2023年08月18日

マレーシア経済:23年4-6月期の成長率は前年同期比+2.9%~内需は底堅いが、外需の悪化により低成長に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2023年4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比2.9%増1(前期:同5.6%増)と低下し、市場予想2(同3.3%増)を下回る結果となった(図表1)。

4-6月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に輸出の落ち込みが成長率低下に繋がった。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比4.3%増となり、前期の同5.9%増から低下した。

政府消費は前年同期比3.8%増(前期:同2.2%減)と増加に転じた。

総固定資本形成は同5.5%増(前期:同4.9%増)と改善した。建設投資が同6.0%増(前期:同7.5%増)と鈍化した一方、設備投資が同4.4%増(前期:同2.6%増)とやや持ち直した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同5.1%増、公共部門の伸びが同7.9%増となり、それぞれ改善した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が▲0.1%ポイント(前期:+2.1%ポイント)と大きく低下した。まず財・サービス輸出は同9.4%減(前期:同3.3%減)と減少幅が拡大した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同14.8%減)が2桁減少となる一方、サービス輸出(同41.4%増)は大幅な増加が続いた。また財・サービス輸入も同9.7%減となり、前期の同6.5%減から更に低下した。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
供給側を見ると、第二次産業の悪化と第三次産業の鈍化が成長率低下に繋がったことが分かる(図表2)。

まずGDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比4.7%増(前期:同7.3%増)と鈍化した。運輸・倉庫(同13.5%増)が2桁増となり、また宿泊・飲食業(同9.5%増)や不動産・ビジネスサービス(同8.0%増)、政府サービス(同5.5%増)も堅調に拡大した一方、金融・保険(同4.7%減)が減少すると共に、前期まで好調だった卸売・小売(同4.7%増)や情報・通信(同3.6%増)が鈍化した。

第二次産業は前年同期比0.3%減(前期:同3.5%増)と小幅に減少した。まず製造業は同0.1%増(前期:同3.2%増)と停滞した。内訳を見ると、化学製品(同4.1%増)と食品加工(同3.0%増)は緩やかな伸びとなったが、主力の電子機器(同1.9%減)やゴム製品(同12.4%減)は減少、動植物性油脂(同0.5%増)と輸送用機器(同0.3%増)が低成長となった。また建設業は同6.2%増(前期:同7.4%増)と堅調な伸びを維持したが、鉱業は同2.3%減(前期:同2.4%増)と、プラントのメンテナンスの影響を受けて1年ぶりに減少した。

第一次産業は猛暑の影響により同1.1%減(前期:同1.0%増)と減少した。その他農業(同6.6%増)は増加したが、主要産品であるパーム油(同6.9%減)が落ち込んだほか、漁業・養殖業(同2.8%減)や水産業(同0.5%減)、畜産(同0.3%増)が低迷した。
 
1 2023年8月18日、マレーシア中央銀行が2023年4-6月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

4-6月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は2023年4-6月期の成長率が前年同期比+2.9%となり、1-3月期の同+5.6%から更に減速、約2年ぶりの低成長となった。昨年はコロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、通年の成長率が前年比+8.7%(2021年:同+3.1%)と大きく上昇したが、現在はペントアップ需要の押し上げ効果が薄れるなかで前年同期の高いベース効果の影響を受けて景気が減速傾向にある。

4-6月期の景気減速は外需の更なる悪化が主因となった。まず財貨輸出(同▲9.4%)は海外需要の低迷により電気・電子産業をはじめとする輸出志向の製造業が振るわず減少幅が拡大した。

民間消費(同+4.3%)は底堅い伸びを保ったが、前年同期のベース効果により増勢が鈍化した。もっとも、マレーシアの消費を巡る環境は改善している。昨年からの一連のコロナ規制の緩和により観光関連産業が回復しており、2023年6月の雇用者数が前年同月比3.4%増の1,631万人、失業率が3.4%と前年同月の3.8%から低下するなど雇用環境は改善(図表3)、また4-6月期の消費者物価上昇率が前年同期比+2.8%(1-3月期の同+3.6%)となりインフレ圧力は後退している。

一方、サービス輸出(同+41.4%)は大幅な増加が続いた。マレーシアは昨年4月以降、入国規制を段階的に緩和しており、インバウンド需要がサービス輸出を押し上げている。今年3月の国内空港利用者数をみると、国内線がコロナ禍前の約9割まで、国際線も約8割まで持ち直してきている(図表4)。

また総固定資本形成(同+5.5%)と加速した。外需の悪化や昨年からの金融引き締め策による借入コストの上昇など投資環境は悪化しているが、複数年にわたる投資プロジェクトの継続的な実施により設備投資(同+4.4%)が持ち直し、建設投資(同+6.0%)も堅調に推移した。
(図表3)マレーシア雇用統計/(図表4)マレーシア国内空港利用者数
マレーシア経済は前年同期の高いベース効果の影響により当面は低成長が続きそうだ。また中国の景気回復ペースが鈍化するなど世界経済の減速により財貨輸出の低迷が予想されるほか、マレーシアの金融引き締め策も内需の足かせになるとみられる。マレーシア中銀は国内経済の底堅さを背景に今年5月に追加利上げを実施して、政策金利がコロナ禍前と同水準の3%に回復している。もっともインフレ圧力の後退や観光業を中心とするサービス業の回復、良好な労働市場環境、大型インフラ整備計画の継続的な実施などは引き続き景気の下支えとなるだろう。内需の底堅い成長により大幅な景気減速は回避される見通しだ。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2023年08月18日「経済・金融フラッシュ」)

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