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2024年01月23日
1――はじめに
ベトナム社会主義共和国(以下、ベトナム)は東南アジアに位置する人口9946万人(2022年)1の新興国である。その面積は33万1346km2であり、日本の約88%である。
2022年の名目GDP総額は4090億ドル2となっている。また一人当たり名目GDPが4087ドルで、同じ東南アジアのタイ(7089ドル)の6割弱である。
実質GDP成長率の伸びについてだが、新型コロナ禍による影響を受けた2021年の対前年比2.56%増から、2022年は8.02%増を記録した。平均6-7%増を維持していた新型コロナ以前の成長率が戻ってきたようである。
ベトナム経済は近年、農林水産業中心から工業およびサービス業へと重心を移してきた。2022年度も同様である。各業態のGDP増加率であるが、ベトナム統計総局の資料によれば、農林水産業は対前年比3.36%の増加であり、工業・建設業は対前年比7.78%増加である。サービス業の成長は2021年には低迷していたが、2022年は対前年比9.99%増と大幅に増加した。新型コロナ禍下でも成長し続けていた輸出入は引き続き好調を続け、輸出額は3713億ドルで前年比10.5%増となり、輸入額は3589億ドルで、同じく7.8%増となり、輸出入額の合計は7302億ドルとなった。
2021年に一時悪化した失業率は全体で2.34%と、昨年より0.86%改善した。なお、新型コロナの影響についてであるが、ベトナムでは2022年4月に濃厚接触者の隔離を不要とするなど、いち早くアフターコロナへと踏み出した。また、マクロ経済も安定し、物価上昇率も2022年は対前年比3.15%増とベトナム議会の設定した範囲内に収まった。
本稿ではベトナム財務省保険監督部が発行した2022ベトナム保険市場年次レポート3のデータを元にベトナム生命保険市場について解説を行う。以降の数字、図表は同レポートよりの引用である。
1 Jetro HP https://www.jetro.go.jp/world/asia/vn/basic_01.html 参照
2 以下、本文の各種数値はベトナム統計総局の数値を引用。https://www.gso.gov.vn/wp-content/uploads/2023/06/Sach-Nien-giam-TK-2022-update-21.7_file-nen-Water.pdf なお、一部データがない項目があり、その場合前掲注1のデータを利用した。
3 「The Annual Report of Vietnam Insurance Market 2022」ベトナム財務省HP https://www.mof.gov.vn/webcenter/portal/cqlgsbh/pages_r/l/chi-tiet-tin-cuc-quan-ly-giam-sat-bao-hiem?dDocName=MOFUCM286227 参照。
2022年の名目GDP総額は4090億ドル2となっている。また一人当たり名目GDPが4087ドルで、同じ東南アジアのタイ(7089ドル)の6割弱である。
実質GDP成長率の伸びについてだが、新型コロナ禍による影響を受けた2021年の対前年比2.56%増から、2022年は8.02%増を記録した。平均6-7%増を維持していた新型コロナ以前の成長率が戻ってきたようである。
ベトナム経済は近年、農林水産業中心から工業およびサービス業へと重心を移してきた。2022年度も同様である。各業態のGDP増加率であるが、ベトナム統計総局の資料によれば、農林水産業は対前年比3.36%の増加であり、工業・建設業は対前年比7.78%増加である。サービス業の成長は2021年には低迷していたが、2022年は対前年比9.99%増と大幅に増加した。新型コロナ禍下でも成長し続けていた輸出入は引き続き好調を続け、輸出額は3713億ドルで前年比10.5%増となり、輸入額は3589億ドルで、同じく7.8%増となり、輸出入額の合計は7302億ドルとなった。
2021年に一時悪化した失業率は全体で2.34%と、昨年より0.86%改善した。なお、新型コロナの影響についてであるが、ベトナムでは2022年4月に濃厚接触者の隔離を不要とするなど、いち早くアフターコロナへと踏み出した。また、マクロ経済も安定し、物価上昇率も2022年は対前年比3.15%増とベトナム議会の設定した範囲内に収まった。
本稿ではベトナム財務省保険監督部が発行した2022ベトナム保険市場年次レポート3のデータを元にベトナム生命保険市場について解説を行う。以降の数字、図表は同レポートよりの引用である。
1 Jetro HP https://www.jetro.go.jp/world/asia/vn/basic_01.html 参照
