2023年04月27日

投資経験の拡がりと今後の意向-経験者は増えるものの課題はリテラシーの向上

生活研究部 井上 智紀

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4――分析結果の総括とインプリケーション

以上みてきたように、全体では投資の経験はなく、今後の意向もない者が半数近くを占めて最も多く、5年以上の経験を有するものが2割程度、コロナ禍に入ってから投資を始めた投資経験3年未満の者と、今後始めたいとする者はそれぞれ1割程度に留まることが明らかとなった。属性別では投資経験がある者は男性で多く、年代別では3年未満または今後始めたいとする者が20代では2割を超えるなど、若年層を中心に今後も投資家の裾野の拡大が見込める様もみてとれた。また、投資経験がある者の投資先では、「株式」、「株式投信・ETF」の順に多く、NISA制度の利用はそれぞれ3割前後となっており、投資経験が浅い者では「つみたてNISA」が高く、5年以上の経験がある者では「株式」が突出して高くなっているほか、「株式投信・ETF」、「一般NISA」も高いなど、投資経験の程度により投資先や制度の利用状況に差異があることも明らかとなった。同様に投資経験者および今後始める意向がある者が今後利用してみたい投資先・制度では、「株式」、「つみたてNISA」、「一般NISA」の順に多くなっているものの、3年未満および今後始めたい者では、「つみたてNISA」が高く、投資経験が3年以上の者では「株式」、「一般NISA」、「株式投信・ETF」が高いほか、2~5年未満では「仮想通貨」も高くなっているなど、今後の投資先や制度の利用状況も投資経験・意向により異なることが示された。

これらの結果が示すように、コロナ禍にあった3年間、投資経験者の裾野は若年層を中心に着実に拡がっており、こうした裾野の拡大には、つみたてNISAの寄与があったことは間違いないように思われる。しかし、投資経験や投資先・制度の利用状況、今後の意向については性別や職業によっても差がある上、つみたてNISAが投資信託を対象とする積立投資の制度であるにもかかわらず、利用率では「つみたてNISA」の方が「株式投信・ETF」を上回っているなど、投資経験の浅い層においては、必ずしも十分な金融リテラシーを有しているとはいえない状況にある可能性もあるのではないだろうか。一方で、5年未満の投資経験者の中には、仮想通貨に投資したり、今後の投資先として関心を持つ者も見受けられる。数年の投資経験を経る中で多様な投資先にも視野が拡がることは避けられないものの、十分な金融リテラシーもないまま、仮想通貨などボラティリティの高い金融商品を投資先とすることは、家計にとって深刻なダメージをもたらすリスクを抱え込むことを意味している。

今回の調査結果では、今後投資を始めることを希望する者は1割程度に留まるものの、賃金の動向など今後の社会経済環境の変化によっては、投資家の裾野のさらなる拡大も見込まれよう。こうした若年層を中心とする新たに投資を始めようとする者にとって、つみたてNISAが有用な受け皿となることは言を俟たないものの、制度の仕組み上、口座開設時やNISA口座内で購入する金融商品を選択する際を除けば、殊更に投資に伴うリスクを意識する必要がなく、金融リテラシーを高める機会も得られない。前述の通り、数年の投資経験を経る中で、多様な商品への投資にも関心を寄せるようになることを前提とすれば、つみたてNISAの枠外にある多様な金融商品・投資先に関する知識を含めて、少しずつでも金融リテラシーを身につけていけるような仕組みも考えておく必要があるのではないだろうか。
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