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コラム
2024年07月26日
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1――30年も資金余剰が続く企業部門、足元では余剰が再拡大
日本における長期の資金循環を、家計部門、企業部門(民間非金融法人)、海外部門、一般政府の4つの部門でみると、家計部門と企業部門は資金余剰主体、一般政府部門と海外部門は資金不足主体となっている[図表1]。これらは事後的には全体で資金過不足ゼロとなるが、家計部門と企業部門の資金余剰は、金融部門を通じて、一般政府と海外部門の資金不足に流れ込んだことを示している。
日本の資金循環の特徴は、資金調達をして設備投資などを行う企業部門が、90年後半から一貫して資金余剰主体であり続けていることである。主要国企業部門の貯蓄投資バランス対名目GDP比を国際比較してみると、日本の貯蓄割合は他の先進国との比較で見ても高くなっている[図表2]。直近、四半期ベースの動きを見ても、企業部門の資金余剰は14.4兆円と過去最大を記録している[図表3]。資源・エネルギー高が一服する中で価格転嫁が進展し、売上や利益は拡大した一方で、設備投資は伸び悩んで来たことなどが背景にある。
日本の資金循環の特徴は、資金調達をして設備投資などを行う企業部門が、90年後半から一貫して資金余剰主体であり続けていることである。主要国企業部門の貯蓄投資バランス対名目GDP比を国際比較してみると、日本の貯蓄割合は他の先進国との比較で見ても高くなっている[図表2]。直近、四半期ベースの動きを見ても、企業部門の資金余剰は14.4兆円と過去最大を記録している[図表3]。資源・エネルギー高が一服する中で価格転嫁が進展し、売上や利益は拡大した一方で、設備投資は伸び悩んで来たことなどが背景にある。
日本企業の貯蓄超過は、すでに30年近く続いている。外的環境の変化により、経済はデフレからインフレ、企業もコストカットから付加価値創出に動き出し、やっとこの特殊な状況に変化が起きるかと期待していたが、足元の動きは逆方向に進んでいる。企業の設備投資は、利益が拡大する中でもキャッシュ・フロー内の動きに留まっている[図表4]。
国全体の設備投資は、将来期待が高まらないと進まない。また、実際に投資するか、しないかは、民間企業の選択であり、第一義的には経営者がリスクを取ることが必要になる。企業の設備投資を促すためには、収益力の強化を求める株主などからの圧力(ガバナンス)、市場からの評価(プレッシャー)も不可欠である。
足元では、経済安全保障や環境・エネルギーなど、国が主導する問題が増えている。日本の安心・安全や技術力が評価される現状は、30年ぶりの大チャンスが巡って来たと感じている。いま求められるのは「リスクを取るための予見性」「中長期のビジョン」であり、政治が立ち止まれる状況ではない。
国全体の設備投資は、将来期待が高まらないと進まない。また、実際に投資するか、しないかは、民間企業の選択であり、第一義的には経営者がリスクを取ることが必要になる。企業の設備投資を促すためには、収益力の強化を求める株主などからの圧力(ガバナンス)、市場からの評価(プレッシャー)も不可欠である。
足元では、経済安全保障や環境・エネルギーなど、国が主導する問題が増えている。日本の安心・安全や技術力が評価される現状は、30年ぶりの大チャンスが巡って来たと感じている。いま求められるのは「リスクを取るための予見性」「中長期のビジョン」であり、政治が立ち止まれる状況ではない。
2――もうひとつ心配な家計部門の資金不足
足元では、家計部門にも「インフレ負け」という不安要素が出始めている。資金循環の四半期ベースの動きを見ても、家計部門が資金不足となる場面が出て来ている。
コロナ禍では、各種給付などの収入が家計を支え、外出規制により消費が抑制された結果、家計部門の資金余剰は確保されて来た。しかし、コロナ後には、国際情勢の変化からインフレが顕著となり、収入の増加以上に支出が拡大している。
家計消費を必需的支出と選択的支出の2つに分けて見ると、名目ベースではいずれも増加しているものの、実質ベースでは必需的支出が2020年対比で5%程度減少している。食料品などの値上がりが続く中で、必需品を削らざるを得ない状況が窺われる[図表5]。
家計収入の面では、名目ベースの賃上げは進んでいるものの、実質ベースではマイナスが続いている[図表6]。当研究所では、年後半10-12月以降の実質賃金プラス化を見込んでいる。政府は8月からの3か月間、電気・ガス補助金を復活させることを決めた。これにより、実際に支払が発生する9月から11月分の消費者物価は、前年同月比で+0.5%ポイントほど押下げられる見込みとなり、実質賃金のプラス化の可能性が高まって来る。
コロナ禍では、各種給付などの収入が家計を支え、外出規制により消費が抑制された結果、家計部門の資金余剰は確保されて来た。しかし、コロナ後には、国際情勢の変化からインフレが顕著となり、収入の増加以上に支出が拡大している。
家計消費を必需的支出と選択的支出の2つに分けて見ると、名目ベースではいずれも増加しているものの、実質ベースでは必需的支出が2020年対比で5%程度減少している。食料品などの値上がりが続く中で、必需品を削らざるを得ない状況が窺われる[図表5]。
家計収入の面では、名目ベースの賃上げは進んでいるものの、実質ベースではマイナスが続いている[図表6]。当研究所では、年後半10-12月以降の実質賃金プラス化を見込んでいる。政府は8月からの3か月間、電気・ガス補助金を復活させることを決めた。これにより、実際に支払が発生する9月から11月分の消費者物価は、前年同月比で+0.5%ポイントほど押下げられる見込みとなり、実質賃金のプラス化の可能性が高まって来る。
3――好循環が実現した際の資金循環
好循環が実現すれば、家計は実質賃金がプラスになり、年後半からある程度の資金余剰をキープし、企業はもう一段の設備投資に踏み切ることで、資金不足主体へ動き出すと期待を込めて予想することができる。当然、企業の投資が増えて、企業部門の資金過不足が赤字になれば、一般政府の資金余剰も見てくる可能性がある。一般政府の資金余剰は、政府部門が黒字であることを意味し、資金余剰を国債返済や将来投資に回せるようになる。
そうした場合、金融財政の正常化も、それに合わせたスピードで進めることが必要になる。日銀は、国債購入額縮小の具体的な計画を、7月末の決定会合で決める。しかし、縮小部分すべてを金融機関が購入するという訳にはいかない。つまり、財政赤字を補うために国債を発行し、日銀が消化するという、これまでのお金の流れは終了に向かう。家計、企業、政府、どの部門も変化する可能性がある局面であり、重要な時期に差し掛かっている。
そうした場合、金融財政の正常化も、それに合わせたスピードで進めることが必要になる。日銀は、国債購入額縮小の具体的な計画を、7月末の決定会合で決める。しかし、縮小部分すべてを金融機関が購入するという訳にはいかない。つまり、財政赤字を補うために国債を発行し、日銀が消化するという、これまでのお金の流れは終了に向かう。家計、企業、政府、どの部門も変化する可能性がある局面であり、重要な時期に差し掛かっている。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年07月26日「研究員の眼」)

03-3512-1837
経歴
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
矢嶋 康次のレポート
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