コラム
2023年06月16日

株主総会とIT技術の発展(2)-株主総会参考資料等の電子提供措置

保険研究部 専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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前回の研究員の眼では、「電子提供措置」を利用しない株式会社において、ⅰ)株主総会の招集通知およびⅱ)議決権行使が書面等により行使できる場合における株主総会参考書類を株主に電磁的1に提供する場合の規律について解説を行った。要約すると招集通知を電磁的に提供するには株主個人の同意が必要であり、また、この同意があるときには株主総会参考書類を当該株主に電磁的に提供できる。また一部の参考書類は限定的ではあるが、定款で定めた場合に電磁的に提供することが認められている。

本稿では「株主総会とIT技術の発展」4回シリーズの2回目として、株主総会参考書類等の「電子提供措置」について述べることとする。論ずる項目は図表1の色付き部分である。
【図表1】株主総会とIT技術の発展の論点(色付きが今回)
電子提供措置とは要約すると株主総会招集通知前に、株主総会参考書類等をウェブ上で開示させることとし、そのかわり、招集通知に株主総会参考書類を添付することを要しないとする取り扱いである。株主総会参考書類を書面で印刷・発送する時間を省略できる代わりに、書類の提供時期を早めようとするところに今回の制度改正のひとつの眼目がある。

電子提供措置に関する改正会社法は2022年9月1日より施行されたが、施行後6か月以内に開催される株主総会はなお従前の例によることとされていた。逆に言えば、当該期間の経過した2023年度に開催される株主総会においては電子提供措置を適用することができる。

法の建て前は、電子提供措置は、定款に定めることによって採用することができる(会社法(以下、法)325条の2)とされている。ただし、振替株式を発行する会社は電子的提供措置をとる旨を定款で定めなければならない(社債株式振替法159条の2第1項)。そして、そのような会社においては、昨年9月の改正会社法の施行とともに当然に定款の変更がなされたものとみなされる(整備法10条2項)。つまり上場会社には電子提供制度をとることが強制されている。なお、昨年2022年6月の定時株主総会で電子提供措置にかかる定款変更を実際に行った会社も多い。

電子提供措置の対象となるものとして定款で定めるべき資料(株主総会参考書類等)は、

①株主総会参考書類、
②議決権行使書面、
③計算書類及び事業報告(法437条)、および
④連結決算書類(法444条6項)である(法325条の2)。

そして定款により電子提供措置を採用している会社においては、株主総会の三週間前2または株主総会招集通知発信日のいずれか早い日から総会日より3カ月を経過するまで、電子提供措置を取らなければならない(法325条の3第1項)。電子提供措置で提供される情報は上記①~④の株主参考書類等であるが、具体的には以下を開示事項すべきこととされている(図表2)。
【図表2】電子提供措置を取るべき情報と株主総会参考書類等(上記①~④)
この電子提供措置に基づき、株主総会参考資料等を自社のウェブに掲載することとなるが、金融商品取引法適用会社が取引所の開示システムであるEDINETで有価証券報告書に図表2の事項を記載して提出する場合には自社のウェブでの掲載を要しない(同条3項)。

上述の通り、電子提供措置の開示対象となるのは株主総会参考書類等と位置付けられているので、招集通知自体は電子提供措置と併せて開示してあっても株主総会の二週間前までに書面を発送して行う必要がある(法299条1項、2項)3,4

この場合、電子提供措置を取っているときはその旨、あるいはEDINETで開示している場合はその旨を記載・記録しなければならない(同条2項)。措置の性格からして言うまでもないことではあるが、株主総会参考書類等を招集通知にあわせて交付・提供することを要しない(同条3項)。

なお、上記②議決権行使書面は書面でも交付することができ、この場合は、電子提供措置による提供を要しない(法325条の3第2項)。以上をまとめて、招集通知、株主総会参考書類、議決権行使書類の三つの取扱いの概略は図表3の通りである5
【図表3】招集通知等の電子提供措置と発送・交付
ちなみに、株主は電子提供措置を採用している会社に対して、電子提供措置された事項について書類で交付するように求めることができる(法325条の5第1項)。これは株主のネット環境などの事情により電子提供措置で情報が得られない場合を想定して設けられている規定である。
 
1 「電磁的」と「電子的」は会社法の条文でかき分けられているので、本稿では条文に従って使い分けている。なお、電磁的方式はウェブなどによる電子的方式に、磁気的方式(フロッピーディスクなど)を加えたものと意味するとされるが、現在では実務的にあまり相違は生じないものと思われる。
2 つまり株主総会の遅くとも3週間前には電子提供措置を取る必要があることになる。電子提供措置を取らない会社においては招集通知および株主総会参考書類等を会日の2週間前までに発送することとされているので、1週間前倒しになっている。
3 公開会社ではない株式会社においては、原則として招集通知を一週間前までに出すこととされている(法299条1項)が、電子提供措置を採用する場合は二週間前までとされている(法325条の4第1項)。
4 電磁的な提供について株主の個別同意があれば電磁的に提供することもできる。
5 なお、招集通知を電磁的に行うことの同意を得ている株主に対して議決権行使書面を電磁的に提供することもできるが、事例も少なく煩瑣なので省略する。
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保険研究部   専務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2023年06月16日「研究員の眼」)

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