2 以下、本文の各種数値はベトナム統計総局の数値を引用。https://www.gso.gov.vn/wp-content/uploads/2023/06/Sach-Nien-giam-TK-2022-update-21.7_file-nen-Water.pdf なお、一部データがない項目があり、その場合前掲注1のデータを利用した。
3 「The Annual Report of Vietnam Insurance Market 2022」ベトナム財務省HP https://www.mof.gov.vn/webcenter/portal/cqlgsbh/pages_r/l/chi-tiet-tin-cuc-quan-ly-giam-sat-bao-hiem?dDocName=MOFUCM286227 参照。
2――保険市場の概況
1976年の南北ベトナム統一時、南ベトナムにあった既存生保は消滅した。以降、1964年に当時の北ベトナムで設立された国営保険会社であるベトナム保険会社(現在のBao Viet Holdings)のみが、伝統的損害保険商品に限定して販売するという一社独占体制が長らく続いた。政府は現在も共産党一党独裁制が続いているが、1986年に開放政策であるドイモイ政策が打ち出された後、保険市場の開放が進むこととなった。
保険市場の改革により、1994年に民間保険会社の設立が許容され、1995年には生命保険の販売が再開された。また、1996年には外資系保険会社とベトナム国内社の合弁会社の設立が、1999年には外資系保険会社の100%子会社設立が認められるようになった。これを受け、1999年にPrudentialとManulifeが参入し、以降、外資の参入の本格化が進んだ。2022年末の生命保険会社数は19社である。
市場規模としては、収入生命保険料が年間178兆3270億ドン(1兆18億円(2022年12月の円ドン為替レートの概算である1円=178ドンで計算、以下同じ))である。ベトナムにおける生命保険の市場浸透率(Insurance Penetration、対GDP保険料収入)はGDPの上昇に保険料収入増が追い付いていないため、1.87%(2021年2.47%)と対前年比で減少した。
保険市場の改革により、1994年に民間保険会社の設立が許容され、1995年には生命保険の販売が再開された。また、1996年には外資系保険会社とベトナム国内社の合弁会社の設立が、1999年には外資系保険会社の100%子会社設立が認められるようになった。これを受け、1999年にPrudentialとManulifeが参入し、以降、外資の参入の本格化が進んだ。2022年末の生命保険会社数は19社である。
市場規模としては、収入生命保険料が年間178兆3270億ドン(1兆18億円(2022年12月の円ドン為替レートの概算である1円=178ドンで計算、以下同じ))である。ベトナムにおける生命保険の市場浸透率(Insurance Penetration、対GDP保険料収入)はGDPの上昇に保険料収入増が追い付いていないため、1.87%(2021年2.47%)と対前年比で減少した。
3――新契約の状況
2022年におけるベトナムにおける生命保険の新契約の伸びは足踏みをすることとなった。2022 年の生命保険新契約件数は3,414,561件で対前年比4.09%減となった。うち、個人保険が3,413,732件、団体保険が829件(加入者は144,038人)である。
新契約について、主契約に係る収入保険料は45兆6220億ドン(2563億円)で対前年比2.14%増となった。付保保険金額は1668兆2360億ドン(9兆3721億円)で対前年比8.09%増となった(特約除きでは9.35%増)。個人保険の主契約平均付保保険金額は4億8860万ドン(274万円)となっている。新契約件数が減少したにもかかわらず、一契約当りの平均付保保険金額が15.89%増加していることが、新契約収入保険料の増加に寄与した。
団体保険の平均付保保険金額は一団体当たり326億ドン(1億8314万円)で、加入者一人当たりに直すと1億8750万ドン(105.3万円)となっている。
新契約の会社別マーケットシェア(新契約収入保険料ベース)であるが、収入保険料ベースで順に、Prudential(17.82%)、Manulife (17.66%)、Dai-ichi(第一生命ベトナム、13.32%)、Bao Viet Life(10.39%)、AIA(8.24%)、FWD(7.09%)、MB Ageas(7.00%)、Sunlife (6.64%)となった(次頁図表1)。
