コラム
2025年02月12日

供給制約をどう乗り切るか-設備投資の増勢を維持するために

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

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1――経団連の設備投資の新目標、2040年度に200兆円と倍増を表明

2025年1月、経団連は民間企業による国内向けの設備投資を2030年度に135兆円、2040年度に200兆円にすることを目指す新たな目標を示し、政府に協力を求めた。石破総理も「官民一体で取り組んでいく必要がある」と強調し、脱炭素や人工知能(AI)などへの投資を伸ばす計画を打ち出した。

足元で、AI関係のデータセンターの設備投資は伸びている。総務省の調査によると、2027年には4兆以上に市場規模が拡大し、その先も毎年10%程度の成長が続くことが予測されている[図表1]。ただし、日本全体の設備投資動向を見ると、強い面と弱い面の両方を見て取ることができる。実際、名目ベースの設備投資額は、トレンドを大きく切り上げているものの、実質ベースの設備投資額は、大きく伸びていない[図表2]。
[図表1]国内のデータセンターサービス市場規模の推移/[図表2]民間企業設備(設備投資)の推移

2――「作りたい、でも、作れない」が増加

少し前から、建設中止などのニュースが相次ぎ、感覚的には「作りたくても作れない」案件が増えて来たとの実感はあった。ただ、それが足元ではっきり統計に表れて来ている。例えば、設備投資の計画と実績を見ると、コロナ禍以降、その乖離が大きくなっている[図表3]。アンケート調査から乖離の理由をみると、「工期の遅れ」「工事費高騰に伴う見直し」が顕著に増加している。企業に意欲はあるのに、人手不足や資源高で実績が追いつかない。計画倒れとなっていることが分かる[図表4]。
[図表3]設備投資計画と実績/[図表4]設備投資実績が当初計画を下回った理由
設備投資の内訳をみると、建設(約25%)、機械(約45%)、知財(約35%)となる。知財に含まれるソフトウェア投資などは増加しているものの、建設投資には失速感もみられる。建設業界では2024年問題が話題になったが、昨年4月に時間外労働に上限が設けられるなど働き方改革が進展している。これが供給ネックになり、建設関連の有効求人倍率は5倍超と、ひときわ人手不足が顕著である[図表5]。その結果、建設業の手持ち工事高は積み上がり、順番待ちの注文が消化しきれない状況が続いている[図表6]。
[図表5]職種別の有効求人倍率(2024年11月)/[図表6]建設業における出来高と手持ち工事高
これから人手はさらに減る。このままだと経団連が打ち出した2030年度や、2040年度の目標どころか、設備投資計画を立てても人がいなくて作れないといった状況になりかねない。さらには、高度成長期に整備された大量のストックが一斉に更新時期を迎える。これら老朽化したインフラのメンテナンスなどをどうしていくか、新規の設備投資と併せて考えて行かなければならない。

3――設備投資の増勢維持ができなければ、潜在成長率は駄駄下がり

設備投資に起こっている人手不足などの供給制約を緩和するためには、IT化やデジタル化などは、これまでと比較にならないペースで進める必要がある。そして、その際、優先順位も相当切り込んで決めなければならない。批判を覚悟で言えば、今いる人で何とかして仕事を回すには、働きたい人がもっと働けるようにすることも考えて良いのかもしれない。これまでの働き方改革は、もっぱら労働時間を削減することに焦点を当ててきたが、やる気があり、やりたい人がもっと頑張れるというあり方も考慮に値する。個人の意思に焦点を当て、ワークライフバランスの自由度を上げるような制度設計を議論し、導入しないと、バタバタと建設が止まる事態も起こり得る。ベンチャービジネスなどでも言われていることではあるが、個人的には必要な制度だと考えている。

2024年の日本経済は、実質・暦年ベースで4年ぶりにマイナス成長になると見込まれる。その中で、明確にプラスとなるのは設備投資だ。2025年はトランプ政策の誕生により、海外経済の不確実性は増している。そうした中で、内需の柱となる設備投資は重要であり、中長期の潜在成長率を引き上げるためにも欠かせない。潜在成長率の当社予想の大前提には、設備投資の増勢が続き、資本投入が増えていくことがある。設備が作れなければ、潜在成長率は駄々下がりしてしまう。

直近2月7日の日米首脳会談では、石破総裁がトランプ大統領に対米投資を1兆ドルやると表明した。米国など海外への投資はどんどん増えるだろうが、国内投資を増やさないと国内に雇用は生まれない。20年以上にわたって放置してきた供給面の課題(労働力不足、エネルギー不足、サプライチェーンの脆弱性など)を急いで解決しないと、国内の景気回復が持続しないという、これまでにない差し迫った状況が生じている。
 
 

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(2025年02月12日「研究員の眼」)

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総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

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