コラム
2023年06月30日

株主総会とIT技術の発展(4)-バーチャルオンリー株主総会

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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株主総会とIT技術の発展の4回目は、バーチャルオンリー株主総会である。バーチャルオンリー株主総会とは、総会会場を設けず、オンラインでのみ完結する株主総会のことを言う。図表1の色付け部分が今回の取り扱う範囲である。
【図表1】IT技術の発展と株主総会の論点(色付きが今回)
前回の研究員の眼ではハイブリッド出席型株主総会を紹介したが、その際に、現行会社法の解釈では物理的な開催場所を一切設けない株主総会の開催は認められないが、ただし、追加的にオンラインを利用する、すなわちハイブリッド型株主総会は認められていると説明した。

しかし、コロナ禍で株主が一堂に会する株主総会の開催が難しくなった状況が発生したことのほか、遠隔地の株主の出席を促進し、株主総会開催の運営コスト低減を図る等の観点から、法律改正により、物理的な開催場所を一切設けないバーチャルオンリー株主総会を認めることとされた。

ただし、会社法本体を改正するのではなく、会社法の特例規定として産業競争力強化法(以下、強化法)が2021年6月9日に改正された。改正強化法は同月16日の施行である。具体的には、上場会社の定款に、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を記載できることとした(強化法66条)。ただし、定款変更にあたっては、場所の定めのない株主総会が株主の利益の確保に配慮しつつ産業競争力を強化することに資する場合として、経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業大臣と法務大臣の確認を受ける必要がある(同条)。

この確認すべき要件としては、(1)通信の方法に関する事務の責任者を設置していること、(2)通信の方法に係る障害に関する対策についての方針を策定していること、(3)インターネットの使用に支障のある株主の利益の確保への配慮についての方針を策定していること、(4)株主名簿に記載・記録されている株主の数が100人以上であることである(産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令(以下、省令)1条)。

なお、この確認を受けた上場企業においては、仮に定款変更していなくとも、上記施行日(2021年6月16日)から二年間の間は場所の定めのない株主総会とする旨の定めがあるものとみなすことができるとされている(競争法附則3条)。
 
ここから前回の研究員の眼と同様に(1)開催にあたっての留意事項、(2)議事進行における留意事項、(3)議決権行使における留意事項について見ていくこととしたい。以下で述べるところの概要は図表2の通りである。
【図表2】リアル株主総会とバーチャルオンリー株主総会との比較
まず(1)開催にあたっての留意事項であるが、バーチャルオンリー株主総会の招集の決定にあたっては、取締役会で定めるべき追加的な事項が法定されている(強化法66条で会社法を読み替え。以下強化法66条で読み替えられた会社法について、単に「読み替える会社法〇条」という)。まず、取締役会は会社法で決定すべき事項(開催日時や目的事項)を定める。もともとの会社法で決定すべきとされている「場所」に関しては「場所の定めがない株主総会とする旨」を決定する。これに加え、以下図表3の事項を定める(読み替える会社法298条1項、省令3条)。
【図表3】招集決定にあたって定めるべき事項
また、株主への招集通知には、i)会社法で定める事項(場所を除く)に加えて、ii)上記図表3の事項、iii)株主総会の議事における情報の送受信のために必要な事項(たとえばIDやパスワード)および通信の方法に係る障害に関する対策についての方針の概要、ⅳ)インターネットの使用に支障のある株主の利益の確保への配慮についての方針の概要を記載する(読み替える会社法299条4項、省令4条)。
 
次に、(2)議事進行における留意事項であるが、バーチャルオンリー株主総会においてはリアル会場がない。したがって前回の研究員の眼で紹介した、ハイブリッド出席型株主総会におけるようなバーチャルで出席する株主の動議提出の制限や動議に関する賛否表明について制限することができない。これは、仮に動議の提出や賛否の表明ができないとすれば会議体として成立しないためであり、バーチャル出席株主は動議の提出等は可能と解されている。

ただし、一点だけ法定の特則がある。すなわち、通信の方法に係る障害により議事に著しい支障が生じる場合に総会の延長や続行の決定権限を議長に一任するとの決議があるときには、当該通信支障が生じた場合、議長権限で延長・続行が可能とするものである(読み替える会社法317条)。
 
最後に(3) 議決権行使における留意事項であるが、これは上記(1)で述べた通り、事前に書面で議決権行使を行った株主がバーチャル出席をした場合の議決権の取扱いを取締役会で定めることとされている。この点については前回の研究員の眼でのべたところと同様に、実際に議決権をバーチャル行使した場合に事前の議決権行使の効力がなくなる方式を採用することも容認されると考えられる(図表4)。
【図表4】議決権行使書面を行使した株主がバーチャル出席したときの議決権の効力
オンラインで株主総会を開催することは通信障害リスクが避けられないというデメリットもあるが、時間と場所という拘束から解放されるということを意味する。場所という点からは遠隔地所在の株主の出席を容易にするし、時間という点からは、たとえば外国株主が多い会社では開催時間を夜間にするなどの工夫も可能ということになろう。今後、どのようにオンライン株主総会が各社で受け入れられていくのかを注目していたい。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2023年06月30日「研究員の眼」)

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