2024年01月31日

バブル期より3割高くなった首都圏新築分譲マンション価格~それでもローン返済額はバブル期の8割に止まる~

金融研究部 客員研究員 小林 正宏

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1.首都圏の新築分譲マンション価格

株式会社不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」によれば、首都圏(1都3県:東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で2023年に新規発売された分譲マンションの平均価格は8,101 万円とバブル期のピークであった1990年の6,123万円と比較して額で1,978万円、率で32.3%と大幅に超えている。1990年の水準は既に2021年に超えていた(6,260万円)が、暦年で見て2022年の6,288万円から1年で28.8%上昇しており、この伸び率は1988年の32.8%以来35年ぶりの高い水準である(図表1)。

2023年の首都圏のマンション価格は3月に都心で高額の大型物件の供給があった影響が大きく、単月では2023年3月は1憶4,360万円となり話題になったが、その他の月も概ね前年比プラスで推移した。東京23区では暦年でも1億1,483万円と初めて平均で 1 億円の大台を突破した。
図表1 首都圏のマンション価格と住宅ローン返済額
住宅価格の年収倍率については、世帯年収の2023年の数字が出ていないが、厚生労働省の「国民生活基礎調査 」の2021年の数字に対して、同省「賃金構造基本統計調査」の「一般労働者の所定内給与額及び対前年増減率」を適用して延伸すると、2023年の世帯年収は615万円余となり、首都圏マンション価格の年収倍率は13.2倍と推計される。あくまで推計値であることから、若干の幅を持って見る必要があるが、1990年でも10倍には届いていなかったことから、バブル期のピークを超えた可能性が大きい。

2023年は価格が1億円を超えるいわゆる「億ション」の販売戸数も4,174戸と、1990年の3,079戸を上回り過去最多となった。1990年の新規発売戸数41,481戸に対し億ションのシェアは7.42%だったが、2023年は26,886に対して15.52%とシェアは倍増している。2023年3月の億ションの発売戸数は762戸だったので、単月の影響にとどまらず、幅広く億ションが供給されたことを意味している。

2.住宅ローンの返済額

2.住宅ローンの返済額

2023年10月19日の不動産投資レポート「年収の5倍」は古い?10倍を超える首都圏新築分譲マンション価格~それでも返済負担はバブル期の6割に止まる~」でも触れたが、住宅が購入しやすいか否かは、住宅価格と所得、金利の3要素で決まる。

実際にそこまで借りることはできないが、仮に全額を全期間固定金利型の住宅ローン1で借りた場合の返済額を計算すると、1990年に6,123万円を5,43%の35年元利均等返済で組んだ場合、年間の返済額は391万円となる。同じように、2023年に8,101万円を借りた場合、金利が1.83%となっているので、住宅ローンの年間返済額は314万円にとどまる。1990年と2023年を比較すると、住宅価格は32.3%高くなったが、住宅ローン返済負担は19.8%軽減されているということである(図表2)。
図表2 住宅ローン金利と年間返済額
 
1 住宅ローンの金利は2007年3月までは住宅金融公庫の直接融資 の基準金利を適用し、2007年4月以降は独立行政法人住宅金融支援機構の「フラット35」の償還期間21年以上35年以内の最頻値を適用し、それぞれ年平均に変換した。

3.外国人の目線で見るとどうなるか

3.外国人の目線で見るとどうなるか

2022年3月からインフレ抑制のためアメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備制度理事会)は利上げを開始し、一方で日本銀行は「長短金利差操作付き量的・質的金融緩和」を維持しており、日米の金利差が拡大するに従い、外国為替市場では円安・ドル高が進行した。円安の進行により、日本を訪問する外国人から見ると日本の物価は安く、特に外食代が安いとインバウンド需要を喚起している様子がよく報道されている。

では首都圏のマンション価格をドル換算するとどうなるのか。1985年9月のプラザ合意に端を発した急激な円高の進行に対処するため、財政出動と金融緩和を実施したことがバブルの一因と言われるが、1990年時点での為替は年平均で145.00円/ドルで、2023年の140.50円/ドルと大差なかった。よってドル換算すると、1990年は42.23万ドルに対し、2023年は57.66万ドルと、2023年の首都圏のマンション価格はドル換算しても過去最高となる(図表3)。
図表3 円ドルレートとドル換算の首都圏マンション価格
むしろ、為替が79.70円/ドルと80円を割った2011年の方が57.44万ドルと2023年の水準に近い。ただ、この間、アメリカ人の所得は大きく伸びており、購買力という意味では、アメリカ人にとっては買い易くなったのは間違いない(図表4)。
図表4 米一人当たりGDPとドル換算の首都圏マンション価格
外国人が買っていると言われる中では、アメリカ人ではなく中国人だろうという見方もあるので、参考までに人民元に換算した数値も計算したが、ほぼ同じトレンドである(図表5)。中国では国内の不動産市場が不安定化する中、資産をより安全な日本に移す動きがあるとも言われており、首都圏のマンション市場の価格を一定程度下支えしていると見られる。
図表5 円元レートと元換算の首都圏マンション価格
日銀は1月の金融政策決定会合で現状維持としたが、物価安定の目標達成への確度は高まっていると見通した。今後の日本の金融政策が日本の不動産市場にどのような影響を及ぼすか、注視される。
 
 

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金融研究部   客員研究員

小林 正宏 (こばやし まさひろ)

研究・専門分野
国内外の住宅・住宅金融市場

経歴
  • 【職歴】
     1988年 住宅金融公庫入社
     1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
     1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
     2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
     2022年 住宅金融支援機構 審議役
     2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
          7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)

    【加入団体等】
    ・日本不動産学会 正会員
    ・資産評価政策学会 正会員
    ・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師

    【著書等】
    ・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
    ・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
    ・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
    ・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など

(2024年01月31日「不動産投資レポート」)

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