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介護軽度者向け総合事業のテコ入れ策はどこまで有効か?-事業区分の見直しなど規定、人材育成や「措置」的な運用が必要

保険研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 三原 岳
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1――はじめに~介護軽度者向け総合事業のテコ入れ策はどこまで有効か?~
今回の見直しの背景には、制度発足から5年以上も経過しているのに、総合事業が市町村に浸透していないことに対する危機感がある。さらに、財務省は給付費を抑制する観点に立ち、要介護1~2を総合事業の対象に加える制度改正を求めており、こうしたプレッシャーも今回の検討に影響していると考えられる。その意味では、中間整理は総合事業の「テコ入れ策」の側面を持っている。
では、中間整理はテコ入れ策として、どこまで効果を持つのだろうか。本稿では、複雑怪奇な総合事業の内容や見直し論議が浮上した経緯を整理しつつ、中間整理の内容を詳しく見る。その上で、今後の論点として、人材育成の重要性とか、税財源を中心とする「措置制度」的な運用が求められる点などを指摘する。
2――総合事業の見直しが論点になった背景や経緯
総合事業が作られた背景として、要支援者(要支援1~2)の給付抑制に対する期待があったことは間違いない。
例えば、現在の制度改正の流れを作った2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書は要支援者向け給付について、「市町村が地域の実情に応じ、住民主体の取組等を積極的に活用しながら柔軟かつ効率的にサービスを提供できるよう、受け皿を確保しながら新たな地域包括推進事業(仮称)に段階的に移行させていくべきである」とされていた。ここで言う「地域包括推進事業」が現在の総合事業であり、「受け皿」「効率的」という言葉に見られる通り、費用抑制が意識されていた。
制度のスタートに際して、厚生労働省が2015年6月に作成した初めてのガイドライン(正式名称は「介護予防・日常生活支援総合事業のガイドライン」、以下は「ガイドライン」と表記)でも、以下の取り組みを通じて、費用の効率化を目指すとされていた。
- 住民主体の多様なサービスの充実を図り、要支援者等の選択できるサービス・支援を充実し、状態等に応じた住民主体のサービス利用の促進(サービス内容に応じた単価や利用料の設定。結果として、低廉な単価のサービスの利用普及)
- 高齢者の社会参加の促進(支援を必要とする高齢者への支援の担い手としての参加等)や要支援状態となることを予防する事業(身近な地域における体操の集いの普及、短期集中予防サービス、地域リハビリテーション活動支援事業の活用等)の充実による認定に至らない高齢者の増加
- 効果的な介護予防ケアマネジメントと自立支援に向けたサービス実施による要支援状態からの自立の促進や重度化予防の推進等
つまり、住民主体など従来の介護保険給付よりも単価が低いサービスの拡大とか、高齢者が気軽に体操などを楽しめる「通いの場」の拡大、高齢者の社会参加促進、介護予防のケアマネジメントの強化などを通じて、高齢者の身体的自立と重度化防止を図ることで、結果的に費用を減らせる経路が期待されていた。
1 2014年2月21日、第186回国会衆院厚生労働委員会における田村憲久厚生労働相(当時)による答弁。発言は文意を変えない範囲で適宜、修正した。
こうした状況の下、財務省は2022年5月の財政制度等審議会(財務相の諮問機関、以下は財政審)で、総合事業の予算上限制度に関して改善を促した。先に触れた通り、上限を超過した予算については、市町村が保険料引き上げや一般財源への追加、予算規模の圧縮が求められるが、厚生労働省との「個別協議」を経て、「費用の伸びが低減していく見込みがある」などの要件を満たしている判断とされるケースについては、上限を突破しても国庫負担率(25%)が引き続き適用されている。
それにもかかわらず、個別協議の対象となっている保険者(保険制度の運営者)が2020年度で計394件に及んでおり、そのうち259件に関しては、特段の理由が見当たらないとして、財務省は「要件の形骸化は明らか」と指摘し、法制上の措置を含めた検討など厳格な運用を求めた。
