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- ECB政策理事会-利上げを決定、しかし追加利上げ余地は小さい
2023年09月15日
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(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(質疑応答(趣旨))
- 成長率に対するリスクは下方に傾いている
- 金融引き締めの影響が想定よりも強力に生じる、あるいは例えば中国のさらなる減速によって世界経済が低迷すれば成長率はより低下するだろう
- 逆に、労働市場が強く、実質所得が上昇し、不確実性が解消して人々や企業の景況感を改善させ、支出を増加させれば、予想よりも成長率が高まる可能性がある
- インフレ率の上方リスクには、エネルギーと食料品価格への上昇圧力の再燃がある
- 天候悪化、より広範な気候変動危機の進展は食料品を予想よりも押し上げる可能性がある
- 継続的にインフレ期待が我々の目標を上回ること、もしくは賃金や利益率の予想以上の上昇もまた、中期的に見てもインフレ率を押し上げる可能性がある
- 対照的に需要の低迷、例えば金融政策の強い伝達や域外経済の悪化が起きれば、特に中期的には物価上昇圧力が低下するだろう
(金融・通貨環境)
- 我々の金融引き締めは引き続き、広範囲の金融環境に強く伝達されている
- 貯蓄者の翌日物預金から高金利の定期預金への切り替え、ECBの貸出条件付長期資金供給オペ(TLTRO)の段階的廃止を受けて、銀行の資金調達コストは再び上昇した
- 平均の企業向け貸出金利と住宅ローン金利は7月も上昇し、それぞれ4.9%および3.8%となった
- 信用動向は、さらに軟化した
- 企業向け貸出伸び率は前年比で6月の3.0%から7月には2.2%まで低下した
- 家計向け貸出もまた6月の1.7%から1.3%に鈍化した
- 3か月前比年率では、家計向け貸出が0.8%減となり、ユーロ発足以来最大の縮小となった
- 貸出が低下し、ユーロシステムのバランシートが縮小するなか、M3の前年比伸び率は6月の0.6%から7月には▲0.4%に低下し、史上最低となった
- M3は3月前比年率では1.5%減となった
(結論)
- (声明文冒頭に記載の利上げと、金融政策スタンスへの再言及)
(質疑応答(趣旨))
- 一般的な質問として、議論はどのようなものだったか。会合前、タカ派にもハト派にも機会があった。どのように妥協に至ったのか
- 一部の(a few)メンバーは一時停止を希望したが、大多数(solid majority)は我々の先ほど読んだ決定に合意した
- ベースラインシナリオを過去に実施してきた手段の影響について、深く議論した
- これはハト派的利上げ(dovish hike)、つまり利上げサイクルの完了なのか、それともドアは空いているのか
- 適切な政策金利の制限的な水準と期間については、引き続きデータ依存のアプローチで決定される
- 特に、インフレ見通し、基調的なインフレ動向、金融政策の伝達状況の評価に基づく
- 資産購入策について。PEPP再投資は2024年で変わらないのか。もしそうでないなら、APPについて何か議論する予定か。国債の売却について議論の予定があるか
- 我々は政策金利を中期的な2%目標到達のための主要手段と見なしている
- PEPPプログラムに関して、再投資やフォワードガイダンスについて議論していない
- APPの資産売却に関する議論は何もしていない
- ユーロ圏の成長率見通しについて。7-9月期と10-12月期の景気後退を予想しているか、そうでないなら四半期ベースでの数値はプラスが続くのか
- 成長率見通しについて23年を0.9%から0.7%に、より重要な点として24年を1.5%から1.0%に修正した
- ただし、0.5の4分の3については23年に生じたゲタ(carry over)である
- 見通しに基づけば、5四半期にわたる非常に成長が低迷する時期にあり、終わりに近づいている
- 23年下半期に予想されていた回復は様々な理由から後倒しになっている
- あなたは、現在の金利水準は、十分な期間維持されれば、インフレに対応するために重要な貢献をすると述べた。理事会では十分な期間、あるいは少なくとも金利をピークに据え置く期間について議論したか
- 十分(な期間)については議論しておらず、それはデータに依存する
- 最近のシントラでの講演では、ECBは近い将来、金利がピークに達したと言える可能性は低い、としていた。今回、この点についてさらに強くほのめかす決定に至った理由は何か
- シントラから変化はしていない
- 我々は、今がピークだとは言っていない
- 十分制限的な水準、および期間の双方が重要である
- ただし、焦点がより期間に移行していくだろうことは明らかである
- ジャクソンホールで、あなたは、ECBは国民からの信認を維持しなければならないと言った。どのようにECBの信認を評価しているのか
- 私の信認の定義は、責務の達成である
- 信認とは、我々の中期的な2%目標への速やかな到達であり、それに向けて必要なことはすべて行うということである
- リーマンショックから15年が経過したが、危機以降の欧州の銀行システムは安全なのか。シャドーバンキングはどうか
