2023年08月02日

気候変動と酷暑-「今年7月は観測史上最も暑い月」 との予想も

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

今年も7月下旬に全国的に梅雨明けとなり、本格的な夏を迎えた。各地で猛烈に気温が上昇しており、熱中症による搬送者の急増が起こっている。

近年の気温上昇は、気候変動問題、特に地球温暖化問題と関連付けて見られることが一般的だ。今回は、気候変動と酷暑の関係について見ていこう。

2――IPCCのレポート

2――IPCCのレポート

気候変動の観点からは、夏場の気温上昇について、気候変動との関係でどんなことが示されているのか。まずは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第1作業部会が2021年に公表した第6次評価報告書を見てみる。(※1)

119世紀後半に比べて、10年に一度の大雨が発生する確率が1.3倍、降水量は6.7%増加
この報告書には、「◯◯年に一度」といった極端な気象現象の発生頻度が高まってきている、と記されている。

人為的な大規模な温暖化が始まったとされるのは、19世紀後半(1850~1900年)だ。近年は、その50年間に比べると、10年に一度の大雨が発生する確率が1.3倍、降水量は6.7%増加しているという。

また、10年に一度発生していた干ばつが、5、6年ごとに発生する可能性があるとされた。
2熱波は、温暖化に伴う発生頻度の増加が大きい
それらのうち、熱波は、他のすべての極端な現象よりも、温暖化に伴う発生頻度の増加が大きい。19世紀後半には50年に一度くらい起こるとされていた規模の熱波は、世界平均気温が産業革命以前に比べて1.5℃上昇する場合、約6年ごとに起こる可能性がある。今後、20年以内にその水準に達する可能性があるという。

世界平均気温が2℃上昇する場合は3~4年ごとに発生するとされている。

そして、温暖化ガスの高排出シナリオ、つまり世界平均気温が4℃以上上昇する場合は、なんと、こうした熱波が1、2年ごとに起こるようになるとみられている。

やはり、地球温暖化が進めば、暑い夏が訪れる頻度も増すことになるようだ。

3――今夏の世界の熱波

3――今夏の世界の熱波

それでは、今年の夏、これまでに実際に世界各国で起きていることを、ニュース報道等をもとに見ていこう。

1南欧で猛暑が続いている
まず、欧州では、イタリアやギリシャなどで猛暑が続いている。イタリア保健省では、7月16日に最も高いレベル3の危険度で、高温に関する警報を、ローマやフィレンツェなどの16都市に発令した。特に、地中海のサルディーニャ島では、17日に45.7℃まで気温が上昇。シチリア島のパレルモでは、24日に同地の観測史上最も高い最高気温47℃を記録。2021年に同島のフロリディアで記録された、欧州最高気温48.8℃を更新する可能性があると報じられている。(※2) (※3) (※4) (※5) (※6)

ギリシャでは、観光地として有名なアテネのアクロポリスが暑さのために一時、閉鎖となった。ギリシャ気象庁は40℃超の日が続くと予測している。(※2)

また、大西洋のスペイン領カナリア諸島にあるラ・パルマ島では、猛烈な熱波のせいで大規模な森林火災が発生した。15日の発生以降、消防士が火災との戦いに忙殺されている。これまでに、5,000ヘクタールが焼失し、住民4,000人が避難を余儀なくされたという。(※7) (※8)
2中国では最高気温が52℃超を記録した地点も
つづいて、アジアでは、中国の華北地方で、6月下旬から猛暑となり、各地で40℃以上の気温を記録している。北京では、6月22日に最高気温が41.1℃に達し、6月の過去最高を更新した。また、7月18日までに、最高気温が35℃以上となる猛暑日の日数が27日を数え、これまでの最多記録を更新した。(※9) (※10)

比較的乾燥した中国北西部の都市トルファンの郊外では、7月16日に最高気温が52.2℃に達した。この記録が正式に認定されると、中国の最高気温(50.5℃)が6年ぶりに更新されることとなる。長期にわたる高温は、電力網や作物に打撃を与え、昨年60年ぶりに発生した深刻な干ばつが今年も起こるのではと懸念されている。(※11)
3アメリカでは世界最高気温の更新の可能性も
つぎに、アメリカでは、国立気象局が南部と西部の各州で熱波がピークに達しており、8000万人以上の住民が過剰な暑さ警報などの影響を受けると警告している。カリフォルニア州では多数の山火事が発生しており、住民に対する避難命令が出されている。(※7)

現在の世界最高気温は、1913年7月10日にカリフォルニア州デスバレーで記録されたとされる56.7℃だ。今年7月15日には、同地の気温が54℃に達したと報じられている。(※12)

今年は、この記録が110年ぶりに更新される可能性すらあるとみられている。

4――「今年7月は観測史上最も暑い月」

4――「今年7月は観測史上最も暑い月」

こうした、世界各地での酷暑の状況を受けて、世界気象機関(WMO)と欧州連合(EU)の気象情報機関コペルニクス気候変動サービスは7月27日に、酷暑に関する予想を公表している。

それによると、2023年7月1~23日の世界平均気温は16.95℃で、これまでで最も暑い月だった2019年7月の16.63℃を上回った。

また、一日の気温で見ると、2023年7月6日の世界平均気温は17.08℃で、これまでの最高記録である2016年8月13日の16.80℃を上回ったという。

予想のなかでは、「今年7月は観測史上最も暑い月となる公算が極めて大きい」と述べられている。これを受けて、国連のグテレス事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」と警告して、気候変動対策を強化するよう、各国に訴えている。(※13)(※14)

