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ポリアの壺問題の問題-一歩間違えると、受験生の精神力や忍耐力ばかりを問うことに !?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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◇ ポリアの壺を実社会で使う !?
次のようなギャンブルの問題を考えてみよう。どこかの国のどこかの賭博場での一場面としよう。通貨の単位は、なんでもいいのだが、とりあえずドルとしておこう。
(ギャンブルの問題)
いま、1ドル紙幣100枚と、AとBの2つの大きな箱を用意します。100枚の中から、2枚の紙幣を取り出して、AとBの2つの箱に1枚ずつ入れておきます。
3枚目以降は、1枚ずつ、どちらかの箱に入れていきます。その際、1枚の紙幣をAの箱に入れる確率は、(Aに入っている枚数)/(AとBに入っている枚数の合計)。Bの箱に入れる確率は、(Bに入っている枚数)/(AとBに入っている枚数の合計)とします。
ギャンブラーは、あらかじめ賭け金を支払います。そして、100枚の紙幣をすべてAとBのいずれかの箱に入れ終わった段階で、いずれか枚数が少ないほうの箱の紙幣を受け取るものとします。両方とも50枚ずつで同じ場合には、Aの箱の紙幣を受け取るものとします。
このギャンブラーは、いくらの賭け金を支払うと、平均的に収支トントンとなるでしょうか?
(ただし、胴元の取り分や、ギャンブルにかかる諸経費はゼロとします。)
さて、このギャンブルでは、2つの箱の枚数の均衡が崩れたら、その差はどんどん拡大していく。そう考えると、「最終的に少ないほうの箱には、紙幣がせいぜい10枚やそこらしか入らないのではないか」という気がしてくる。
そこで、ポリアの壺の出番だ。この問題をポリアの壺の問題のように考えてみる。Aの箱に入った紙幣を赤い球、Bの箱に入った紙幣を白い球とみなすわけだ。ポリアの壺で、赤い球と白い球が1つずつ入っている状態からスタートして、球を1つ取り出しては同じ色の球を追加するという作業を続けていき、最終的に100個の球が入った段階で、数が少ないほうの色の球は平均的に何個入っているか? という問題に置き換えたことになる。
まず、3つ目に入る球について考えると、赤の確率と白の確率がそれぞれ2分の1ずつだ。球が3つ入った後の段階では、赤2白1と、赤1白2の確率は2分の1ずつということになる。
次に、4つ目に入る球は、3つ入った後の状態が赤2白1(確率2分の1)ならば赤の確率が3分の2、白の確率が3分の1。3つ入った後の状態が赤1白2(確率2分の1)ならば赤の確率が3分の1、白の確率が3分の2となる。
すると、球が4つ入った後の段階では、赤3白1の確率は1/2×2/3=1/3。赤2白2の確率は、1/2×1/3+1/2×1/3=1/3。赤1白3の確率は1/2×2/3=1/3。つまり、どの状態も3分の1ずつとなる。
ここで、記号kを用いてこの話を一般化してみる。一般に、kを3以上の整数として、球がk個入った後の段階では、赤(k-1)白1、赤(k-2)白2、…、赤2白(k-2)、赤1白(k-1)の各状態となっている確率は、すべて同じで、(k-1)分の1ずつだと仮定する。
すると、次に入る(k+1)個目の球が赤か白かの確率から、球が(k+1)個入っている段階での各状態の確率が計算できる。例えば、mを1~kの整数として、赤m白(k-m+1)の状態は、赤(m-1)白(k-m+1)の状態で(k+1)個目に赤が入るか、または、赤m白(k-m)の状態で(k+1)個目に白が入るか、のどちらかだ。
つまり、1/(k-1)×(m-1)/k+1/(k-1)×(k-m)/k=(m-1)/{k(k-1)}+(k-m)/{k(k-1)}=1/kとなる。球が(k+1)個入っている段階で、赤k白1、赤(k-1)白2、…、赤2白(k-1)、赤1白kの各状態の確率は、すべて同じで、k分の1ずつということになる。このように、数学的帰納法によって、各状態の確率はすべて同じだと示すことができる。
さて、ポリアの壺から、100枚の1ドル紙幣のギャンブルの問題に話を戻そう。100枚がAかBのどちらかに入った最終的な段階を考えてみよう。A99枚B1枚、A98枚B2枚、A97枚B3枚、…、A2枚B98枚、A1枚B99枚の、99通りの状態が考えられるわけだが、各状態が生じる確率は、99分の1ずつでなんとすべて同じ(!) ということになる。
ということは、AとBのいずれか少ないほうの平均枚数は、
(1+2+3+…+47+48+49)/99 (AのほうがBより少ない場合)
+(1+2+3+…+47+48+49)/99 (BのほうがAより少ない場合)
+50/99 (AとBが同数の場合)
=(50×50)/99 ≒ 25.25
つまり、ギャンブラーは平均的に、約25.25ドルを受け取ることとなる。ギャンブラーは25.25ドルを賭け金として支払うと、平均的に収支トントンとなるわけだ「最終的に少ないほうの箱には、紙幣がせいぜい10枚やそこらしか入らないのではないか」という当初の印象からすると、意外に多くの紙幣が平均的に入っているという計算結果になる。
こういったギャンブルが、実際にどこかの国で行われているのかについては、はなはだ疑問が残る。だが、ポリアの壺は実社会では、なんの役にも立たない、と言い切ることもできないはずだ。
数学の入試問題は、ともすると受験生の精神力や忍耐力を試すものとなりがちだが、少し見方を変えれば、味わい深い一面も見えてくる。受験を終えて学生や社会人になった後に、そうした面を、たまに、ゆる~く味わってみるのも悪くないように思われるが、いかがだろうか。
(参考文献)
「いかにして問題をとくか」G. ポリア 著、柿内賢信 訳(丸善、1954年)
“Mathematical Puzzles” Peter Winkler (CRC Press, 2021)
(2023年07月19日「研究員の眼」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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