コラム
2023年03月20日

5回連続成功までに何回かかる?-練習が “地獄の猛特訓” に変貌するとき

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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何か技術を習得するためには、鍛錬が必要だ。
 
スポーツの基本動作や楽器の演奏などでは、ある技術を身につけるまで、何度も同じことを繰り返して練習する。例えば、野球の守備練習では、ゴロやフライの処理を何度も繰り返して行う。そうするうちに、少しずつ技術が高まり、エラーが起こりにくくなる。
 
音楽で、ピアノなどの演奏も同様だ。同じ曲の同じ部分を何度も繰り返して弾く。最初は、ミスばかりだったとしても、何回も繰り返して弾くうちに、徐々にミスの数が減っていく。
 
世の中の技術は、たいてい、このような練習の繰り返しによって身につけられていく。それでは、連続して成功するまでには、どれくらい繰り返す必要があるのだろうか? 少し考えてみよう。

◇ まずはコイン投げのモデルで考えてみる

こういうことを確率的に考えるときには、何か簡単なモデルを想定してみるとわかりやすくなる。モデルとして、よく使われるのは、コイン投げだ。
 
あるコインを投げて、表が出ることをH(Head(表)の頭文字)、裏が出ることをT(Tail(裏)の頭文字)と表記することにしよう。いま、コインは歪みのない「公正なコイン」だと仮定しておく。1回投げたときには、Hが出る確率も、Tが出る確率も、2分の1だ。
 
そのうえで、次の問題を考えてみることになる。
 

(問題)
このコインを何回も続けて投げることにします。5回連続で表が出るまでには、平均して、何回投げる必要があるでしょうか?


HとTを使って、1回目、2回目、…の順に、記号を表記することにする。例えば、HTTは、コインを3回投げて、1回目がH、2回目がT、3回目がTだったという結果を表す。

この表記を用いると、この問題は、「HHHHHが出るまでには、平均して、何回コインを投げなくてはならないか」を問うていることになる。
 
まず、一番回数が少ないのは、いきなりHHHHHが出てしまうことだ。これだとコイン投げは、5回で済んでしまう。
 
たが、普通、そう簡単にはいかない。5回コインを投げたらHHHHHだったという確率は、2分の1 の5乗で、32分の1だ。5回のコイン投げを1セットとして、32セット分、つまり160回コインを投げれば、1セットは、HHHHHが出るはずだ。では、平均して、何回コインを投げればよいか? 160回の半分で、80回ぐらいか...??
 
この問題では、5回ずつのコイン投げを1セットとして考える必要はない。Tが出たら、ゼロクリアして、またはじめからHHHHHを目指せばよいからだ。そう考えると、5回連続で表が出るまでには、最少で5回。平均的には、80回も投げる前に、HHHHHが出ることになる。
 

◇ 関係式を作って計算してみる

それでは、どう考えたらよいのか。いよいよ問題を解いていってみよう。
 
いま、表がk回続けて出ている状態だとしよう。この状態から、平均して、あとxk回コインを投げたら、HHHHHがはじめて出るものとしよう。kの範囲は、0~4だ。
 
このとき、やや唐突だが、次のような関係式を作ることができる。

x0 = 1 + 0.5×(x1 + x0)   … (1)
 
この式の意味を考えてみよう。まず、直前のコイン投げで表が出なかった状態を考えてみる。平均して、あとx0回コインを投げたら、HHHHHがはじめて出る、という状態だ。これからコイン投げを始めようという、一番最初の状態もこれに含まれる。つまり、x0を求めることこそが、この問題を解くことになるわけだ。この状態から1回コインを投げる。
 
それが、右辺第1項の1に相当する。この1回のコイン投げの結果が表だったら、1回表が出ている状態に移行したことになるから、平均して、あとx1回コイン投げるとHHHHHに至る。この1回のコイン投げの結果が裏だったら、表が出ていない状態のままだから、まだ、平均して、あとx0回コインを投げないとHHHHHに至らない。あとx1回か、x0回かは、表か裏かの確率で決まる。公正なコインを仮定しているから、それぞれの確率は0.5ずつだ。そこで、0.5を掛け算する。これが右辺第2項だ。
 
