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1998年から続く企業の資金超過-マネーフローに変化は起こるか?
総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
1――内部留保と設備投資
統計をみると、企業の設備投資は確かに増えている。GDPベースの設備投資を見ると、増加傾向が鮮明である[図表1]。最近では、デフレの定番であった更新投資に加えて、人手不足への対応、新商品の開発・製造に必要な設備投資などに踏み切る例が増えている。さらに、そこに経済安全保障に関わる動きも加わり、国内で大規模な設備投資が行われ始めている。
確かに建築資材などが高騰して、名目ベースの設備投資が膨れている面はあるが、物価影響を除いた実質ベースで見ても、来年度にはバブル期以降の最高水準を更新する。
2――コストカット経営の限界、付加価値の創出に投資は不可欠
消費者は、値上げを嫌う。しかし、世界的な物価上昇が続く中、値上げを受け入れざるを得ない面も出始めている。ただ、値上げする以上は、付加価値の追加を当然求めてくる。企業も、これまで安過ぎた製品やサービスの価格修正に動くはずだ。次に投入される商品は、新機能を加え、高くても消費者に受け入れられるものを出して来るだろう。
企業はバブル崩壊以降、労働生産性(付加価値額/労働量)の向上に対し、どちらかと言えば分母を小さくすること、いわゆる「コストカット」で臨んできた。しかし、これから賃上げしなければ、人が雇えない時代がやって来る。経済安保や脱炭素化なども加わり、様々なコストが上がることで、分母のコントロールは難しくなっていく。
今後、企業がやるべきことは値上げや付加価値を生み、分子を拡大することである。そのためには、人的投資をきっちり行って、実際に付加価値を生み出した人材に賃上げで報いていくことが必要だ。分子を最大化する経営に転換し、コストを削る経営からは卒業する。それが、設備投資や人的投資の増加となって表れ始めている。
3――投資増加の先、企業の資金余剰に変化は起こるか
例えば、金融機関の貸出金伸び率は、コロナ危機やリーマン・ショックを除いて、現行統計で遡れる1992年以降、過去最高の水準にある。ただ、その中身をみると、半分近くが不動産業と個人向けである。ここに設備投資資金が加わり、さらに増えていくか否かは、今後の注目点である。
また、家計・法人・政府・海外など経済主体別に金融資産残高を記録した、日銀の資金循環統計にも変化が生じる可能性がある。資金循環統計では、各経済主体の資産から負債を控除した差額を「資金過不足」として、各主体の資金過剰(貯蓄超過・投資不足)と、資金不足(投資超過・貯蓄不足)を表している[図表2]。
今から思い起こすと、企業部門が資金余剰主体に転じた1998年以降、日本経済はおかしくなった。企業は資金を設備投資に回さなくなり、借金をどんどん返す経営を続けて経済不況に陥った。マネーフローが変化することで、今まで良くなかった面が変わることもあるはずだ。企業が活性化することで家計の所得が増加し、税収も増えて財政が改善する。そうした好循環も描くこともできる。
ただ、企業が資金不足になれば、政府の財政赤字も簡単には許容されなくなる。国債を中心としたマネーフローは転換を迎え、金利にも上昇圧力が加わりやすくなる。今後の構造変化には、より大きな注目が集まるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2023年08月08日「研究員の眼」)
03-3512-1837
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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