コラム
2023年03月07日

結果バイアスに陥らないために-3日連続で予想が当たったニワトリは天賦の才を持っている?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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人間の行動には成功や失敗の結果が伴うことが多い。営業の場面では、契約の受注を獲得できたか、できなかったか。資産運用では、損益がプラスだったか、マイナスだったか。野球やサッカーなどのスポーツでは、試合に勝ったか、負けたか、等々…。
 
結果によって、担当者やプレーヤーの処遇が変わったり、その後の仕事やプレーの環境が変化したりする。結果を出すことは、とても大切だ。だが、結果だけで評価をしてしまってよいのだろうか?
 
今回は、社会心理学などで取り上げられる認知バイアスの一種として、「結果バイアス(outcome bias)」を見ていくこととしたい。

◇ 「結果バイアス」とは

まず、「結果バイアス」とはどういうものか、見てみよう。
 
一般に、人々が何かの行動をとる際には、それに先立って、何らかの意思決定をすることが多い。資産運用を例にとってみよう。今後、価格が上がると思えば証券を買う。逆に、下がると思えば売る、という意思決定をする。それに従って、証券を売買する。こうしたことが、通常の投資行動だろう。
 
証券価格の動向を予測するためには、さまざまな努力をする。過去の価格の推移を分析したり、ある理論に基づいて数式やモデルを用いて動向を予想したり、といったことだ。ただ、予知能力でも持っていない限り、価格が上がるか下がるかを100%当てることはできない。証券投資には、常にリスクが伴うわけだ。
 
ある投資家が、分析や予想のうえで「今後、価格が上昇する可能性が高い」と判断して証券を買った。ところが、予想に反して価格が下落し、購入した証券から損失を被った。よくあるケースだ。
 
このとき、この投資家をどう評価すべきだろうか。損失を出したという結果だけを見れば、悪い評価になるだろう。しかし、「今後、価格が上昇する可能性が高い」との判断に至るまでの分析や予想が適切なものだったとしたらどうだろうか。証券価格が下がったのは、分析や予想を超えた偶然の変動によるものであり、意思決定のプロセス自体は悪くなかった、との評価もあり得るだろう。
 
ところが、こういった意思決定のプロセスを一切見ないで、とにかく結果だけを見て判断してしまうことがある。そうした結果だけを過度に重視した評価が、「結果バイアス」を引き起こす。

◇ 結果バイアスが高じると…

ここで、頭の体操として、動物、例えばニワトリを使った投資判断を考えてみよう。まず、ニワトリを20羽ほど連れてくる。そして、二階建てのニワトリ小屋で飼うことにする。
 
朝6時の時点で、二階に居たニワトリは、その日の証券価格が上がると予想、一階に居たニワトリは下がると予想しているものとしよう。そして、その日の夕方。証券市場の結果により、各ニワトリの予想の“当たり”と“はずれ”が決まる。
 
これを3日間続けて行う。そうすると、通常、3日続けて予想が“当たり”となったニワトリがいるはずだ。結果バイアスにとらわれている場合、このニワトリを過度に高く評価してしまう。
 
「このニワトリには、何か証券市場の予知能力があるのかもしれない。その能力は、天賦の才なのか。それとも何か、食べ物や、起きる時間といった生活パターンに秘密があるのか。まずは、このニワトリの日常行動を徹底的に調べてみよう…。」
 
3日間の証券価格の上昇と下落のパターンは8通りなので、20羽のうち、平均して2、3羽くらいは、3日間とも予想が“当たり”となる。当たったニワトリの日常行動を徹底的に調べる代わりに、一連の事象を偶然起きたとみるほうが妥当な感じがするだろう。

◇ 過去の認識の歪曲がない分、結果バイアスは後知恵バイアスよりも対処が困難

結果バイアスと類似した認知バイアスとして、「後知恵バイアス(hindsight bias)」がある。これは、物事が起きて結果が判明した後に、そのことは事前に予測可能だったと考えてしまう心理をいう。
 
