2023年08月09日

全世代社会保障法の成立で何が変わるのか(上)-高齢者も含めた応能負担の強化、制度の複雑化は進行

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳 (みはら たかし)

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

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■要旨

今年の通常国会に提出されていた「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」(以下、全世代社会保障法)は2023年5月の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決、成立した。

今回の法律では、出産時に支払われる「出産育児一時金」の引き上げに加えて、75歳以上の後期高齢者に課される保険料の上限引き上げ、身近な病気やケガに対応する「かかりつけ医機能」の強化、国と都道府県が6年周期で策定している「医療費適正化計画」の見直しなど数多くの内容が盛り込まれた。

そこで、本稿では2回シリーズで、医療保険制度改革や医療費適正化計画の見直しなどを中心に、制度改正の内容を概観するとともに、その目的や意味合い、今後の展望などを論じる。

このうち、今回の(上)では主に医療保険制度改革に関する部分に着目し、全体として全世代で応能負担を強化する流れが強まっている点を論じる。その一方、関係団体の利害調整が優先された結果、制度の複雑化が一層、進行している点を考察し、負担と給付の関係が紐付くことを特徴とする社会保険方式のメリットが失われている点を指摘する。

さらに、次回の(下)では、医療費適正化計画の強化や国民健康保険運営方針の見直しなど、主に都道府県が絡む制度改正を取り上げることで、都道府県の役割と権限を大きくする「医療行政の都道府県化」の傾向が一層、顕著になっている点を指摘し、今後の論点などを考察する。

なお、かかりつけ医機能の強化や出産育児一時金の引き上げ、介護保険改革については、別稿を取り上げたので、これらの言及は最低限に止める。

■目次

1――はじめに~全世代で応能負担の強化が明確化、制度の複雑化は進行~
2――改正法の概要と本稿の構成
  1|厚生労働省が公表している概要資料
  2|本稿の内容
3――後期高齢者医療制度の見直し
  1|後期高齢者医療制度の概要
  2|出産育児一時金に対する後期高齢者医療制度からの拠出
  3|後期高齢者医療制度の保険料上限引き上げ
  4|後期高齢者と現役世代の負担割合見直し
4――前期高齢者財政調整の見直し
  1|前期高齢者財政調整の仕組み
  2|制度改正の内容
5――今回の改正に対する評価(1)~全世代で応能負担を強化する流れが顕著に~
6――今回の改正に対する評価(2)~制度全体の極端な複雑化~
  1|会計操作、帳尻合わせ
  2|3回目の会計操作?
  3|制度複雑化が進行
  4|社会保険方式の利点を失わせる?
  5|複雑化には必然性も
7――今後の展望(1)~相対的に所得が高い高齢者の負担増加~
8――今後の展望(2)~前期高齢者医療費の報酬調整が拡大する可能性~
9――今後の展望(3)~後期高齢者医療制度の見直し論議~
  1|負担割合の見直しで「上限」が見える可能性
  2|過去の議論から見える制度改正の選択肢
  3|都道府県への移行はどこまで可能か?
10――おわりに

(2023年08月09日「基礎研レポート」)

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