コラム
2024年01月30日

天気予報の効用-天気予報はどういうときに役に立つか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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天気予報は、日々の生活のなかに定着している。テレビのニュースをはじめ、パソコンのインターネット上でも、スマートフォンのアプリからでも、簡単に天気予報を見ることができる。
 
天気予報は、過去の気象データ等をもとに将来の天気を予報するものだ。当然ながら、予報が当たることもあれば、外れることもある。
 
前回、筆者は、「天気予報の精度-適中率さえ高ければ、よい天気予報といえる?」篠原拓也(研究員の眼, ニッセイ基礎研究所, 2024年1月23日)(=前回のコラム)のなかで、予報の精度を測るときには、適中率とともに、スキルスコアなどの指標も用いられることを紹介した。
 
それでは天気予報を利用する立場から見た場合、どういうときに天気予報が役に立つのだろうか?今回は、天気予報の効用について、考えてみよう。

◇ 今回も降水の有無をもとに見ていく

一般に、天気予報では、最高気温、最低気温、降水など、天気に関するさまざまなことを予報している。最高気温や最低気温のように、数量的な予報では、「明日はどれだけ暑くなるのか、寒くなるのか」といったことを知ることができる。降水については、降水確率として、雨や雪の降りやすさを数字で示すことが一般的だ。
 
ただ、数量的な予報を利用する場合、それに応じて様々な対応が考えられるため、簡単ではない。(例えば、「予想最高気温30度」という予報を見て、昼間は屋内で過ごし熱中症にならずに済んだとする。実際の最高気温は32度だったが、もし屋外に出ていたら熱中症になったかどうかはわからない。)
 
それに対して、降水の有無については、予報に対して実際に雨(または雪)が降ったか、降らなかったかの2つに1つで、当たり外れがはっきりするのでわかりやすい。そこで、今回も、前回のコラムと同様に、降水の有無について見ていくこととしよう。

◇ 予報の効用がある場合とは

ここで、天気予報の効用について考えてみよう。天気予報を受ける側の態度として、大きく3つのものが考えられる。
 
1つは、「降水の有無の予報がどうであれ、降水時の対策は一切しない」というものだ。つまり、傘や雨具は一切持ち歩かず、雨や雪に降られたら、そのときはそのときという態度だ。これを(1)とする。
 
2つ目は、これとは真逆で、「降水の有無の予報がどうであれ、必ず、降水時の対策をする」というものだ。常に傘や雨具を持ち歩き、雨や雪への対応を万全にしておくという態度だ。これを(2)とする。
 
この両極端の間に、「降水の有無の予報を利用する」ものがある。つまり、降水ありの予報のときは傘や雨具を持っていくが、降水なしの予報のときは持っていかないという態度だ。これを(3)とする。
 
(3)の態度をとる場合のほうが、(1)や(2)の態度をとる場合に比べて、損失や費用が少なく済めば、天気予報の効用があったと言えるだろう。

◇ 予報の効用がある場合を定式化する (算式が不要な場合、次節まで進んでも可)

それでは、(1)~(3)の態度で損失や費用がどのくらいになるのか、比較したい。そのためには、降水の有無の予報、降水対策の費用、対策を取らなかった場合の損失について、モデルを置くことが必要になる。(以下では記号を用いるが、算式が不要な場合は、次節まで進んでいただいても構わない。)
 
降水の有無の予報と実際の状況については、記号を次のように置く。
 
n回のうち、a回は、降水ありの予報に対して実際にも降水があった。b回は、降水ありの予報に対して実際には降水がなかった。c回は、降水なしの予報に対して実際には降水があった。そして、d回は、降水なしの予報に対して実際にも降水がなかった。aとdの合計が適中回数で、(a+d)/n が適中率ということになる。適中率を、Aと表すことにする。
 
