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貿易立国で好循環を目指す

総合政策研究部 常務理事 チーフエコノミスト・経済研究部 兼任 矢嶋 康次
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1――大きく変わった日本の経常収支構造
同じ先進国の経常黒字国として、日本とドイツは比較されることがよくあるが、その経済構造は大きく異なる。経常収支の内訳をみると、日本は所得収支が大幅に黒字となっているのに対して、ドイツは貿易収支が大幅な黒字となっている[図表1]。日本の所得収支黒字は、主に投資収益(親会社と子会社との間の配当金や利子等)によるものであり、企業の海外進出が進んだことで、海外で生じる儲けが多いことを意味する。一方、ドイツの貿易収支黒字は、自国経済の実力に比べて割安なユーロを使い、輸出競争力を高めてうまく外貨を稼いでいることを意味する。
日本が国としての競争力を取り戻すためには、5-10年後の日本産業の姿として、持続的に貿易黒字を生み出せる構造、すなわち「貿易立国」を取り返す必要がある。
2――貿易立国が現実的となる外部環境
1つは、国内で起きている変化。日本経済が長引くデフレからインフレに変わり、企業の設備投資や研究開発投資などの目線は、上向きに変わっている。そして、もう1つがグローバル環境の変化。世界の分断が進む中、日本の再評価が起きて、中国等から日本にサプライチェーンを組み換える動きが始まっている。
日本企業の国内回帰、海外企業の日本投資の動きは、当面継続することが見込まれる。「貿易立国」を取り戻す、千載一遇のチャンスが巡って来た。
3――デジタルリアルの実現で日本の製造業復活のシナリオ
![[図表2]日本の貿易収支](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/78777_ext_15_2.jpg?v=1718172249)
足元では、地政学リスクの高まりや円安進行により、エネルギーの輸入額が膨張し、貿易収支が大きく悪化している。また、輸出面では、自動車輸出が増加基調にあるが、輸入の増加を補うほどには増えておらず、貿易黒字を一頃支えた電気機器収支も赤字に変わりつつある。輸出入両面での改善が求められる。
この貿易収支の改善に向けてやれることは色々あるが、ここでは「エネルギー」「デジタル化」の2つについて強調しておきたい。
近年、企業にとってエネルギーの重要性は増している(参照:予見可能性の高いエネルギー基本計画・改定はできるのか?)。世界的に経済安保の観点等から企業の誘致合戦が起きているが、企業が立地を選択するうえでは、エネルギーや電力の安定供給が確保されていることも重要である。日本は、まだそれができていない。世界的に環境規制が強化される中、海外由来の化石燃料に高く依存し、電気の価格も海外に比べて高い。そうした不透明なエネルギーの予見性を高め、安価で環境負荷の低い電気として安定供給を図ることは今後、社会のデジタル化を進めるうえでも大きなポイントとなる。今年は、日本の中長期的なエネルギー政策の方向性を決める「エネルギー基本計画」が改定される。この議論は、「貿易立国」を実現するうえでも極めて重要である。
![[図表3]デジタルが内包する世界(イメージ)](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/78777_ext_15_3.jpg?v=1718172063)
世界を見回した時、製造業をフルラインナップで有している国はほかにない。日本のサービス品質は高く、日本式の安心安全の作り方や社会体制は、デジタルリアルの世界でも大いに生きるはずだ。デジタルの世界では完敗した日本も、リアルと接続した世界では復活できる。それが競争力を持ち、輸出を増加させ、日本や日本企業の勝ち筋となる。貿易立国として、世界に売れるものができる。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年06月12日「研究員の眼」)

03-3512-1837
- ・ 1992年 :日本生命保険相互会社
・ 1995年 :ニッセイ基礎研究所へ
・ 2021年から現職
・ 早稲田大学・政治経済学部(2004年度~2006年度・2008年度)、上智大学・経済学部(2006年度~2014年度)非常勤講師を兼務
・ 2015年 参議院予算委員会調査室 客員調査員
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