- 銀行はより強靭になっている
- 3月の米国やクレディスイスで発生したようなイベントは欧州銀行に影響を及ぼさなかった
- その後のストレステストでも、欧州銀行は非常に厳しいシナリオにも耐え、強靭であることが示された
- 金融安定の観点からは、ノンバンクにより多くの脆弱性がある
- 我々も注目している
- ユーロ圏経済の苦悩を助長し、不況を悪化させていると非難している人々に何と言うか
- 我々はインフレ率の低下を継続させ、強化させたい
- それは景気後退を引き起こしたいのではなく、インフレや物価高の影響を受けている人々、最も恩恵が少ない人々のために物価の安定を望んでいるためである
- 各国中央銀行とECBは、今後数年で巨額の損失を出すと見込まれているか。この点は議論に影響を及ぼしているか。ECBの決断に影響を及ぼしているか
- 影響はない
- 我々の目的と責務は物価の安定である
- 利益を稼ぐことではない
- データ依存と長期に維持することが互いに合致しないのではないか、これらは矛盾しているのではないか、さらに成長が鈍化した際に利下げする準備はあるのか。換言すれば、もし十分に制限的であったとしたら、それは利下げを意味するのではないか
- データ依存は、十分に制限的な水準、およびその水準にとどまる期間の双方に適用される
- そのため、この2つの要素を同一文に含めることは矛盾しない
- 不動産市場の問題はどの程度ECBに影響しているのか
- インフレ抑制のための政策金利の水準と金融引き締めは現在の不動産市場全般の苦境の一因となっている
- 気付いていないわけではない
- 我々は特定部門を維持・支援するために動いているわけではない
- 金融政策の伝達のペースと強さについての評価を聞きたい。家計向け貸出の縮小が最も早かったと述べた。金融政策の伝達は好ましい速さなのか、速すぎたのか、強すぎたのか、あるいは十分に遅いのか
- 現在の利上げサイクルは過去のものより金融環境に速く伝達しているという証拠がある
- かつて、あなたは企業が人件費の上昇を吸収する限り、賃金は上昇を続けるという可能性について述べたが、この可能性を考え始めているか。あるいは賃金が低下し、利益が元に戻るリスクはあるのか
- 利益面を見ると、利益単価は依然として伸びているが、初めて減速した
- これは賃金上昇を可能にするために、利益が縮小されるという見通しを裏付ける
- 住宅市場について。あなたは政策金利の引き上げが住宅市場を冷やすと述べた。しかし、全体の成長はどれだけ低迷しているのか。システミックリスクはどれほどあるのか。リスクがあるにもかかわらず、どのように本日利上げを行うという結論に至ったのかを教えて欲しい。どのように、「結局利上げが必要だ」という結論に達したのか
- 我々は、「目標への進捗をより強固にするために、本日、3つの主要な政策金利を0.25%ポイント引き上げることを決定した」と述べている
- 可能な限り速やかに行い、そうすることで見通しの信頼度の高さを支え、目標に向かう進捗を強固にしたいと考えている
- (デギンドス氏)不動産市場については2つの異なる状況がある
- 住宅市場については、価格の鈍化が見られ始めている
- 商業用不動産については、コロナやテレワークと関連して、金融引き締め依然から価格が鈍化していた
- 不動産ファンドには商業用不動産に大きなエクスポージャーを持つものがある
- これは我々が注視し、細かく監視する必要があるものである
- 24年の大幅な下方修正に関連して、理事会が景気後退の可能性についてどれほど懸念しているか教えて欲しい。特にイタリアのように経済活動の多くを銀行に依存している経済ではどうか
- 経済活動が資金調達に依存するのはどの国でも同じであり、欧州ではイタリアに限らず、多くは銀行が担っている
- 我々は非常に低成長を経験している
- 来年の成長率を1.5%から1%に引き下げたのは、4分の3が現在の低成長に起因している
- 困難な時期は今であり、回復が24年にずれ込んでいる
- 食料インフレ率が気候変動に関連した悪天候のために上昇するかもしれないリスクに言及した。これは22年にすでに発生している。具体的に再発する兆候はあるのか、またインフレ率に影響する可能性はあるのか
- 食料インフレが低下し続けることを望んでいるが、こまだかなり高い構成要素である
- 我々はすべての構成要素を注意深く見ており、一部は不安定で、一部は上昇傾向あり、価格に影響を及ぼすものとなる
- 我々は、世界の動向に照らして、適切な影響を認識するために、見通しの作成ごとに評価する必要がある
- 金融引き締めに際して、パリ協定に沿った運営をどのように行うかについて、ECBの進展があったのか
- 昨年10月以降に傾斜プログラムを実施してきており、改善と修正を行った
- 我々は23年末までにパリ協定を順守していると真剣に伝えることができる
- しかし、引き続きパリ協定を順守し続けるために、さらなる手段を検討する必要がある
- スタッフによる選択肢の提案作業が予定されている
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年09月15日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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