5――日本の酷暑

5――日本の酷暑

こうして世界の酷暑を見ていくと、日本の暑さはまだましなほう、と言えるかもしれない。日本は四方を海に囲まれており、猛烈な気温上昇が起こる広大な内陸地域がないことが “救い” となっている。

ただ、そうは言っても、日本でも近年、酷暑の程度は増している。昨年、日本気象協会は、最高気温が40℃以上の日を「酷暑日」(気象用語では、35℃以上は「猛暑日」)、最低気温が30℃以上の夜を「超熱帯夜」(同25℃以上の夜は「熱帯夜」)と呼称すると発表した。(※15)

この発表によると、これまで国内で 40℃以上を観測したのは、1875 年の統計開始から 32 地点で計 67 回。そのうち2001年以降の約20年で59回と、9 割近くを占めている。2022 年には群馬県伊勢崎市で、6月中に40℃以上を観測しており、全国初の出来事となった。

今年は、暑い日が続いているが、これまで(7月24日まで)のところ、まだ酷暑日は発生していない。しかし、梅雨明け後は更なる気温上昇となる可能性があり、注意が必要だ。日本気象協会が6月に公表した「2023年の気温傾向と熱中症傾向」によれば、「7月から8月は、東北南部から沖縄で『厳重警戒』ランクの所が多い見込み。9月は、東北南部や関東甲信の内陸部、東海から沖縄で広く『警戒』ランクになるでしょう」とのことだ。(※16)

気象庁のホームページによれば、日本で観測された最高気温のトップは、2018年7月23日の埼玉県熊谷市と2020年8月17日の静岡県浜松市の41.1℃とされている。日本に猛烈な熱波が襲来すれば、この最高気温の更新もあり得るかもしれない。(※17)

6――日本の気温上昇の行方

6――日本の気温上昇の行方

それでは、日本の最高気温はどこまで上昇するのだろうか?

長期的な年平均気温の変化を見ると、日本は100年あたり1.30℃の割合で上昇している。地球温暖化が進み、世界的に地球環境が悪化することが懸念されている。特に1990年代以降、高温となる年が頻出している。(※18)

これは、世界の年平均気温の上昇(100年あたり0.74℃の割合)に比べると高い水準だ。平均気温の点では、日本の上昇ペースが世界全体のペースを上回っているといえる。(※19)

年平均気温の上昇が、最高気温の上昇にもつながっていくと考えれば、今後の国内最高気温の更新は避けられないかもしれない。

ちなみに、最高気温の更新は、2018年7月23日(埼玉県熊谷市41.1℃)の前は、2013年8月12日(高知県四万十市江川崎41.0℃)に起きている。その前は、2007年8月16日(岐阜県多治見市と埼玉県熊谷市40.9℃)に起こった。(※17)(※20)

つまり、最近は5~6年に一度、最高気温の更新が起こっていることになる。この更新が繰り返されると考えれば、2018年から5~6年経過となる、今年か来年あたりに、次の最高気温の更新が起こるということになるかもしれない。

最高気温の更新がどうなるかは気になるところだが、たとえ更新されなくても、酷暑が続くことに変わりはない。夏場の熱中症対策は欠かせない。

毎日報じられる各地の高温のニュースに注意しながら、しっかりと水分補給や冷房などの熱中症対策を続けていく ― そんな夏の過ごし方が、これからの当たり前の姿になっていくのかもしれない。

7――酷暑が保険に与える影響

7――酷暑が保険に与える影響

前章まで、世界と日本の酷暑についてみていった。こうした夏の暑さは、さまざまな形で保険に影響を及ぼす可能性がある。

1農業保険の保険金支払いが増加する恐れ
まず、干ばつが発生して農業保険の保険金支払いが増加する恐れがある。東南アジアなどでは、農家向けの天候インデックス保険の普及が進みつつある。この保険は、気温、風速、降水量などの天候指標が、事前に定めた一定条件を満たした場合に、定額の保険金が支払われる仕組みとなっている。干ばつの発生動向が、保険金の支払いにどのように影響するか、注視すべきといえる。
2熱中症により医療保険等の保険金支払い増の懸念
また、熱波により熱中症などの結果、人の健康が脅かされれば、それを保障する医療保険等の保険金支払いが多発する懸念もある。近年は、熱中症に特化した保険も販売されており、猛暑が続くなかで加入者が急増しているという。熱中症に関する保険金の支払いや、特化型保険の販売動向は、ウォッチしていく必要があるだろう。(※21)
3再保険を通じて海外の保険事故の多発が国内に波及する可能性も
さらに、海外で猛暑に関連した保険事故の多発が、再保険を通じて、保険料率の引上げや保険引受の制限といった形で、国内に波及する可能性もゼロではない。これまでも、海外での大規模な地震や風水災に伴う保険金支払いが、再保険を通じて、国内に影響をもたらすことがあった。

日本だけではなく、海外の猛暑の動向にも注意していくことが求められているといえる。

8――おわりに (私見)

8――おわりに (私見)

本稿では、世界と日本の酷暑についてみていった。世界規模で、地球温暖化が酷暑という形で表れ始めているとみることもできるだろう。

気候変動問題は、夏の暑さだけにとどまらない。台風や豪雨などの自然災害、大規模森林火災の頻発、海面水位の上昇など、さまざまな形で人々の社会や生活に影響をもたらすものと考えられる。

今後も、引き続き、その影響について見ていくこととしたい。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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