(a+b)/n は、降水予報確率として、Fで表す。また、(a+c)/n は、実際降水確率として、Rで表すことにしよう。これらは、次の表のようにまとめることができる。
降水の有無に関する表
次に、降水対策の費用だ。傘や雨具を購入して、携帯するのにかかる費用ということになる。これをEとおこう。
 
さらに、対策を取らなかった場合の損失について、Lとおく。これは、傘をささずに雨の中を歩いたために生じた損失だ。例えば、雨で濡れたスーツのクリーニング代などが考えられる。雨にあたったために、風邪をひいてしまった場合は、その治療費も含まれるだろう。
 
以上のA、F、R、E、Lの5つの記号を使って、(3)の態度をとる場合と、(1)や(2)の態度をとる場合の損失や費用を比較していく。
 
(1)の場合、降水があれば損失が生じるので、1回当たり、(a×L+c×L)/n (=①)の損失となる。
 
(2)の場合、常に対策をとるので、1回あたり、E(=②)の費用がかかる。
 
(3)の場合、降水予報時に対策をとるとともに、予報では降水なしだったが実際には降水があった場合に損失が生じる。これらを合計すると、1回当たり、(a×E+b×E+c×L)/n (=③)の費用や損失が生じる。
 
そして、
①-③=(a×(L-E)-b×E)/n > 0 で、かつ、
②-③=(c×(E-L)+d×E)/n > 0 のときに、天気予報の効用があったといえるだろう。
 
これらの不等式を変形すると、天気予報の効用があるために、適中率Aは次の条件を満たす必要があることがわかる。
 
①>③ ⇔ A > 1 - R - (1-2×E/L)×F
②>③ ⇔ A > (1-2×E/L) + R - (1-2×E/L)×F
 
これらの算式の導出については、稿末の(参考)で触れることにしよう。

◇ モデルの基本ケースでは、天気予報の効用あり

前節では記号を導入して、天気予報の効用がある場合を算式で示した。だが、記号ばかりでは、イメージがつかみにくい。そこで本節では、記号に数字を当てはめて、見ていくことにしよう。
 
まず、降水の有無の予報と実際について、次の表のとおりとする。適中率は、前回のコラムで見たとおり約8割の水準だったので、80%とおく。また、実際の降水の有無は、2023年の東京で、降水があった日が365日中173日(47%)あったことから、実際降水確率は、きりよく50%とおくことにしよう。降水予報確率も50%とおく。
(1) 基本ケース
次に、降水対策の費用の前提を置く。傘や雨具の購入費用と、それを持ち歩く手間だ。ただ、傘一つとっても、高級なものから安いビニール傘までいろいろある。それを持ち歩く手間も、時と場合によって異なる。このため、一つの金額に換算することは難しいが、ここは割り切って1回当たり500円とおくことにしよう。
 
つづいて、対策を取らなかった場合の損失。これも、降水で衣服や荷物が濡れたり、風邪をひいたりといった様々なものが考えられるため、一つに決めることは難しいが、ざっくり2000円とおくことにしよう。
 
この場合、①は1000円、②は500円、③は450円となる。③が①や②を下回っており、天気予報の効用あり、ということになる。

◇ 実際降水確率が下がっていくと予報の効用が消失することもある

それでは、上記の基本ケースに対して、実際降水確率が下がっていった場合はどうなるだろうか。他の条件はそのままにして、実際降水確率が30%に下がると、次のようになる。(適中率は、降水ありの予報でも、降水なしの予報でも等しく、80%とする。)
(2) 実際降水確率が30%に低下
この場合、①は600円、②は500円、③は310円となる。③が①や②を下回っており、天気予報の効用あり、という状態は変わらない。
 
それでは、さらに実際降水確率が下がるとどうなるか。実際降水確率が5%に下がると、次のようになる。
(3) 実際降水確率が5%に低下
この場合、①は100円、②は500円、③は135円となる。③が①を上回っており、天気予報の効用は消失してしまった。実際降水確率5%のように降水の確率が低い場合、相当に精度の高い予報でなければ予報の効用はないことになる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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