2023年09月15日

欧州経済見通し-インフレ見通しに対する不確実性は依然高い

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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■要旨
 
  1. 欧州経済は、昨年冬にガス不足懸念が強まったが、ガス消費抑制や代替調達推進、暖冬などを理由にエネルギー危機は回避された。今年も順調にガス調達が進んでおり、エネルギー危機に陥る可能性は後退している。
     
  2. ユーロ圏の4-6月期成長率は前期比0.1%(年率換算0.5%)となった。エネルギー価格が低下して雇用環境も堅調ではあるが、依然としてインフレ率は高い水準にあり金融引き締めが続いていることから内需は弱い。また輸出も伸び悩んでいる。景気後退懸念が強まった昨年夏(22年7-9月期)からの伸び率は0.1%増とごくわずかである。
     
  3. エネルギー価格の下落と財インフレの鈍化で総合インフレ率は大幅に低下した。サービスインフレや賃金上昇率は依然として高いが頭打ちの兆しがある。インフレは基調的にも低下局面に入ったと見られる。ただしインフレ率は2%目標を大きく超えており、また、今後のインフレ低下スピードに関する不確実性は高い状況にある。
     
  4. 金融政策では、ECBは引き続き「データ次第」の姿勢を維持している。ただし、政策金利は制限的な水準に達したと評価し、今後は高い政策金利を維持する期間に政策の重心を移している。
     
  5. 景況感が弱く今後の成長加速は見込みにくいが、インフレ率の低下が引き続き実質ベースでの回復を促すと見られる。成長率は23年0.5%、24年1.1%、インフレ率は23年5.5%、24年2.9%と予想する(図表1・2)。インフレ圧力は長期化し、ECBが利下げに転じるのは24年下半期になると予想する。
     
  6. 予想に対するリスクは、成長率見通しに対しては下方に傾いており、インフレ見通しに対しては上方(賃上げ圧力と企業の価格転嫁姿勢の継続など)と下方(想定以上の需要減速)の双方に不確実性が高い状況と言える。

 
(図表1)ユーロ圏の実質GDP/(図表2)ユーロ圏の物価・金利・失業率見通し
■目次

1.経済・金融環境の現状
  ・振り返り:エネルギー危機の可能性は減少
  ・実体経済:低成長が続き、景況感も低迷
  ・物価・賃金:基調的なインフレ率にも低下の兆し
  ・財政政策:段階的な財政健全化へ
  ・金融政策・金利:実質的にも「データ次第」の運営に
2.経済・金融環境の見通し
  ・見通し:インフレ率低下で実質ベースでの回復が継続
  ・リスク:成長率は下方、インフレは上下双方にリスク
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