2023年08月21日

タイ経済:23年4-6月期の成長率は前年同期比1.8%増~輸出低迷と投資停滞により景気減速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比1.8%増1(前期:同2.6%増)と低下し、市場予想2(同3.0%増)を下回る結果となった(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に財貨輸出の低迷と投資の鈍化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比7.8%増(前期:同5.8%増)と加速した。費目別に見ると、レストラン・ホテル(同49.1%増)は大幅な増加が続き、住宅・水道・電気・燃料(同6.5%増)やその他財サービス(同6.3%増)、娯楽・文化(同6.2%増)、交通(同5.7%増)、保健衛生(同5.6%増)、食料・飲料(同4.0%増)も順調に増加した。一方、通信(同2.3%増)は伸び悩んだ。

政府消費は同4.3%減(前期:同6.3%減)と低迷した。雇用者報酬(同0.3%増)が小幅の増加にとどまると共に、コロナ関連の医療サービス費用の縮小により現物社会給付が同25.1%減、財・サービスの購入が同2.6%減となり、それぞれ減少した。

総固定資本形成は同0.4%増(前期:同3.1%増)と停滞した。投資の内訳を見ると、民間投資が同1.0%増(前期:同2.6%増)と鈍化し、公共投資が同1.1%減(前期:同4.7%増)と減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+2.3%ポイントとなり、前期の+2.0%ポイントから縮小した。まず財・サービス輸出は同0.7%増(前期:同2.1%増)と鈍化した。サービス輸出が同78.2%増と大幅に増加したものの、財貨輸出が同5.7%減と低迷した。一方、財・サービス輸入は同2.4%減(前期:同0.9%減)と低迷し、輸出の伸びを下回った。
(図表1)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)タイ実質GDP成長率(供給側)
供給項目別に見ると、主に第三次産業の鈍化が成長率低下に繋がった(図表2)。

まず全体の6割を占めるサービス業は同4.1%増(前期:同5.2%増)と低下した。サービス業の内訳を見ると、宿泊・飲食業(同15.0%増)が二桁成長となり、運輸・倉庫業(同7.5%増)と管理及び支援サービス(同4.2%増)、金融・保険業(同3.8%増)、情報・通信業(同3.6%増)、小売・卸売業(同3.4%増)は順調に増加した。このほか、保健衛生・社会事業(同2.6%増)や不動産業(同2.5%増)、教育(同1.3%増)、芸術・娯楽等(同1.2%増)、建設業(同0.4%増)は伸び悩んだ。

鉱工業は同2.1%減(前期:同3.2%減)となり、3四半期連続で減少した。まず主力の製造業は同3.3%減(前期:同3.0%減)と低迷した。製造業の内訳を見ると、自動車およびコンピュータ・部品などの資本・技術関連産業(同2.0%減)、食料・飲料および繊維、家具などの軽工業(同6.0%減)、石油化学製品およびゴム・プラスチック製品などの素材関連(同2.4%減)が軒並みマイナス成長となった。また鉱業は同1.2%減(前期:同5.2%減)と、主要油田の生産量が減少して8期連続のマイナス成長となった。一方で電気・ガス業については同5.7%増(前期:同4.3%減)と増加した。

農林水産業は前年同期比0.5%増(前期:同6.2%増)と鈍化した。サトウキビやアブラヤシ、キャッサバ、ゴム、パイナップルなどの主要作物の収量が減少した影響が大きい。
 
1 8月21日、タイの国家経済社会開発委員会(NESDC)が2023年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

タイ経済は4-6月期の成長率が前年同期比+1.8%となり、1-3月期の同+2.6%から低下した。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、7-9月期には成長率が同+4.6%と加速したが、現在は成長ペースが減速している。

4-6月期の景気減速の主因は、輸出低迷が続く中で投資が鈍化した影響が大きい。財貨輸出(前年同期比▲5.7%)は世界経済の減速による外需の悪化やソリッドステートドライブ(SSD)の普及を背景とするハードディスクドライブ(HDD)の需要減退等が響き、主要輸出品であるコンピュータ部品(同▲29.6%)をはじめとして金属・鉄鋼(同▲19.0%)、化学・石油化学製品(同▲19.9%)などの輸出が減少した。

総固定資本形成(同+0.4%)も低調だった。輸出型製造業の設備投資の鈍化や原材料コストの上昇等により民間投資(同+1.0%)が鈍化した。タイは自動車、電機などの輸出産業の集積により工業化を遂げた外需依存度の高い国であるだけに、輸出低迷を通じた設備投資の下押しが強まっている。また前期堅調だった公共投資(同▲1.1%)はインフラプロジェクトの減少によりマイナス成長となった。

一方、インバウンド需要の回復やインフレ圧力の後退は景気の下支え要因となっている。タイでは入国規制を緩和した昨年から外国人旅行者数が回復しており、4-6月期は643万人と、コロナ禍前の6割強の水準まで持ち直してきており(図表3)、サービス輸出(前年同期比+54.6%)の好調が続いている。こうした観光産業の回復による雇用情勢の改善、そして4-6月期はインフレ率の鈍化(図表4)によって家計の購買力が向上して民間消費(同+7.8%)が加速した。特にレストラン・ホテルなど観光業の回復によりサービス支出(同+13.8%)が好調に推移しており、また自動車購入の回復により耐久財支出(同+3.2%)も増加している。
(図表3)タイの外国人観光客数/(図表4)タイのインフレ率と政策金利
先行きタイ経済は、当面は緩やかな成長ペースを辿ることとなりそうだ。中国経済の回復の遅れによる外需の低迷を受けて財貨輸出が成長の足を引っ張ると共に、民間企業の設備投資意欲の低下、そして新内閣発足の遅れによる公共投資の停滞が予想される。一方、民間消費の拡大が景気を下支える展開も続くだろう。外国人観光客数は今年7月時点で累計1,500万人を突破しており、タイ政府は2023年累計で2,800万人(2022年は1,115万人)に達すると予測している。インバウンド需要の増加は観光関連産業の更なる回復を促すため、雇用・所得環境の改善を通じて民間消費の継続的な回復に寄与する。タイ政府は2023年の成長率予想を+2.5%~3.0%とし、従来の+2.7%~3.7%から下方修正されたものの、上半期の+2.2%成長を上回ると見通している。
 
タイでは今年5月の総選挙後、最多議席を獲得した前進党のピター党首は軍部の任命した上院の反対により新首相として選出されず、新政権が発足できない政治的な膠着状態が続いている。現在は第2党となったタイ貢献党が主導権を握ることとなり連立工作を進めた結果、親軍派を含む14の政党の協力を得て下院の過半数の支持を確保するなど前進している。8月22日には上下両院議員(全750名)による首相指名選挙の実施が予定される。しかし、国民の大半はタイ貢献党と新軍派の連携に反対しており、仮にタイ貢献党の首相候補者が過半数の支持を得て新政権が発足したとしても政権運営が安定したものとなるかどうかは疑問が残る。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年08月21日「経済・金融フラッシュ」)

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