コラム
2023年12月08日

米新築住宅価格は前年同月比で過去最大の下落幅~前年同月比でプラスを維持する中古住宅との違い~

金融研究部 客員研究員 小林 正宏

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米商務省が発表した2023年10月の新築住宅価格の中央値は40万9,300ドル(1ドル150円で換算して約6,140万円)で、2022年10月の49万6,800ドル(同7,452万円)から17.6%下落した。この下落幅は統計開始の1963年以降で過去最大の下落幅である。利上げの影響が新築住宅価格には及んできているものと考えられる(図表1)。
図表1:米新築住宅価格(中央値)と住宅ローン金利
一方で、中古住宅価格2については、前年同月比でプラスを維持し続けている(図表2)。アメリカでは住宅ローンの約9割が固定金利であり、利上げ前の低金利時代に借り入れた住宅ローンを手放したくないがために住み替えを躊躇し、中古住宅として売りに出される物件が減ったことで、需給関係が逼迫し、中古住宅価格の高値が続いているとされる3
図表2:米住宅価格前年同月比
しかし、中古住宅のような制約のない新築住宅については、利上げの影響が出始めている、ということであろう。アメリカでは新築住宅よりも中古住宅の市場の方が遥かに大きく、上記の理由で住宅市場全体として利上げの影響が意外と小さいことが報じられることが多いものの、徐々に利上げの影響が出始めていると考えられる。

新築が中心の日本の住宅市場4とは異なり、アメリカの2022年の新築住宅販売戸数は64.1万戸と、中古住宅の503万戸5の8分の1程度に過ぎない。量が少ないがゆえに、新築住宅価格のボラティリティーが中古住宅よりも大きくなる可能性はあり、実際、図表2でも新築住宅価格の前年比は中古住宅よりも振幅が大きい。また、アメリカの住宅価格は概ね西部>東北部>南部>中西部の順となっており、構成比として西部や東北部の販売戸数が多いと加重平均した全米の価格も高くなる傾向があるが、前年同月と比較して2023年10月の新築、中古販売戸数6の地域別構成比に顕著な変化はない。更に、新築は資材価格や人件費の高騰で建築コスト上昇の影響をより顕著に受ける可能性はあるが、図表2のとおり、アメリカでは少なくとも昨年までは新築と中古の住宅価格の動きに顕著な乖離はなかった。2022年10月の新築住宅価格が過去最高であったため、それとの比較となる2023年10月の下落幅が大きくなった面はあるにしても、前年比プラスを維持している中古と比較すると、2023年4月以降7か月連続で前年比マイナスとなっている新築住宅の市況の弱さはやはり際立っている。フレディマックの調査による30年固定の住宅ローン金利は2023年10月末の7.79%から11月末は7.22%に低下しており、金利上昇の影響もピークを越えた可能性もあるが、アメリカの住宅市場の動向には引き続き注視する必要があるだろう。
 
1 30年固定金利を適用。
2 ここでは、FHFA(Federal Housing Finance Agency)住宅価格指数のうち、Monthly Purchase-Only Indexesを採用している。FHFA住宅価格指数の対象はファニーメイ、フレディマックが買い取る住宅ローン債権で、金額に上限(Conforming Loan Limit)がある(2023年は726,200ドル:1億893万円)。これを超える住宅ローンはジャンボ・ローン(Jumbo Loan)と呼ばれ、FHFA住宅価格指数はこれを含まないため、変動幅が若干小さめになる傾向があるが、大きな差はない。
3 窪谷浩「回復に息切れがみえる米住宅市場」、小林正宏「金利上昇の影響を受けるアメリカの住宅市場」など。
4 国土交通省「令和4年度 住宅経済関連データ」によれば、平成30年の既存住宅流通シェアは14.5%と、アメリカとはほぼ逆のシェアとなっている。なお、本稿ではわかりやすいように中古と表現している。
5 戸建てに限定すれば448万戸で、約7分の1となる。
6 中古販売戸数のデータはNational Association of Realtors(全米リアルター協会、NAR)による。著作権の関係で図表2ではFHFA住宅価格指数を適用しているが、価格動向についてはNARと概ね同じ傾向にある。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   客員研究員

小林 正宏 (こばやし まさひろ)

研究・専門分野
国内外の住宅・住宅金融市場

経歴
  • 【職歴】
     1988年 住宅金融公庫入社
     1996年 海外経済協力基金(OECF)出向(マニラ事務所に3年間駐在)
     1999年 国際協力銀行(JBIC)出向
     2002年 米国ファニーメイ特別研修派遣
     2022年 住宅金融支援機構 審議役
     2023年 6月 日本生命保険相互会社 顧問
          7月 ニッセイ基礎研究所 客員研究員(現職)

    【加入団体等】
    ・日本不動産学会 正会員
    ・資産評価政策学会 正会員
    ・早稲田大学大学院経営管理研究科 非常勤講師

    【著書等】
    ・サブプライム問題の正しい考え方(中央公論新社、2008年、共著)
    ・世界金融危機はなぜ起こったのか(東洋経済新報社、2008年、共著)
    ・通貨で読み解く世界経済(中央公論新社、2010年、共著)
    ・通貨の品格(中央公論新社、2012年)など

(2023年12月08日「研究員の眼」)

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