「実はこうなることは、前もってわかっていた」などと、物事が起こる前に結果を知っていたかのように、自分の認識を歪曲してしまう。後知恵バイアスは自信過剰につながる可能性がある。しかし、歪曲を避けられれば、こうしたバイアスが生じないような対処ができるかもしれない。
 
結果バイアスは、後知恵バイアスよりも、質(たち)が悪い。自分の認識を歪曲することもなく、ただひたすら、物事の結果だけを頼りに評価をしようとする心理だからだ。これは、「天然の」、「素の」心理といえる。つまり、知らず知らずのうちに、結果バイアスにとらわれてしまっている、ということがあり得るわけだ。その分、結果バイアスへの対処は難しくなる。

◇ 結果に対する強い思い入れと結果至上主義が背景にある

結果バイアスは、結果に対する強い思い込みがあるときが要注意だ。プレーヤーにどうしても結果を挙げてほしい。どうしても勝ってほしい。そういう結果に対する強い思い入れが評価者にあるときに、起こりやすい。つまり、評価をする側が、冷静さを失ってしまうわけだ。
 
よくサッカーなどでみられるのは、「どういう形でもよい。とにかく点を取って勝つことが大切だ。いくらシュートを打っても入らなければ意味がない。相手のオウンゴールでもなんでもいい。とにかく点を挙げて勝ってほしい。」――こういう心理になったときに、結果バイアスが忍び込んでくる。
 
また、結果至上主義にも、注意が必要となる。ビジネスの場面を描いたテレビドラマなどでは、たまに、こんな上司を見かけることがある。
 
「先月獲得した契約はたった〇〇件。こんな結果では全然ダメだ。いくら努力をしても結果に結びつかなければ意味がない。契約獲得のためだったら何をしてもいい。とにかく何がなんでも契約を取ってこい!」――社員をこんな感じで叱咤する上司は、結果バイアスに陥っていると言えるだろう。
 

◇ 人の意見に耳を傾けて、プロセスをつぶさに振り返ってみることが必要

結果バイアスは、プロセスの軽視につながる。良い結果が出ても、悪い結果が出ても、プロセスの改善は図られないことになる。その結果、短期的には良い結果が出たとしても、長期に渡り、持続的に良い結果を出し続けることは難しくなる。
 
それでは、結果バイアスを避けるためには、どうすればよいか。認知バイアス全般に言えることだが、まずは、自分1人で考え込まずに、人の意見に耳を傾けることから始めるべきだろう。
 
いろいろな人と話してみると、結果をどう見るか、という点において、自分とは異なるさまざまな意見が聞かれるはずだ。「あれは偶然の結果だから、あまり重視すべきではない。」「今回は結果が出なかったが、途中、良いところまで頑張っていた。次回は期待できるだろう。」などなど。
 
そして、結果に至るまでのプロセスをつぶさに振り返ってみることも重要となる。どこが、うまくいった (もしくは、いかなかった) のか。どうしたら、もっと良い結果が出やすくなるのか。そういったことを振り返ってみることで、結果バイアスを回避できるようになる。
 
営業でも、資産運用でも、スポーツでも、通常は、次の機会が訪れる。そのときに向けて、結果だけでなく、プロセスを評価して、その改善に取り組んでいく―― そのことが、長期的に見て、良い結果をもたらすものと思われるが、いかがだろうか。

(参考文献)
 
“Outcome bias”(Wikipedia)
 
“Outcome bias”Clay Halton (Investopedia, updated Sept. 24, 2022)
 
“Outcome Bias in Decision Evaluation” Jonathan Baron, John C. Hershey (Journal of Personality and Social Psychology, Vol.54 No.4 pp569-579, 1988)
 
「成果バイアス」「後知恵バイアス」(シマウマ用語集)
 
“The Art of Thinking Clearly”Rolf Dobelli(Harper Collins, 2013)
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2023年03月07日「研究員の眼」)

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