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スローバリゼーション時代の日本の生存戦略

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
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1――分断が生み出す反グローバル化
グローバル化が深化してきたこれまでは、ヒトやモノやおカネが自由に行き来する流れが世界の経済成長に寄与してきた。スローバリゼーションが進めば、先進国だけでなく発展途上国や新興国も巻き込まれる。各国への直接投資や、技術移転も鈍っており、最もその影響を被るのは、途上国や新興国だと分析している。
筆者なりの結論を先に述べると、スローバリゼーションは起きないほうがいい。しかし、分断はこれからも続き、日本はその影響を受ける。日本は、スローバリゼーションを前提に、成長するためのずる賢い戦略を着々と進めるしかないだろう。
2――日本・オランダによる半導体製造装置の規制
西村康稔経済産業大臣は1月にアメリカを訪問した際、米国のジーナ・レモンド商務長官から「半導体製造装置を何とかしてほしい」との要請を受けた。そして同じ頃、オランダにも同様の要請が行われている。日本とオランダは、米国と共に半導体製造装置で世界シェアを有しており、特に最大顧客の中国に対して大きな影響力を持っている。財務省が公表した貿易統計によると、日本から中国に向けた輸出品のうち、2022年の輸出額1位および2位の品目は半導体関係だ。半導体規制が行われれば、日本への影響は大きなものとなるだろう。
オランダは、既に特定の半導体製造装置の輸出規制を強化する方針を固めた。日本は訪米時には結論を示さなかったものの、7月から一部装置を許可制にするなどの対応をとる方向で検討が進められている。これが世界、そして日本を取り巻く環境で起こり始めている。
3――「触らぬ神に祟りなし」は通用しない
4――輸出に含まれる付加価値比率
5――日本の生存戦略
分断の芽が明確に育ち始めた今、これからも日本が稼いでいくには何をすべきか。それには、おそらく分断の中で生じる価値観の変化を捉え、次なる社会構造を見据えて産業構造を変えていくしか道はない。その中で、日本が絶対に降ろしてはならないのが「自由貿易」の旗である。日本はグローバル化で恩恵を受ける国であり、資源に乏しい日本が成長していくために「殻に閉じ籠る」という選択肢はあり得ない。
最近「グローバルサウス」という言葉が頻繁に使われるようになった。グローバルサウスは、グローバル化の恩恵を十分に受けることができていない国や地域、そこで暮らす人々を指す。今の移行期の後には、おそらく多様な価値観が共存する世界が現れ、様々な特色を持つ国のパワーが相対的に高まる時代となる。分断化する世界の中、これらの国を自国の安全保障や政治経済圏に取り込むことができれば、スローバリゼーションによる損害を最小限に留めることが可能となる。日本はODA(政府開発援助)事業を展開するにも、現地の価値観を大切にして来た国だ。互いを尊重する日本のやり方は、グローバルサウスと協力関係を築くうえで、大きな強みになると思われる。
日本の戦略としては、国際的なルール形成の場で勝ち抜くことが重要だ。超大国の米国と中国が対立する中、欧州は一塊の大きな需要国となることで、ルール形成のど真ん中に出ようとしている。ルール形成の場で踏ん張ることが、日本の製品やサービスを世界に売るルートの確保につながることを理解しなければならない。少子化で縮む日本は、需要国としてのパワーは落ちていく。別の方策を考えなければならない。
例えば、環境分野には、技術面の優位性を発揮できるチャンスがある。しかし、主戦場となりつつあるEV(電気自動車)では後れを取る。早く国内の議論をまとめ、日本の主張を国際ルールに打ち込まないと、世界で勝ち抜く前提が崩れてしまうことになりかねない。
6――ASEANからの信頼が厚い日本
これまでは韓国や中国などに比べて高いという理由で、日本の製品が売れない時代が続いてきた。しかし、経済安保が世界の趨勢になると、信頼性が高いことが製品購入の際の判断材料になる。これは、信頼性があって高品質な日本の製品には、プラスの変化となる。
そして、もう1つの追い風が、デジタルとリアルの融合だ。日本はデジタル化で、米国や中国に大きく引き離されてきた。しかし、これからはリアルな製造現場に、デジタルが組み込まれるケースが増えていく。そうなれば、世界的にみて裾野が広い製造基盤を有する日本は有利になるはずだ。様々な現場から価値あるデータが生まれてくる。
経済安保の中核には、製造業や基幹インフラがあり、日本の製造業にとって復権の追い風となる。これらの内容を貫徹し、新たな追い風を生かすことで、日本はさらに力強く成長していけるだろう。
※ このレポートは、新潮社Foresight(フォーサイト、https://www.fsight.jp/)より転載したものです。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年05月12日「研究員の眼」)

03-3512-1837
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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