コラム
2024年03月25日

御社のサービスの適正価格は?

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次

文字サイズ

今やロボットは、犬型の癒し系を超えて、実用系にまで進化している。

ファミレスなどで配膳ロボットが当たり前になってきた。導入当時は「コロナだから仕方がない」「人手が足りないから仕方がない」「でも、やっぱり怖い」といった声が聞かれ、ご高齢の方からは「自身の歩行の妨げになる」「やはり配膳は人にやってもらいたい」といった声も耳にして来た。

私の場合、コロナが収束し出張が増え、出先でファミレスを利用することが増えている。そんな時、お孫さんを連れたおじいちゃん、おばあちゃんの楽しげな会話が聞こえてくる。お孫さんが「ロボットかわいいねえ」と言えば、おじいちゃん、おばあちゃんは「本当にかわいいね。早く(ロボットが)料理を運んできてくれないかね」と楽しそうだ。配膳ロボットの普及が進み、当初あった少しネガティブなイメージも変わって来たのだろうか。

そういえばファミレスなどでは、タッチパネルを使った注文システムも当たり前になった。タッチパネルの方が、細かな注文ができるため便利に感じることも多い。また中には、QRコードの読み取りで注文するモバイルオーダーのお店も増えている。いまと少し前では、だいぶ感覚が変わって来た。

これまで日本の労働力人口は、生産年齢人口(15-64歳)が減る中でも、女性や高齢者の労働参加が進むことで増えて来たが、ここ数年はそれも頭打ちになっている。女性のM字カーブは欧州並みに解消が進み、人口のボリュームゾーンである団塊世代も75歳以上を迎え、労働市場からの退出が進む。

いたるところで人手不足の大合唱が始まった。人手不足倒産も増え、最近ではバスや鉄道といったエッセンシャルな業界で、人手不足のために会社がやっていけないというニュースを耳にする。この先、日本は「成り手なし」の企業や産業が散見されるようになる。人口減少社会の日本では、10年、20年経っても人手不足は続き、解消はしない。

日本はロボット大国と言われるが、それは製造業など工場で働くロボットである。これからはサービス業など、日常生活の中にどんどんロボットやAIを導入しないと、我々の生活は成り立たなくなってしまう。

人手不足に悩むサービス業では、人口減少問題に加えてインバウンドの本格回復というプラス面の変化も、人手不足に拍車をかけている。人件費は上昇し、供給制約が課された状態であり、工夫を凝らさなければ業務も資金も回らない。

以前みたテレビでは、インバウンドのお客をお寺に泊め、座禅などの修行を体験してもらうプランが人気を博していた。そのお寺の住職さんが、レポーターからこの先のビジネス展開について質問され「客数を減らして、客単価を上げる」と言っていた。つまり、御もてなしの質をさらに高め、その対価はしっかり頂くということだ。まさに高付加価値化のお手本のような答えである。

最近、経営者の方から「うちのサービスの値段を上げたら、お客は受け入れてくれるかなあ」といった吐露をお聞きする機会が増えた。そんな時、私に明確な答えがある訳ではないが「御社のサービスの適正価格はおいくらですか?」とお聞きしている。日本の経営者はデフレの中、コストを下げることで何とか生産性を維持してきた。しかしそれは、本来、適正価格の中に入れるべきものまで、価格から削ぎ落してしまったのではないだろうか。会社事業のオペレーションを継続し、顧客に十分なサービスを提供する従業員のモチベーションに直結する賃金すら削ってきたのではないだろうか。それを長い期間続けたことで、適正価格という感覚が麻痺してしまったように感じられる。

今年は2024年問題への対応が、いよいよ4月に始まる。今のまま行けば、運送や建築で幾つかの仕事が、ところどころで止まるという事態が起こるかもしれない。そのような供給制約に直面したとき、普通であればオペレーションを維持するため、価格を引き上げきちんと人を雇うが、価格の「適正」を忘れてしまった日本に果たしてそれができるのか。すったもんだが予想される。

ロボット・AIの拡大とともに、人のやる御もてなしの適正価格を取り戻すことが、これからの日本には必要である。「労働」に対して経営者はきちんと向き合っているかそこが問われている。人にしかできないサービスの価値は高いはずだ。ただ最近、エコノミストして、自分の仕事の適正価格を見つけることが重要だと偉そうに訴えているが、自分の講演の適正価格はいくらなのか。もしかしたら、昨年より安いかもしれないと、びくびくしている。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

総合政策研究部   常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任

矢嶋 康次 (やじま やすひで)

研究・専門分野
金融財政政策、日本経済 

経歴

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【御社のサービスの適正価格は?】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

御社のサービスの適正価格は?のレポート Topへ