収入保険料ベースの新契約シェア状況の推移を見ると、2018年から2021年までシェアトップを維持していたManulifeが対前年比4.6%減とシェアを大きく減らして2位に順位を落とした。他方、Prudentialが対前年比3.8%シェアを増加させ、シェア1位を獲得した。また、2021年に三位だったBao Viet Lifeは3%近くシェアを減らして4位に順位を落とし、シェアを1.24%増加させたDai-ichiが3位に浮上した。
新契約について、主契約に係る収入保険料は45兆6220億ドン(2563億円)で対前年比2.14%増となった。付保保険金額は1668兆2360億ドン(9兆3721億円)で対前年比8.09%増となった(特約除きでは9.35%増)。個人保険の主契約平均付保保険金額は4億8860万ドン(274万円)となっている。新契約件数が減少したにもかかわらず、一契約当りの平均付保保険金額が15.89%増加していることが、新契約収入保険料の増加に寄与した。
団体保険の平均付保保険金額は一団体当たり326億ドン(1億8314万円)で、加入者一人当たりに直すと1億8750万ドン(105.3万円)となっている。
新契約の会社別マーケットシェア(新契約収入保険料ベース)であるが、収入保険料ベースで順に、Prudential(17.82%)、Manulife (17.66%)、Dai-ichi(第一生命ベトナム、13.32%)、Bao Viet Life(10.39%)、AIA(8.24%)、FWD(7.09%)、MB Ageas(7.00%)、Sunlife (6.64%)となった(次頁図表1)。
収入保険料ベースの新契約シェア状況の推移を見ると、2018年から2021年までシェアトップを維持していたManulifeが対前年比4.6%減とシェアを大きく減らして2位に順位を落とした。他方、Prudentialが対前年比3.8%シェアを増加させ、シェア1位を獲得した。また、2021年に三位だったBao Viet Lifeは3%近くシェアを減らして4位に順位を落とし、シェアを1.24%増加させたDai-ichiが3位に浮上した。
新契約の商品状況を見ると、これまでも収入保険料ベースでは貯蓄・投資性の商品がほとんどであり、特に養老保険と投資連動型保険の販売が活発であった。そして2021年には販売される商品が投資連動型保険にほぼ集中する形となった。2022年も同様の傾向であり、販売されている商品のほとんどが投資連動型保険となっている。
これを新契約収入保険料ベースでみると、養老保険は2021年1兆2630億ドン(70億円)から2022年は7300億ドン(41億円)へと42.20%も減少している。これに対し、投資連動型保険は2021年41兆7440億ドン(2345億円)から、43兆4970億ドン(2443億円)へと4.19%増加している。投資連動型保険が伸びたこともあるが、養老保険の人気がなくなったとも言える。
なお、ベトナムの統計上、ユニットリンク保険とユニバーサル保険とをまとめて投資連動型保険として分類している。
収入保険料ベースの商品別新契約シェアは投資連動型保険(investment-linked products)が85.48%、養老保険(endowment)が1.44%となっている。他方、保障性の強い保険としては定期保険が1.35%となっている(図表2)。
これを新契約収入保険料ベースでみると、養老保険は2021年1兆2630億ドン(70億円)から2022年は7300億ドン(41億円)へと42.20%も減少している。これに対し、投資連動型保険は2021年41兆7440億ドン(2345億円)から、43兆4970億ドン(2443億円)へと4.19%増加している。投資連動型保険が伸びたこともあるが、養老保険の人気がなくなったとも言える。
なお、ベトナムの統計上、ユニットリンク保険とユニバーサル保険とをまとめて投資連動型保険として分類している。
収入保険料ベースの商品別新契約シェアは投資連動型保険(investment-linked products)が85.48%、養老保険(endowment)が1.44%となっている。他方、保障性の強い保険としては定期保険が1.35%となっている(図表2)。
付保保険金ベースで見ても投資連動型保険がほとんどである点は同様であり、投資連動型保険が92.37%となっている。そのほか、養老保険0.28%、定期保険が5.29%となっている。
定期保険は新規販売件数が1,010,637件、平均的な保険金額は8726万ドン(45万円)程度であり、小口契約が多い。
定期保険は新規販売件数が1,010,637件、平均的な保険金額は8726万ドン(45万円)程度であり、小口契約が多い。
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経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
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