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日本の稼ぎ方-自動車業界の構造変化

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
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1――自動車で稼ぐ “一本足打法”の日本
足元では、地政学的な分断や経済安全保障に対する意識の高まりなどから、日本を再評価する動きが起きている。この流れを確かなものに変えるには、日本のモノづくりの素晴らしさを世界に示し、稼ぎ続けていかなければならない。
ただ、高い産業競争力を有している稼ぎ頭の自動車業界も、これから起こる大きな構造変化に対し、大きな難題を抱えている。
2――国家的戦略で進められるEV化、日本は出遅れが鮮明に
多くの国では、エンジン車がまだ主流であるが、EV販売台数は2022年に世界全体で1100万台弱と新車販売台数に占める割合は14%を越え、今年に入っても加速している。各国の状況を並べると、日本の出遅れは鮮明だ[図表2]。また、中国のEV市場における各社の販売台数を見ても、日本企業は上位10社にも入ることができていない[図表3]。日本企業は、EVで1%の市場も獲得できていない状況にある。日本企業のEV戦略も巻き返す必要がある。
1 中国汽車工業協会が2023年1月12日に公表した、中国市場における乗用車の新車販売台数。
3――各国の投資戦略で熱を帯びる誘致合戦
特に強烈なのが、米国のインフレ抑制法である。インフレ抑制法は、気候変動対策やエネルギー安全保障の強化を支援するパッケージ、10年間で50兆円超の規模で実施される。EV分野では、北米に最終組み立て工場を持つことが条件であり、クリーン水素分野では、製造や投資に対する税額控除が導入され、実質ゼロコストの水素提供が行われる。米国でこれだけの支援策が打ち出されると、世界の企業が米国に工場などを作ろうとするのも自然である。
ただ、国というマクロの視点で捉えると、とりわけ自動車産業の裾野は広い。現在でも雇用は552万人(日本自動車工業会の推計)、輸送用機械産業(自動車以外も含む)の名目GDP比は2.4%(国民経済計算)を占めている。海外に生産が移行すれば影響は大きい。国内に製造拠点を残し、海外に販売するというルートを残すための施策が必要だ。
4――日本がすべきこと
1つ目は、外資系企業の力をうまく活かすこと。日本への対内直接投資は、対外投資に比べると規模が小さい。これは、外資系企業にとって、日本は投資魅力のない国であることを示唆している。この点について、もっと危機意識を持って取組む必要がある。参入障壁となっている制度や規制を1つ1つ改善すべきだろう。
2つ目は、日本の立地の優位性をアピールすること。最近日本が見直されているのは、世界が中国リスクを再評価した結果、中国市場への投資や工場といったものが、日本やインドに流れていることにある。台湾半導体大手のTSMCが熊本に工場を作ることを決めたことで、現地の印象はガラッと変わった。成長センターであるアジアや世界最大市場の中国に近いという日本の立地が、再評価されていることを、もっとアピールしていくべきだろう。
3つ目は、エネルギー分野のGX。これからの産業戦略において、エネルギーコストの低さや環境対応は競争力に直結する。日本でもGX基本方針が動き出すが、規模的には世界に見劣りする。限りある予算を効果的に活用するため、ピンポイントで戦略的な産業支援策に徹する必要がある。
今般の岸田政権は、経済安全保障を「成長戦略」に位置づけている。ルールを順守し、高い技術力を有する日本の信用力が高い。政策の予見可能性を高め、不確実性を減じることで、日本の立地面の再評価を後押しすることができるだろう。
日本の稼ぐ力を続けるためには、最低限上記の取組みは必要だろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年08月04日「研究員の眼」)

03-3512-1837
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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