これを受けて、厚生労働省は総合事業のテコ入れ策を講じた。まず、2022年度から始まった「地域づくり加速化事業」では、上限を超えている市町村に対して、職員や有識者を派遣するとともに、地域の専門職などを集めたワークショップを開くことで、事業の趣旨を説明したり、介護予防を強化したりしている。一部の市町村では、▽新規要支援者を短期集中リハビリテーションのC型や通いの場に繋げる、▽デイサービスの利用減を推奨――などを内容とする予算削減計画も立案されている。
さらに、中間整理を取りまとめた「介護予防・日常生活支援総合事業の充実に向けた検討会」(以下、検討会)もテコ入れ策の側面を有していた。次に、検討会の経過と中間整理の内容を取り上げる。
3――検討会の経過と中間整理の内容
検討会は学識者や自治体関係者など計14人で構成し、2023年4月の第1回会合では、2023年夏頃をメドに制度面・運用面の論点を洗い直す方針が確認された。さらに、介護予防に繋がるサービス・事業を展開しつつ、住民が相談に来た時点で行き先を振り分ける奈良県生駒市の事例が紹介された。
その後、検討会は5月以降、関係者のヒアリングなどを実施。当初、「2023年夏」に予定されていた結論は2023年末まで持ち越したものの、中間整理が2023年12月の社会保障審議会(厚生労働相の諮問機関)介護保険部会に提出されるに至った。
中間整理では、総合事業の充実に向けた「具体的な方策」として、(1)高齢者が地域とつながりながら自立した日常生活をおくるためのアクセス機会と選択肢の拡大、(2)地域の多様な主体が自己の活動の一環として総合事業に取り組みやすくなるための方策の拡充、(3)高齢者の地域での自立した日常生活の継続の視点に立った介護予防ケアマネジメントの手法の展開、(4)総合事業と介護サービスとを一連のものとした地域で必要となる支援を継続的に提供するための体制づくり――という4つが挙げられた。
以下、4つの方策を具体的に検討すると、(1)では現状の事業区分について、「介護保険制度の構造や事業の実施主体である市町村の目線」に立っているとして、「ユーザーあるいは活動の主体たる高齢者一人一人にとっての関わりが希薄」と指摘。さらに区分が並列的に列挙されていることで、市町村の間で事業の目的よりも実施することが目的化している可能性が言及された。
その上で、中間整理では既存の事業区分にこだわらず、高齢者の状態像や市町村の判断に応じて、弾力的に運営できるような事業区分の必要性が強調された。これらの例示として、「高齢者が担い手となって活動(就労的活動を含む)できるサービス、高齢者の日常生活支援を行うサービスなど、高齢者の目線に立ったサービスのコンセプトを軸とする多様な事業のあり方」「予防給付時代の制度的分類にとらわれない、訪問と通所、一般介護予防事業、高齢者の保健事業や保険外サービスなどを柔軟に組み合わせた新たなサービス・活動モデル」などが挙げられている。これは図表1で掲げた事業区分の見直しを示唆した文章と読み取れる。
さらに、「継続利用要介護者」が利用可能なサービスの拡充も盛り込まれた。ここで言う「継続利用要介護者」とは、総合事業を例外的に使っている要介護者を指す。通常、総合事業の主な対象者は軽度な要支援者だが、2021年度以降、総合事業を使っていた高齢者が要介護1以上の認定を受けても、総合事業の住民主体のB型サービスなどを例外的に引き続き使えるようにした。これは「総合事業の対象者の弾力化」と呼ばれている。
この仕組みに関連し、中間整理では「要介護状態や認知症となっても、地域でのこれまでの日常生活を自身の能力と選択に応じて継続できることにつながる」として、弾力化の対象を拡大させる可能性が示唆された。
(2023年12月27日「保険・年金フォーカス」)
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- プロフィール
【職歴】
1995年4月~ 時事通信社
2011年4月~ 東京財団研究員
2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
2023年7月から現職
【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会
【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)
【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数
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