次に、表が1回出ている状態を考えよう。次のコイン投げで表が出れば、平均して、あとx2回コイン投げるとHHHHHに至る。一方、次のコイン投げで裏が出ると、1回出ていた表がゼロクリアされて、はじめからやり直しとなる。つまり、次の関係式を作ることができる。

x1 = 1 + 0.5×(x2 + x0) … (2)
 
続いて、表が2回続けて出ている状態と、3回続けて出ている状態を考えてみよう。表が1回出ている状態と同様に考えて、それぞれ次の関係式を作ることができる。

x2 = 1 + 0.5×(x3 + x0) … (3)
x3 = 1 + 0.5×(x4 + x0) … (4)
 
そして、最後に表が4回続けて出ている状態を考えてみる。この状態からは、次のコイン投げで表が出ればHHHHHに至る。一方、次のコイン投げで裏が出ると、これまでの4回連続の表がゼロクリアされて、はじめからやり直しとなる。つまり、次の関係式を作ることができる。

x4 = 1 + 0.5×x0     … (5)
 
ここまでの話をまとめると、未知数がxk (kは0~4)の5つ。これに対して、関係式が(1)~(5)の5本。つまり、5元連立方程式(!) ができたわけだ。コイン投げの話かと思ったら、いつのまにか連立方程式が出てきて驚かれている読者もいるかもしれない。とにかくこれを解いてみる。
 
中学の数学のテクニックを使って、代入や式変形を繰り返して計算していくと、この連立方程式の答えが次のように得られる。

x0 = 62、x1 = 60、x2 = 56、x3 = 48、x4 = 32
 
つまり、5回連続で表が出るまでには、平均して、62回コインを投げる必要があることになる。

◇ 実はもっと簡単に解くこともできる

この問題には、もっと簡単に解く、別解もある。まず、5回コインを投げたところ全部表だった、つまりHHHHHだったとしよう。このようなことは、2分の1 の5乗で、32分の1の確率でしか起こらない。
 
何回もコイン投げを続けていき、5回連続の結果をランダムにとり出したとき、それがHHHHHである確率は、32分の1ということになる。これは、「HHHHHは、平均して、32回ごとに起きる」と見ることができる。
 
いま、HHHHHの状態から、次にHHHHHに至るまでの回数を考えてみる。HHHHHの状態で、1回コインを投げたところ表が出た場合、いきなりHHHHHに至ったことになる。逆に、裏が出た場合、ゼロクリアして、またはじめからHHHHHを目指すことになる。この場合は、あと、平均して、x0回コインを投げることが必要になる。
 
つまり、次の関係式ができる。

32 = 1 + 0.5×x0  
 
これを解いて、x0 = 62 というわけだ。
 
この別解の考え方を使えば、6回連続で表が出る(HHHHHHに至る)までの平均回数は、126回。7回連続で表が出る(HHHHHHHに至る)までの平均回数は、254回。…… n回連続で表が出るまでの平均回数は、(2の(n+1)乗 – 2)回、とわかる。
 
ただ、この計算方法はHとTのパターンすべてに万能なわけではない。例えば、HHHTHが出るまでの平均回数の計算には使えない。連立方程式による解法を使えば、次の括弧内のようにして、平均して、34回との答えを得ることができる。
 

HHHTHについて、はじめのk個までが出ている状態を考えよう。この状態から、平均して、あとyk回コインを投げたら、HHHTHに至るものとしよう。kの範囲は、0~4だ。すると、次の5つの関係式を作ることができる。
 
y0 = 1 + 0.5×(y1 + y0) … (6)
y1 = 1 + 0.5×(y2 + y0) … (7)
y2 = 1 + 0.5×(y3 + y0) … (8)
y3 = 1 + 0.5×(y4 + y3) … (9)
y4 = 1 + 0.5× y0            … (10)
 
(6)~(10)を解いてみると、

y0 = 34、y1 = 32、y2 = 28、y3 = 20、y4 = 18

となって、HHHTHが出るまでには、平均して、34回コインを投げる必要があることになる。

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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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