令指定都市以外の割合も4割に達する』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023 年11 月30日
(3) フリーアドレスの導入状況
コロナ禍で「在宅勤務」が定着しオフィスに出社するワーカー数が流動的となるなか、フリーアドレスを導入する動きが広がっている。森ビル「東京23区オフィスニーズに関する調査」(以下、「森ビル調査」)によると、「フリーアドレスの導入状況」に関して、「既に導入している」との回答は、19%(2019年)から42%(2023年)に増加した(図表-14)。

ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、オフィススペースの利用状況について、「固定席」との回答が95%(2019年春)から79%(2023年秋)に減少した一方、「フリーアドレス席」は、25%から44%に増加した(図表-15)。また、「オープンなミーティングスペース」との回答が58%、「リモート会議用ブース・個室」との回答は40%を占めた。コロナ禍以降、「従業員がコミュニケーションを図り共創する場」としてのオフィスの重要性が再認識されるなか、ミーティングスペース等を充実させる企業は多い13。フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態に変更する企業が増えている模様だ。

ただし、フリーアドレスを導入する効果として、「オフィススペースの有効活用」や「コミュニケーションの活性化」等が実感される一方で、「誰がどの座席にいるかわからない」や「座席が足りないときがある」等の課題も指摘されている14

今後も、企業がフリーアドレスの割合を高め、フレキシブルな働き方に即したオフィスの利用形態への変更を更に進めるのか、引き続き注視する必要がある。
図表-14 フリーアドレスの導入状況/図表-15  オフィススペースの利用状況
 
13 森ビル調査でも「オープンなミーティングスペース」に関して、「既に導入している」との回答は、41%(2019年)から62%(2023年)へ大幅に増加。また、「Web会議用スペース」に関しても、40%(2020年)から54%(2023年)へ増加。
14 oVice株式会社「フリーアドレスに関する実態調査」によれば、「フリーアドレス導入により効果があったと感じること」について、「オフィススペースの有効活用(39%)」との回答が最も多く、次いで「コミュニケーションの活性化(31%)」との回答は多かった。また、「フリーアドレスの課題」について、「誰がどの座席にいるか分からない(56%)」との回答が多く、次いで「座席が足りないときがある(51%)」との回答が多かった。
(4) 企業のオフィス環境整備の方針
森ビル調査によると、「新規賃貸する理由」は、「立地の良いビル(33%)」との回答が第1位となり、次いで「設備グレードの高いビルに移りたい(27%)」と「賃料の安いビルに移りたい(27%)」が多かった(図表-16)。

コロナ禍前(2019年)と比較して、「立地の良いビル(28%⇒33%)」や「設備グレードの高いビルに移りたい(18%⇒27%)」、「耐震性能の優れたビル(18%⇒24%)」、「セキュリティーの優れたビル(15%⇒23%)」、「優秀な人材を確保するため(16%⇒22%)」との回答が増加している。前述の人手不足を背景に、人材確保や従業員満足度の向上などを目指し、立地改善や建物設備のグレートアップが進んでいるようだ。

また、「賃料の安いビルに移りたい」との回答は、コロナ禍で大幅に増加した後、減少傾向で推移している(2019年19%⇒2020年37%⇒2023年27%)。コスト削減への意識は依然として高いものの、その優先度は低下している。

一方、「1フロア面積が大きいビルに移りたい」との回答は、コロナ禍で大幅に減少した後、増加(回復)に向かっている(2019年27%⇒2020年18%⇒2023年24%)。
図表-16 新規賃借する理由
コロナ禍以降、施設利用者の健康に配慮した対応が求められるなか、大企業を中心に、従業員の「Well-being」に配慮したワークプレイスの構築が進んでいる15。日本政策投資銀行・価値総合研究所「オフィスビルに対するステークホルダーの意識調査」(2023年)によれば、「オフィスビル選択基準のうちウェルビーイング対応に関する重要度」との質問において、「重要」との回答は、東京23区に所在する大企業で44%、中堅・中小企業で17%を占めた。

また、森ビル調査によれば、従業員300人以上の企業を対象に「本社オフィスの存在意義や、求められる機能・役割」を質問したところ、「従業員のエンゲージメント向上(67%)」との回答が最も多く、次いで「部門を超えた偶発的な出会いやコミュニケーション(64%)」、「活発な議論やアイデア創出(56%)」が多かった。

以上の状況を鑑みると、今後も、人手不足等を背景に、従業員間のコミュニケーション促進や「Well-being」に配慮し、従業員満足度およびエンゲージメントの向上を目指すオフィス環境の整備は続くと考えられる。引き続き、立地改善や建物設備のグレートアップを図る企業は増加すると見込まれる。
 
15 イトーキ「ITOKI WORKPLACE DATA BOOK 2024」によれば、「ワークプレイス構築にあたり対応した課題」との質問に対し、「コミュニケーション強化(95%)」と「オフィス環境の最適化(95%)」との回答が最も多く、次いで「Well-beingへの取り組み(88%)」が多かった。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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【「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2024年2月時点)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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