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- インド経済の見通し~食品インフレで消費鈍化も、内需主導の底堅い成長が続く
2023年09月07日
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GDP統計の結果:7%台後半に成長加速

産業部門別に見ると、まず第三次産業は同+10.3%(前期:同+6.9%)と上昇した。金融・不動産(同+12.2%)と貿易・ホテル・交通・通信(同+9.2%)の好調が続いたほか、行政・国防(同+7.9%)が加速した。
一方、第二次産業は同+5.5%(前期:同+6.3%)と低下した。製造業が同+4.7%(前期:同+4.5%)、鉱業が同+5.8%(前期:同+4.3%)となり、それぞれ増勢が加速したが、建設業が同+7.9%(前期:同+10.4%)、電気・ガスは同+2.9%(前期:同+6.9%)となり、それぞれ鈍化した。
また第一次産業は同+3.5%となり、前期の同+5.5%から鈍化したものの、順調に推移した。ラビ期の豊作が下支えとなったとみられる。
1 8月31日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2023年4-6月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済概況:民間消費と公共投資の拡大が経済成長を牽引
インドはコロナ禍からの立ち直りが早く、その後も概ね順調な成長が続いている。四半期ベースの成長率をみると、2022年10-12月期は前年同期比+4.5%まで低下したが、その後は持ち直しの動きが続いており2023年4-6月期は同+7.8%と、1年ぶりの高水準となった。アジア地域は中国経済の失速や半導体サイクルの悪化により輸出が低迷して景気が減速傾向にあるが、インドは中国との貿易依存を減らす取組みを進めてきたほか、世界の半導体サプライチェーンに組み込まれていないため外需の逆風が限定的であり、堅調な内需が成長を牽引する形となっている。
4-6月期の成長率の上昇は民間消費の回復と総固定資本形成の継続的な拡大による影響が大きい。まずGDPの約6割を占める民間消費は前年同期比+6.0%となり、前期の同+2.8%から加速した。4-6月期の消費者物価上昇率は同+4.6%と、インド準備銀行(RBI)の物価目標圏内(2~6%)まで低下したため家計の実質所得が増加したほか(図表3)、RBIが昨年5月からの利上げサイクルを停止したため家計の消費行動が活発化したとみられる(図表4)。
4-6月期の成長率の上昇は民間消費の回復と総固定資本形成の継続的な拡大による影響が大きい。まずGDPの約6割を占める民間消費は前年同期比+6.0%となり、前期の同+2.8%から加速した。4-6月期の消費者物価上昇率は同+4.6%と、インド準備銀行(RBI)の物価目標圏内(2~6%)まで低下したため家計の実質所得が増加したほか(図表3)、RBIが昨年5月からの利上げサイクルを停止したため家計の消費行動が活発化したとみられる(図表4)。
経済見通し:食品インフレで消費鈍化も、内需主導の底堅い成長続く
インド経済は当面は足元の食料インフレにより成長ペースが鈍化するものの、構造的・循環的な好材料が重なり内需主導の底堅い成長が続くと予想する。
当面は世界的な景気減速により輸出が低迷する一方、輸入は内需拡大を背景に輸出を上回る伸びが続くものとみられ、外需は成長率の押し下げ要因になるだろう。また内需は引き続き公共投資が景気の牽引役となるが、借入れコストの上昇により消費と投資に下押し圧力がかかる展開が続きそうだ。そして足元では天候不順による供給減によりトマトとタマネギが品不足となるなど野菜価格が高騰している。食品インフレは主に低所得者層の家計を圧迫するため、消費需要を減退させるだろう。
もっとも、食品インフレは短期的な動きにとどまると予想している。現在の高騰しているトマトとタマネギの価格上昇はピークアウトの兆しがあり、インフレは再びRBIの物価目標圏内まで低下するだろう。年明け以降は米国の利下げ観測が高まるなか、RBIが金融緩和に舵を切る展開を予想する。従って、来年度はインフレ鈍化と借入コストの低下により民間部門の回復力が高まるだろう。
また構造的要因も景気の下支えとなるだろう。2019年の法人税減税や2年連続で大幅に拡充されたインフラ投資予算、生産連動型インセンティブ・スキームをはじめとした2020年以降の製造業支援策、昨年締結されたオーストラリアやアラブ首長国連邦との貿易協定などのインド政府の経済政策に加え、地政学的にサプライチェーンの脱中国依存を図る企業の動きもあり、外資系メーカーのインド進出が増えている。こうした投資の持続的な拡大は雇用環境の改善に繋がっており、引き続き民間消費への波及が進むものとみられる(図表9)。
このほか、来春の総選挙にかけては政党による選挙関連支出が一時的に消費を押上げるであろう。
以上の結果として、実質GDPは輸出悪化や金融引き締めの累積効果、インフレ加速などが逆風となり、2023年度の成長率が前年度比+6.1%(2022年度:同+7.2%)と低下、2024年度は輸出の持ち直しやインフレ鈍化、金融緩和などにより前年度比+6.4%に上昇すると予想する(図表10)。
当面は世界的な景気減速により輸出が低迷する一方、輸入は内需拡大を背景に輸出を上回る伸びが続くものとみられ、外需は成長率の押し下げ要因になるだろう。また内需は引き続き公共投資が景気の牽引役となるが、借入れコストの上昇により消費と投資に下押し圧力がかかる展開が続きそうだ。そして足元では天候不順による供給減によりトマトとタマネギが品不足となるなど野菜価格が高騰している。食品インフレは主に低所得者層の家計を圧迫するため、消費需要を減退させるだろう。
もっとも、食品インフレは短期的な動きにとどまると予想している。現在の高騰しているトマトとタマネギの価格上昇はピークアウトの兆しがあり、インフレは再びRBIの物価目標圏内まで低下するだろう。年明け以降は米国の利下げ観測が高まるなか、RBIが金融緩和に舵を切る展開を予想する。従って、来年度はインフレ鈍化と借入コストの低下により民間部門の回復力が高まるだろう。
また構造的要因も景気の下支えとなるだろう。2019年の法人税減税や2年連続で大幅に拡充されたインフラ投資予算、生産連動型インセンティブ・スキームをはじめとした2020年以降の製造業支援策、昨年締結されたオーストラリアやアラブ首長国連邦との貿易協定などのインド政府の経済政策に加え、地政学的にサプライチェーンの脱中国依存を図る企業の動きもあり、外資系メーカーのインド進出が増えている。こうした投資の持続的な拡大は雇用環境の改善に繋がっており、引き続き民間消費への波及が進むものとみられる(図表9)。
このほか、来春の総選挙にかけては政党による選挙関連支出が一時的に消費を押上げるであろう。
以上の結果として、実質GDPは輸出悪化や金融引き締めの累積効果、インフレ加速などが逆風となり、2023年度の成長率が前年度比+6.1%(2022年度:同+7.2%)と低下、2024年度は輸出の持ち直しやインフレ鈍化、金融緩和などにより前年度比+6.4%に上昇すると予想する(図表10)。
上記見通しに対する下方リスクは南西モンスーンの雨不足によるインフレ高進があげられる。現在のところカリフ期の穀物の作付面積は前年を上回っているが、累積降雨量(9月6日時点)は平年を11%下回る水準にとどまっている。9月も少雨となれば、農作物の生育が遅れて食品価格が上昇して、RBIが金融引き締めを継続するほか、農村部を中心に消費が落ち込む恐れがある。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年09月07日「基礎研レター」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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